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『なぜローカル経済から日本は甦るのか』 [読書日記]

なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

  • 作者: 冨山 和彦
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: Kindle版
内容紹介
グローバルとローカルの経済圏を区別せずにその施策を考えていたため、格差問題が生じ、日本経済は停滞してしまっていた。グローバル企業がいくら稼いでも、日本経済全体の占有率は3割にすぎない。雇用にいたっては、2割程度である。残り7割のローカル経済圏が復活してこそ、初めて成長軌道に乗ることができる。内容例を挙げると、「GとL」を理解すれば格差問題の実相も見えてくる、日本のグローバルプレーヤーが長期的に後退してきた本当の理由、大企業と中小企業ではなくグローバルとローカルで分ける、ほとんどの産業がローカル経済圏のプレーヤー、「コト」消費の時代の到来で「GもLも」戦略に追い風が吹き始めた等々。そして、今、労働市場で人類史上発の巨大なパラダイムシフトが起きている、と著者は主張する。GDPや企業の売上が緩やかに減少していく中で、極度の人手不足が起こっているのだ。日本経済復活へのシナリオを明らかにする一冊。
【ラーメン颯文庫棚から拝借】
先週の行動制限緩和以降、外食もできるようになり、さっそく訪れた「ラーメン颯(HAYATE)」さんで、注文して待っている間に文庫棚をあさって、1冊お借りしてきた。その前の週に日本の地方開発の経験についてブータンの学生に対してオンラインで講義する機会があったので、関連しそうな文献で当地で読めそうなものは後付けでも読んでおこうと考えたのがその理由。誰が置いて行かれたのかは存じませんが、ありがとうございます。

ただ、ちょっと古いかな。多作な著者なので、議論がいささか古くなっているような気がする。内容については上記の囲みの中で紹介したことがほぼすべてだが、著者のバックグランドからして、ローカルといっても、経営者と従業員がわりとクリアに分かれている企業が中心。本書が世に出て以降に広まってきた「関係人口」の議論とか、「経営者=従業員」のようなマイクロ起業の可能性についてはほとんど言及されていない。

本書が出てきたのは、あの「増田レポート」の発表直後で、著者の立場もわりと増田レポートに好意的な言及があるだけに、それへの反論として言われ始めた「関係人口」とは、立場が違うということなのだろう。ローカルの人口は固定と考えられており、増田レポートの反論でよく言われる、都市ー農村間の一時的人口移動の可能性や、ラップトップとインターネット接続があればどこに行っても仕事ができる、ギグワーカーの存在については、言及すらされていない。

もう、年齢的に、「日本は~~たるべき」というような大所高所の議論は、していても地に足がつかないフワフワ感が拭えず、自分はだんだん興味をなくしてきている。むしろ僕の関心は「Lの世界(ローカル経済圏)」の方なのだが、それでも本書は地域経済を論じてていて、とっつきにくさはあると思う。著者も好意的に述べている「六次産業化」も、想定されている規模感が結構大きい。

とはいえ、著者の言う「Lの世界」を整理すると、次のようになる。

市場
・非製造業、中堅、中小企業が中心(GDP、従業員ともに60~70%超の世界)
・ローカル経済圏での不完全競争(密度の経済性、分散的な産業・競争構造

商品
・コト、サービス(基本的に対面型)
・生産と同時のその場で消費される(同時性・同場性)

雇用
・空洞化が起きにくく、長期的にも増加が見込まれる
・労働集約型(平均的技能を持つ人材が求められ、賃金が上がりにくい)

特徴
・不完全競争市場であるため、市場による規律が働きにくい(顧客の商品選択の自由が限定的)
・労働力不足がより深刻化するため、労働生産性の向上は喫緊課題
・経常収支的には赤字経済圏であり、それを少しでも減らすためにも生産性向上は重要


・交通(鉄道、バス、タクシー)・物流
・飲食・宿泊・対面小売
・社会福祉サービス(医療、介護、保育等)(p.45)

その上で、ローカル経済圏の中核にあるサービス産業において、労働生産性を上げるための望ましいアプローチとして、「ベストプラクティス・アプローチ」を挙げている。別の企業や事業体が行う似たようなパフォーマンスを自社にも取り入れ、労働生産性を上げようというものである。ローカル経済圏のサービス産業では、同一地域にいなければ競合関係にはならないため、他の地域で行われているベストプラクティスを開示しやすいと指摘している(p.186)。

著者の文脈とはちょっと異なるが、地域づくりの文脈では秀逸な取組みに注目した事例紹介が様々なメディアで行われている昨今だが、それはそれで意味があることだと言えるのかもしれない。

ただ、そうはいっても、著者の言う「Lの世界」はやっぱり広めで、「労働生産性」というレンズで捉えている時点で、少し違和感もあった。そういう目で見ていれば、当然「コンパクトシティ」も支持することになるが、コンパクトシティって、都市の効率化にはいいかもしれないが、人の感情的な部分への配慮はあまりなされていない机上論な気がしてしまう。

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