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『市場と権力』 [読書日記]

市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像

市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像

  • 作者: 佐々木 実
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/09
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
経済学者、国会議員、企業経営者の顔を使い分け、“外圧”を利用して郵政民営化など「改革」路線を推し進めた竹中平蔵がつぎに狙うものは!? 8年におよぶ丹念な取材があぶり出す渾身の社会派ノンフィクション。

先月出たばかりの本、たまたま市立図書館の順番待ちで早く回ってきた。あともつかえているので、いそいで読んだ。ノンフィクションとして、なかなか面白い本である。こういうのを検証できる客観的資料は、どこかで誰かの手によって書かれ、保管されてきたのだろう。それを拾い集め、丁寧に読み込んで考察を行っている。しかも、財政金融政策の難しい表現も、それなりに噛み砕いて一般読者向けの説明が付されている。

要は竹中平蔵さんの話である。そのおいたちを遡り、「米国追従型」の彼の行財政改革、構造改革、郵政民営化などにおけるその考え方のルーツがどこにあったのかを探っている。竹中さんは、学界に影響力のある学術論文をあまり書いていないのに、なぜか政界とのコネクションが多く、自民党政権のブレーンになっていた経済学者だった。ただ、彼が経済学者として言っていたことは、1980年代の米国レーガン政権の経済政策のベースになっていたサプライサイド経済学とほとんど同じで(但し、レーガン政権は軍事費支出も相当増やしたので、究極のケインジアンという評価もあったと記憶している)、規制緩和、民営化が中心となっている。まあ、80年代に経済学を勉強していた僕としては、目新しいものでもない。

正直学者としてはそんなにパッとする実績をあげていない人が、なんで政権中枢にそんなに浸透できたのか―――。

本書を読むとその理由がわかる。かなり早い時期から権力志向が強かったようだし、いずれ政権与党に食い込んで自分の思い通りに日本を動かしてみたいという願望があったようだ。使えそうな人脈は徹底して維持強化に努めているし(逆に利用価値が乏しいと睨めばほとんど付き合いもしない)、自分は一橋大学卒だが東大に対するコンプレックスもあったようで東大は受験したくても大学紛争で受けられなかったのだという言い訳をしているし、竹中さんが初期に書かれた論文は、共同研究者がいたのに単著で本になっていたり、優れた研究手法を持っている花形研究者にコバンザメのようにくっついて論文共同執筆という形をとり、自分の業績としてカウントできるようにしたり、果ては博士論文も提出先の大学では反対論も根強かった中で、研究科長に影響力のある外部の第三者にお願いして博士号を出させるよう働きかけてもらったり、そういうのありなのと思うようなエピソードが本書では挙げられている。彼にしてみれば、小泉元首相だって自分がのし上がるための踏み台の1つに過ぎなかったのではないかとすら思える。

―――そんなわけで、本書を読んで、竹中さんがますます嫌いになった。

銀行の不良債権処理を進めるため、当時金融担当大臣だった竹中さんは、仲良し数名の金融タスクフォースというのを作り、官僚とは別のトラックで政策立案し、最後は与党内の反対すら「首相のお墨付きを得ている」等と虎の威を借る発言で調略し、政策を実現させた。でも、そうしたタスクフォースの会議は議事録を残していないという。あとから検証できないよう意識的に記録を残していなかったふしも見られるらしい。記録を残さないのが日本の悪いところだという指摘は、1日前のこのブログでも披露したところであるが、曖昧な記憶にとどまりいずれ闇に消えてしまうよう生の話を記録にとどめておかないやり方は、最低だが、今の日本ではまかり通ってしまうやり方なのかもしれない。

また、国有企業や国有資産については、自分に近い人が経営者を務めるような企業グループへの売却話を進めたり、企業から様々な形での便宜供与を受けていたりと、グレイな行動が幾つも見られるようである。

竹中さんに限らず、政策への影響力のある経済学者は、米国でもこんな感じなのだというのは多少ショックでもあった。皆純粋に学術研究者だというわけでもなく、口はつぐんでいるけれど、複数の民間企業から顧問料のような形で便宜供与を受け、相当な蓄財を果たしているらしい。

急にのし上がってきて一世を風靡するようなスター知識人には要注意なのかもしれない。

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