SSブログ

『FAB CITIZEN DESIGN GUIDE BOOK』 [持続可能な開発]

FabCitizenDesignGuideBook.jpgFAB CITIZEN DESIGN GUIDE BOOK
應義塾大学SFC研究所、ファブ地球社会コンソーシアム、2022年3月23日(水)
https://www.fabsteps.org/
「はじめに」より
本プロジェクトの母体となる「ファブ地球社会コンソーシアム」は、2015年に文部科学省COI(Center of Innovation)に採択された基礎研究の成果を社会に広げていくために設立されました。本コンソーシアムでは、技術と社会が重なり合い到来しつつある「ファブ地球社会」において、共通の課題となる技術、流通、社会、福祉、そして教育の5つのワーキンググループをつくり、研究活動を行ってきました。

本報告書は、2016年よりコンソーシアム内の教育や人材育成のワーキンググループ「高大連携ワーキンググループ」と、それらが発展し2019年から開始した「ファブシティズン デザインワーキンググループ」の活動を総括したものです。

特に、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を用いた「ものづくり」を軸とした探求行為を、FAB(ファブ)と位置づけ、教育機関はじめ、地域、企業の枠組みを越えた、新しい仕組みづくりを積極的に行ってきました。これまでの6年間の活動から得た知見を、「持続可能な社会を担うひとやまちを育むための学びの実践ガイドブック」としてまとめています。

未来を担う世代、そうした世代の教育に関わる関係者や保護者の方々に対して、それぞれにあった形で 未来に対しての手引書になれば幸いです。

一昨日の記事「ブータン人間の安全保障上の課題」の中ですでにご紹介した通り、先週、このガイドブックの公開記念イベントがオンラインで開催された。このコンソーシアムの関連で「ファブ地球社会/創造的生活者シンポジウム」というのが2016年3月に慶應義塾大学三田キャンパスで開催された時も、僕は大学受験に失敗した長男を連れて会場にいた。その長男は今や修士1年目を終えようとしていて、自分で言うのもなんだが、着実に「ファブシティズン」の道を歩んでいる。

もちろん、僕もである。電子工作や回路自作などでは長男の足元にも及ばないが、少なくともTinkercadの操作に関しては、意外とできるオジサンである。しかも、それを英語で現地の小中高生に教えられるオジサンになりつつある。

Japanese Clan Symbol - Wisteria (1).pngGyro Keychain (3).png

今月、12日から週末3回にわたり、小中高生向けTinkercadオンライン研修というのをやった。のべ102人からの応募があり、12日、19日に、午前の部、午後の部とホストした。この2週についてはファブラボ・マンダラのスタッフにインストラクターを頼んだが、26日の補習回は、時間を60分に短縮し、僕自身がインストラクターを務めた。「何をデザインしたい?」と訊かれてもすぐにはアイデアが浮かばない子が多いため、補修回は最初から「〇〇を作ろう」とあらかじめ枠組みを示して、その中で小中学生にカスタマイズをやってもらうことにしてみた。枠組みを示したのは、放っておいたらアイデアがなかなか出ないという理由だけでなく、「ペンダント」「バングル」「リング」「キーチェーン」といった比較的小さいものにしてくれれば、出来上がったデザインで3Dプリントしても時間はそれほど要しないと考えたからでもあった。

子どもの吸収力はすごくて、1時間程度基本操作を教えただけで、かなりのデザインを自分たちで考えてくれるようになる。首都のロックダウンもようやく明けたので、4月に入ったら実際にファブラボに子どもたちを招いて、実際に3Dプリントしちゃおうというところまでやろうと僕たちは考えている。

そういう実践をブータンではじめている中で、次のステップとして何に配慮すべきかを考える上で、このガイドブックはとても参考になった。

つくりながら学ぶプロセスは、複数の要素で構成されていることも特徴の一つです。それらは、アイデアの出し方、データの作成方法、機材の扱い方と多様です。学習者は、次から次へと出てくる課題に向き合い、小さな解決を繰り返し、スキルアップしながら制作を進めていきます。試行錯誤を含めた一連の流れの繰り返しこそが、学び方を学ぶ能力を育んでいくことにつながっています。(p.9)

つくりながら学ぶために大切な3つのキーアクションとして、本書では、①ためす(作りながら多様な世界に触れ、自分を試す)、②ひらく(活動を公開して可能性をひらく)、③つながる(いろいろなスキルを持つさまざまな人とつながり、つながりの中で学ぶ)というのを挙げている。

これに照らし合わせて今僕が当地ではじめたことを振り返ってみると、製作のプロセスや結果を共有するというところまではまだ行けてないというのに気づかされる。オンラインでやっている限りは難しい部分ではあるが、これまでのブータンでのファブの取組みにおいても、この「共有」とか「公開」といったものが、あまり意識されてきたとは言い難い。

また、こういう、自分自身でテクノロジーを理解し、利用して自分自身でものを作るというのが、どうもうちの派遣元でうまく咀嚼されていないのも気になった。「DX」というのはいいが、テクノロジーをブラックボックス化して、その中身がわかっているIT企業に外注するというやり方をしていたら、このコンソーシアムが目指しているSTEM教育による21世紀型スキルの習得というところとは、いささか親和性に欠けていると言わざるを得ない。

実際に「つくる」ことを通じた学び方の普及や、世代、国籍、国境を越えた分散型地域連携型の教育カリキュラムの推進、STEM教育を下支えするプロフェッショナル人材の育成といった、「新しい学習のあり方」をこのガイドブックが提案している点にはとても共感する。また、第3章で紹介されている「ファブ3Dコンテスト」のようなプラットフォームも、今後進めてみたいと思わせる有用な情報だった。

ただ、そんな調子で読んでいくと、第4章「FAB×〇〇 ファブと新しい領域を切り開く実践者たち」の後半の方に行って、企業が出てくるあたりから、ちょっとわかりにくくなった。おそらく、自分が今実践をはじめているところから遠いからだと思うが、企業における「21世紀型スキル」習得促進の取組みが、ちょっとレベチすぎだという印象を受けた。

第3章で、息子と一緒にファブラボに通っているうちに、ファブラボのスタッフになってしまったお母さんのお話しが出てくるが、そういうストーリーが紹介されている点には親近感を感じる。同じような文脈で言えば、超文系人間は「21世紀型スキル」をどうやったら身に付けられるのかとか、工学系やアート、デザイン系のバックグランドを持たない僕のようなオジサンでも、定年近くになって一念発起すれば「21世紀型スキル」というのは習得できるのかとか、そういう手の届くところのケースがもっと盛り込まれていたら、勇気づけられるのになという気はする。

nice!(8)  コメント(0) 

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント