2カ月間、3Dプリントを習ったなら [仕事の小ネタ]
先週、労働人材省がソーシャルメディア上でこんなアナウンスをした。
チュメ職業訓練校(TTI)で、2カ月間の3Dプリントの研修があるらしい。対象はクラス12修了生、定員は20名。4月18日から研修開始し、2カ月行われるとの由。しかも、1ヶ月3,500ニュルタムの研修手当の現金給付あり。もちろん、会場はチュメTTIなので、宿泊施設は提供される。
チュメTTIには、以前青年海外協力隊員も派遣されいていたのだが、2018年7月で離任した後、日本からのボランティア派遣はなく、その後韓国のシニアボランティアが長期派遣されていた。あいにく、この方は新型コロナ感染拡大を受けて任期短縮して帰国されたが、その際、3Dプリンターを1台、労働大臣に寄贈していかれた。大臣への寄贈だから、労働人材省の本省で保管されているのかと思っていたら、元々の配属先だったチュメTTIで運用されるということなのだろう。
なお、このシニアボランティアの方の職種は決して3Dプリントだったわけではない。趣味で3Dプリンターを持ち込まれたそうで、それを利用して、透かし絵入りの照明機器を試作された。チュメTTIで指導されていたお仕事とはあまり関係がない、あくまで趣味の話だと聞いている。
ここからは未だ裏が取れていないのだが、この韓国のシニアボランティアが、今回、労働人材省の技能開発プログラム(SDP)のために短期招聘され、この研修のインストラクターをされるらしい。
今、そのシラバスも入手できないかと画策中だ。どうやったら2カ月も研修できるのか、僕には興味がある。集中してやるのはそれはそれでいいことで、短期だと相当端折られてしまうフィラメントの選択とか品質管理の話とか、アドヒージョンやヒートノズルの目詰まりの解決法とか、さらにはファームウェアのパラメーター操作とか、フィラメントの調達方法とか、実習に加えて相当な情報を詰め込めるに違いない。(短期決戦だと、トラブルシューティングで時間を取られたくないので、フィラメントは熱収縮が起きにくいPLAを使うことが多い。)
ただ、一方で、僕が半日でもしんどいと思っている3Dプリント技術の指導が、それじゃ2カ月も必要なのかというとそうでもない。確かに、合宿形式というのはそれだけに集中できるという意味ではメリットはあるが、それにしても2カ月は長すぎで、何かを付け加えないと間が持たせられない。しかもチュメTTIが持っている3Dプリンターは1台だけである。自分の経験上、1台の3Dプリンターに対して生徒は4~5人というのが、学習効果を保証できる上限である。それを、定員20人でやろうとしている。
僕がシラバス入手を画策しているのはこうした事情からだ。できることなら、一度このインストラクターの方か、労働人材省の担当者の方に取材もしてみたいぐらいだ。あえて失敗も経験させるということも込み込みで2ヵ月というのならなかなか考えられている。3Dプリントの前のモデリングでも、複数のモデリングソフトでの操作に習熟させられるだろう。一昨日ご紹介した『FAB CITIZEN DESIGN GUIDEBOOK』の中でも強調されていた、「活動の公開」や「共創デザイン」の重要性も、実習を通じて学べるよい機会となるだろう。そして、チュメのように農業と木材加工以外の産業がないところで、3Dプリントが生かせる仕事の可能性をどのように受講者に理解させるのかにも興味がある。
そして、うまくいけば、6月末までには、おそらくブータンで最も3Dプリントのスキルの高い人材が輩出され、それが僕がいるプンツォリンのファブラボCSTを含めた国内各地のファブラボの下支えとなっていくだろう。僕たちにとってもメリットがある話なので、うまくいって欲しいと期待している。
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それにしても、研修手当というインセンティブが付くのには驚いた。僕らの感覚としては、自分が本当に身に付けたいと思っているスキルを学ぶ研修には、自ら受講料を払って受けるのが当たり前なのだが、どうやらここでは受講者を集めたい主催者が研修受講者に対して現金給付というインセンティブを与える習慣があるらしい。「研修受講謝金」とでも言ったらいいんだろうか。これは、ブータンで政府機関と組んで人材育成に主眼を置いた開発協力をやろうとして、多くの人が面食らう習慣である。
幸い、僕は学生や小中高生を相手にすることが多いので、現金給付というインセンティブを餌に受講者を釣るというのは免れている。その分、せっかく準備したのに肝心の受講者が現れないという肩透かしもよく経験するが。でも、その大学生と小中高生の端境期であるクラス12修了生に対して、現金給付をやってしまうところには少なからず違和感がある。これは彼らが人生で初めてもらう研修手当だろう。将来にわたっても、研修を受けるとお金がもらえるのが当たり前だと思われたら嫌なのだが…。
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