『黒田官兵衛』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)先日、残業を早めに切り上げて自宅最寄り駅近くの書店に立ち寄ったところ、黒田官兵衛絡みの文庫本が結構陳列が始まっているのを目にした。最近のNHK大河ドラマはヒット作になかなか恵まれなくなってきているので、1990年代中ごろまでのことを考えたら関連書籍の陳列の仕方は大人しくなったような気がするが、それでも大河ドラマに便乗した出版物は少なくはない。昔なら、10月頃から盛り上がっていたと思う陳列も、最近は出足が鈍いような気がしていた。(単に僕があまり書店に足を運んでチェックしていないだけかもしれないが。)
織田方に着くよう荒木村重を説得するため播磨・伊丹城に単身乗り込んでいった黒田官兵衛。だが村重に不審がられ、城内の想像を絶する狭隘な土牢に一年もの間幽閉される。のちに救出された時には足が不自由になりながらも、秀吉の懐刀として忠節を貫き通した智将の魅力を余すところなく描いた名著。
そんな中で、かなり早くから「黒田官兵衛」物を取り上げていたのが河出書房文庫である。しかも、新作書下ろしではなく、第2回直木賞を受賞した戦前の作家・鷲尾雨工の復刻版である。直木賞受賞作品である『吉野朝太平記』にハマったことのある鷲尾ファンとしては、嬉しい復刻だ。市中の人々の会話の中に、ボケとツッコミを配して、いかにも町人同士、武士同士での会話の中で繰り広げられたと思わせるやり取りを取り入れたり、その時々の出来事をこうして野次馬たちに語らせたりする手法は、古臭いけどいかにも鷲尾作品ぽくて、好感を持って読ませていただいた。(この辺の冗長なところが嫌いな読者もおられると思うが。)
歴史上の通説とは異なる設定を多少交えて、羽柴秀吉に仕えることになるいきさつから、荒木村重が織田信長に対して謀反を起こして籠城した摂津有岡城で官兵衛が幽閉され、やがて救出されるまでを、独自解釈で描かれている。先日の記事でもご紹介した童門冬二さんが書かれる黒田官兵衛といえば、むしろ豊前国主や長子・長政が移封された筑前国での長政の統治に対する心配りなど、むしろ羽柴秀吉による天下統一より以降のエピソードが取り上げられることが多い。従って、人間・官兵衛を知るにはこの本だけでは未だ不十分だが、荒木村重との絡み、竹中官兵衛との交流は官兵衛の前半生のハイライトなので、軍師官兵衛を知る入門編という意味では手ごろな文庫本なのではないかと思った。
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