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『海と地域を蘇らせるプラスチック「革命」』 [持続可能な開発]

海と地域を蘇らせる プラスチック「革命」

海と地域を蘇らせる プラスチック「革命」

  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2020/05/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
プラスチックはもう使ってはいけないのか?
海洋プラスチック問題が世界的課題になるなか、ダボス会議で「21世紀のリーダー」の1人に選出され、「ブルーエコノミー」や「ゼロエミッション」の提唱者でもあるサステナビリティ分野の起業家グンター・パウリ氏が、プラスチックの生産方法と利用の仕方を変え、経済を回す新しいビジネスモデルを提言しているのが本書である。プラスチック問題の解決によって、海ばかりでなく地域も再生するシナリオを描いている。環境ジャーナリストの枝廣淳子氏が監訳した。プラスチック問題は国連のSDGs(持続可能な開発目標)にとって重要なテーマであり、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営を進める企業にとって必須の書籍である。

海洋プラスチック問題に関する本を、折を見て読むようにしている。本書は発刊は今年の5月で、もうちょっと待たなければならないかと覚悟していたら、なんと市立図書館では一発で借りることができた。ラッキー!本書は税抜きで2,000円だが、興味深いことに、原書版の方は、今年の7月発売(日本語版より2カ月遅い!)で、電子書籍版だとなんと537円という価格が付いている。製本版でも1,773円です。ということは、1冊当たり230円は翻訳にかかった費用の回収分となり、製本版と電子書籍版の差額約1,200円分が印刷製本及び出版流通にかかる費用ということになる。

著者の印税は350円ぐらいだろうか。これが、共著者の1人が設立した財団の活動資金になるのなら、買ってもいいかなと思う。それくらい、本書での提言内容には惹かれるものがあったし、海洋にとどまらずプラスチック問題の深刻さについて、目を開かせてくれる内容となっていた。

僕たちは、毎週5グラム、クレジットカード1枚分のプラスチックを摂取していると警告している。僕らは植物連鎖の中で、水中を漂うマイクロプラスチックを魚が食べて、その魚を食べることで摂取する危険があるという考え方をしていた。しかし、人が直接摂取してしまっているプラスチックもあるという。ゾーッ。

怖いのは、僕らがカフェに行って使っているマドラーからでも、ガムシロップやコーヒーフレッシュのパックからでも、またコンビニで買って街中で飲んでいるペットボトルからでも、スナック菓子のパッケージからでも、料理を保存しておくタッパーからでも、食べ残しにかぶせるラップからでも、溶出したり剥がれ落ちたりしたマイクロプラスチックを摂取してしまっているということだ。歯ブラシだってそうだし、歯磨き粉も研磨用のポリマーが含まれている(そしてそれを洗面所で流してもいる)。

振り返ってみたら相当プラスチックにはお世話になっているわけで、それをどう減らしていったらいいか、皆目見当もつかない。ことの深刻さや複雑さを痛感せずにはおれない。これまで僕は海洋プラスチック問題は内陸部の居住者や内陸国にとっては対岸の火事みたいな捉え方で見ていた。しかし、本書は海洋プラスチックを海洋に出てから回収していては焼け石に水だと指摘している。

洋上回収は引き続き努力するにしても、陸上にある段階から、廃棄段階で回収し、再利用に回す仕組みや、難燃剤など化学物質のカクテルになっている現行のプラスチックをより安全な代替材に移行させていく取組み、熱分解装置でプラスチック廃棄物をガス化するなどして表流水に流れ込むプラスチックの量を減らし、それでも水中に放出されてしまったマイクロプラスチックは、海に海藻を養殖してカーテンを作り、これに吸着させて回収するという、様々な取組みを組み合わせ、総体として海洋プラスチックの削減を図っていこうと提言している。

底流にあるのは、次の4つの原則である。すなわち、①予防原則、②すべてが再生可能にする(あらゆるプラスチックは化石燃料以外の再生可能な資源から作るべき)、③生産者責任の適用拡大、④吸着せられれば低コストで回収できる、というもので、これらを踏まえて先ほどの提言内容を見直してみると、四原則を適用して解決策が論じられているのがなんとなくわかる。特に、海藻カーテンという発想は興味深かった。

但し、たとえマイクロプラスチックを吸着させるから回収が容易だと考えられがちな海藻カーテンだが、その海藻を回収するのは容易ではないだろうし、かつこの海藻を魚や人が食べることで、マイクロプラスチックを体内に摂取してしまうリスクは負わないのかと危惧もした。そこの部分は読んでいて直感的に危険を感じたのだが、本書ではその点への言及は残念ながらなかった。

勉強になるし、購入して手元に置いておいてもいい本かもなと思う。何も明記されていないけれど、本書の印税がこういう研究活動に使われるという道筋でもあるのであれば、カネを出してメリットは感じられる本と言えるだろう。

The Plastic Solutions: The business model that works for the oceans (English Edition)

The Plastic Solutions: The business model that works for the oceans (English Edition)

  • 出版社/メーカー: JJK Solutions
  • 発売日: 2020/07/13
  • メディア: Kindle版


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