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『源氏将軍断絶』 [読書日記]

源氏将軍断絶 なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか (PHP新書)

源氏将軍断絶 なぜ頼朝の血は三代で途絶えたか (PHP新書)

  • 作者: 坂井 孝一
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Kindle版
内容紹介
●「承久の乱」へと続く、幕府内の壮絶な権力闘争の歴史とは? ●2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』時代考証者が描く源氏三代「新解釈」。日本史上初の本格的な武家政権である鎌倉幕府では、創設者頼朝の源氏の血統は三代で途絶え、継承されなかった。跡継ぎのいなかった三代将軍実朝の暗殺がこの「断絶」を招いたとされるが、その当時、二代将軍頼家の遺児、あるいは他の源氏の血を引く人々も存在した。にもかかわらず、なぜ彼らは将軍になれなかったのか。そもそも実朝の暗殺が源氏将軍の断絶を招いたのは、自明の理なのか。頼朝による鎌倉幕府の樹立から三代将軍実朝の殺害に至るまで、幕府内の壮絶な権力闘争の歴史を紐解きながら、「源氏将軍断絶」の歴史的な意味を問い直す1冊。
【Kindle Unlimited】
先週末は伊東潤『夜叉の都』を読み、鎌倉時代絡みで次は何か新書版を読みたいなと思っていた。最初は『承久の乱』を考えたのだが、同じ著者がKindle Unlimitedでも近著があるというのに気づき、だまされたと思ってそちらを読んでみることにした。「0円」の魅力には勝てない。

新書の割には280頁とちょっと分厚い。何度もブログで愚痴ってきたロックダウン4週目、本当に集中力が続かなくなり、読書にも身が入らなくなった。お陰で序盤の100頁ほどは本当にダラダラ読んでいて、週末を迎える直前でもまだ30%を超えるところまでしか読めていなかった。さすがに週跨ぎにはしたくなかったので、12日(土)は集中して読込み、なんとか1日で読了するところまでこぎ付けた。

僕はあまりこの頃の歴史書を読んだことがない。せいぜい、以前大河ドラマで平清盛が取り上げられた2012年頃に、平家のことを扱ったものを何冊か読んだぐらいだ。だから、2018年末に本書の著者が『承久の乱』を著し、それが結構売れた頃、機会があれば読んでみたいと思っていた。中公新書では、2016年頃から『応仁の乱』『観応の擾乱』と立て続けにベストセラーを出していたので、大河ドラマとは関係なく「日本の内乱」シリーズみたいな感じで上がってきた企画だったのだろう。

特に、初代の鎌倉幕府将軍・源頼朝に比べて、二代の頼家も三代の実朝も、日本史の教科書ではサラッと流されることが多くて、頼家の在位がわずか1年だったのはともかく、実朝の在位が16年もあったというのは、なかなか気づかないことだ。

頼朝にしても、1192年の鎌倉幕府創設の部分ばかりがフォーカスされるが、将軍となってから不慮の事故で亡くなるまで、在位期間が11年にも及ぶというのも、意外と気付かない。日本史では、源頼朝は「鎌倉幕府を開いた」としか教わらないからだ。そのため、創設されたばかりの幕府の体制を整備するのに頼朝が11年間の間にやったことは何かと訊かれて、ほとんど思い浮かばないということが起きる。(その部分を読んでいて今回は序盤で時間がかかり過ぎた。)

頼家や実朝の話に戻すと、伊東潤の作品では、2人とも母親の北条政子の重いとは裏腹に、手に負えない将軍家に変貌を遂げていくシーンが続いた。それは先週末にYouTubeで見てみた大河ドラマ『草燃える』総集編で郷ひろみが演じていた頼家についても言えた。だから、本書を読んで、頼家も意外とまともだという説を知り、かなり意外だった。

この時代の記録として一次史料がものすごく少ないらしく、本書で引用されているのも『吾妻鏡』や『愚管抄』が中心だが、特に前者は編纂当時の権力者である北条得宗家の側からの記述で、北条義時や泰時をことさらに高く持ち上げる編集が意図的に行われているらしい。このために、意図的に頼家を貶める描写があるのだと著者は指摘している。頼家の「暴君」イメージはそんなところから来ているのかも。

大河ドラマ『草燃える』では、その後、実朝役を篠田三郎さんが演じておられたが、頼家の登場と退場の仕方があまりに劇的で、実朝の描かれ方がものすごくあっけなかった。それだけ、実朝の在位期間が短いと勝手に思っていたが、これがなんと初代将軍・頼朝よりも長かった。若干12歳で即位して、それから28歳まで将軍の座にあった。

実朝も、初期の補佐は執権だった北条時政らが主導したのかもしれないが、10代も後半になってこれば将軍としての風格も備わり、自身の政権構想も生まれてきても不思議ではない。伊東潤『夜叉の都』では、兄・頼家に対する母や叔父(北条義時)の仕打ちを見ていた実朝が、自分もいずれそういう扱いを受けるのだと悟り、そんな不幸は自分の代で終わらせようと考え、敢えて子をもうけず、「親王将軍」構想をぶち上げたのだという描き方であった。また、実朝といえば巨大唐船建造計画の失敗が有名で、伊東作品でも現実から逃げ出したい実朝が自ら乗り込んで宋に向かおうとしていた、その後釜として将軍を都から招聘しようと考えたという立場を取っていたが、本書では渡宋にはそれなりの思惑もあったとの見方を示している。

それで何が言いたかったかと言うと、本書を読むと、伊東作品と比べて、実際の頼家や実朝は、それなりにしっかりとした政権運営をしていたのではないかという説が近年研究者の間で言われはじめているというのがわかる。著者自身の推論も相当含まれている。著者の書き方のスタイルだと思うが、著者自身の推論に関して、「私は」という一人称主語をまったく用いず、「本書は~だと考える」と主語を客観化させる描き方をしたりしているのは気になったが、いずれにしても、幕府の二代目、三代目のリーダーは、それなりにまともな人だったというのが本書を読むとわかる。

さらに言うと、本のタイトルは『源氏将軍断絶』なわけで、ポイントは、①なぜ将軍は「源氏の棟梁」でしかなれないということになったのか、②源氏も様々な系統がある中で、なぜ頼朝の系統しか「源氏の棟梁」になれないということになったのか、③実朝が公暁に暗殺された後、他の源氏の系統からではなく、都から後鳥羽上皇の皇子を将軍として招こうとしたのはなぜなのか、といった、敢えて訊かれても僕らがなかなか答えられないような質問に対して、それなりの答えを提示してみることだったのだろう。

鎌倉の地図や家系図などが頻繁に挿入されており、内容理解を助けてくれる。いずれにしてもこの頃の出来事のほとんどは鎌倉で起きているため、鎌倉を訪れる際にこういうのを1冊読んでおくと、土地勘を得るのにはよいに違いない。一方で、僕のように鎌倉に縁もゆかりもなく、岐阜県出身の人間には、「承久の乱」での鎌倉軍の進路を思い浮かべてみる方が面白いかもしれない。著者のヒット作『承久の乱』も、いずれ読むかもしれないな。

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