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21世紀型スキルに必要なもの [ブータン]

成人にも21世紀型スキルを
ASE to equip adolescents with 21st century skills
Phurpa Lhamo記者、Kuensel、2022年5月21日(土)
https://kuenselonline.com/ase-to-equip-adolescents-with-21st-century-skills/
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【抄訳】
成人や若者に早い段階で21世紀型スキルを身に付けてもらうため、昨日、ブータン成人技能・就業可能性強化プロジェクト(Adolescents Skills and Employability (ASE) )がローンチされた。チミ・ヤンゾム・ワンチュク王女、ブータン青年開発基金(YDF)代表が、国連や政府機関、市民社会組織の体表者とともにこのプロジェクトの発足を祝った。このプロジェクトは、全国64の学校と10のユースセンターにおいて、10歳から24歳までの約1万人の子どもが関与して実施されるもの。

この1年間のプロジェクトでは、小規模なブートキャンプや全国レベルでのブートキャンプと表彰、ワークショップなどが開催され、生徒は自分のアイデアをピッチできる。実施機関である教育省は、マスタートレーナーによる担当者向け研修をスタートさせる。

ユニセフのブータン事務所長であるウィル・パークス博士によると、マスタートレーナーと各関係機関担当者が、ASEを次の2つのプラットフォームを使って展開していくのだという。1つはUPSHIFT(若者のソーシャルイノベーション・ソーシャルアントレプレナーシッププログラム)で、成人や若者を支援して、地域の課題を特定してソリューションをデザインする能力を高めてもらおうとするもの。もう1つはUNISOLVEというデジタルプラットフォームで、若者が必要とするスキルを開発できる。ASEとUPSHIFT、UNISOLVEの三者が、グローバルなマルチセクターパートナーシップである「世代無限大(Generation Unlimited)」プラットフォームを形成し、世界中で18億人の若者世代が生産的で社会構成員として成長していけるよう支援していくのだという。

64の学校は、初等学校から高等学校まで、全国から選ばれる。教育省関係者によると、私立学校も何校か選ばれるという。また、地理的にも農村・都市で20県すべてで平等に配分される。各校から最低50人がプロジェクトに参加するよう選ばれる。

教育事務次官代行のカルマ・ゲレ氏によると、ASEは現在進行中の教育セクター改革を補完するものだという。同省の改革には、学校教育改革のメインプラットフォームとして採用された「ブータン・バカレロア」も含まれる。21世紀型スキルを生徒に身に付けさせることを強調する改革である。

ウィル・パークス博士は、基礎的スキルやデジタルスキル、特定ジョブに応じたスキルに加えて、若者は学校や日常生活、仕事などで生かせる21世紀型スキルを必要とするのだと述べた。21世紀型スキルとは移転可能なスキルまたはライフスキルとしても知られ、若者がアジャイルな学習者、グローバル市民となっていくのを認め、個人の課題や社会の課題、アカデミックな課題、経済面での課題等への解決策を自ら見出していく力を高めるものだとする。(後略)

ASEはYDF、ローデン財団、ユニセフとのパートナーシップに基づき、教育省が実施機関として実施される。

この報道は、5月21日にクエンセルが報じただけでなく、20日夜にはBBSもテレビのニュースで報じていた(Preparing Bhutanese youth to be life long learners and contributing citizens)。相当長尺の報じられ方だったので、どちらの記事を使おうかと迷うところではあったが、ヘッドラインに「21世紀型スキル」を用いたクエンセルの記事の方を採用することにした。いずれにしても、それだけ重要度の高いニュースだということだ。

僕自身も、このところ、自分の論点を説得的にするために、「21世紀型スキル」という言葉を頻繁に用いるようになった。元々この言葉を知ったのは3月にもご紹介した『FAB CITIZEN DESIGN GUIDE BOOK』の中でのことだが、一応原典にも当たっておこうと思い、国際研究プラットフォームATC21SのHPも読んでみたりした。

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そこから自分なりに理解したのは、「21世紀型スキル」というのは、たとえそれが教育分野での開発協力であろうと、コミュニティ開発分野での開発協力であろうと、はたまた農業分野の開発協力であろうと、開発協力に従事する関係者はあまねく意識していないといけないスキルセットなのだということであった。教育省やユニセフが、教育分野からのアプローチだけでどれだけ21世紀型スキルを習得できると思っているのかはわからないが、学校の中だけでそれは実現できるとは思えない。学校を越えて地域社会とのつながりを作っていかないといけないし、場合によっては近隣の職業訓練校や、大学とのつながりも求められていくのだろう。

身の回りの問題を特定し、解決策をピッチするのはいい。でもそれだけだったがすでに大学レベルでビジネスアイデアコンテストやスタートアップウィークエンド等の取組みがある。そこでの問題は、ピッチされたアイデアを具体的に形にするための試作実行可能な環境とつながっていない点にある。いいアイデアがあっても、形にするための環境が整えられていない。整えられていないのではなく、環境は少なからずあるのに、つながっていないのだ。

前述の『FAB CITIZEN DESIGN GUIDE BOOK』は、そうした環境をそれぞれの地域で提供できるのが地域のファブラボだと述べている。また、日本では高校のレベルでファブ施設を整備して21世紀型スキルの修得促進を学校レベルで図ろうという取組みもある。ごく最近の例では、広島工業大学高等学校がSTEAM教育に特化した教室「クリエイティブ・ラーニング・ラボ」を開設したと報じられている(⇒こちら)。学校レベルでというところにはブータンはまだとても行っていないが、ティンプーの「ファブラボ・マンダラ」に加えて、6月以降、パロ、ロベサ、ゲレフ、そしてプンツォリン(ファブラボCST)と順次オープンしていくので、このASEというプロジェクトも、各地でブートキャンプを施行するなら、少なくとも近隣のファブラボとは施設利用に関して何らかのアレンジを検討した方がいい。

それは「ファブラボCST」も同じ。せっかく形成されつつあるプンツォリン・ユースセンターや市内の学校とのコネクションは、このASEというプロジェクトをちゃんと念頭に置いて、発展させていくことが求められると記事を読んでて思った。教育省やユニセフの側から本来なら各ファブラボにアプローチがあってもいい話だと思うが、おそらく彼らがアプローチできるとしてもせいぜいファブラボ・マンダラぐらいだろう。各地域レベルでは、こちらから意識的に働きかけをしていかないといけない。

それにしても、この記事を読みながら、教育省やユニセフが「生涯学習」と言いつつ10歳~24歳の子どもや若者にターゲットを当ててこのプロジェクトをやるのはいいにせよ、25歳以上の大人に対する「生涯学習」は要らないということなのでしょうかと複雑な心境にもなった。僕自身は50代になってから一種の宗旨替えをして、それまでやっていたゼネラリスト的な仕事から特定の分野に特化した仕事を指向するようになってきたが、ふだんからこちらの大人と接していて、「僕でもできるんだから、ちょっとやってみませんか」とお誘いしても、「私にはわからない」「難しそうだから」と敬遠されてしまうことが多い。

別に、21世紀型スキルをすべて教員が教えられるとは思っていないし、教えるべきでもないが、少なくとも、不完全であっても大人もそのスキル修得を目指しているんだよという姿勢は子どもたちに見せないといけないのではないかと思う。わからなければわかっている子どもに教えてもらうとか?21世紀型スキルの構成要素の1つは「チームワーク」や「コラボレーション」であるわけで、別に教えなくてもいい。大人であっても、教員であっても、子どもたちの学習の輪に入って一緒に取り組む姿勢が必要なのではないかと思う。ASEがそこまで意識した建付けになっていると嬉しいのだけれど。

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