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『途上国の人々との話し方』(その2) [読書日記]

途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法

途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法

  • 作者: 和田信明・中田豊一
  • 出版社/メーカー: みずのわ出版
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 単行本

前回はかなりの紙面を割き、インド駐在時代に現地でNGOの活動と接してみて感じた問題意識についてご紹介した。今回はそれらを踏まえ、日本のNGOであるソムニードは、それらの問題に対してどのような対応をしているのか、本書で述べられているポイントを抽出して述べてみたい。

本書の著者である和田と中田が共同代表を務めるソムニードは、JICAの草の根技術協力事業を受託し、アンドラ・プラデシュ州北東部のスリカクラム県の3ヵ村において、「地域住民主導による小規模流域管理(マイクロウォーターシェッド・マネジメント)と森林再生を通した共有資源管理とコミュニティ開発」という3年間の事業を行なった。この事業は2007年8月から始まり、今年7月に終了を迎えた。この事業の模様は、ソムニードの現地駐在スタッフが「水・森・土・人~よもやま通信」として22回にわたって紹介されているのでそちらもご参照いただきたい。また、僕自身も、インド離任に先立つ今年5月末に見学させていただいている。

1.最初から「プロジェクト」を持ち込まなかった
期間が最初から3年間と限定されている場合、どうしても時間を無駄にしたくないと焦る気持ちになり、早速住民との対話を始め、我々が何を目指すのか、何を問題視しているのか、3年間で何をやりたいのか、住民にはどのような形で参加を求めるのか、といったことを説明しようと試みるケースは多い。しかし、ソムニードは、2007年8月からの事業開始にあたり、すぐにそのスタッフを現地の村に入れなかった。モンスーン入りして農家が農繁期を迎えていたという事情もあったことと思うが、それよりもむしろ、プロジェクトのスタッフが拙速に住民と接して住民の主体性を損ねるような言動をとらないよう、スタッフの人材育成からスタートさせたのだと言うことができる。

2.「村は貧しい」との思い込みの排除
この村には問題が山積みである――事業提案書を書いてスポンサーに資金供与を求める際、まさかこの村には問題がないなどとは説明しづらい。問題があるからそこで何かを始めようとするのではないか。当然、現場入りするNGOのスタッフはそうした前提で村にアプローチする。しかし、上記1とも関連するが、ソムニードは事業開始と同時に村に入ることはせず、スタッフの意識改革を図ることに時間を充てた。また、村に入った時も、「皆さん、この村について教えて下さい」という姿勢で臨んだ。

我々が「村には問題がある」「暮らしの改善に繋がるような機会も資源もこの村には何もない」という思い込みは、住民側にも伝わる。住民も、「こうしてどこかのNGOの人たちが自分たちのことを考えて足を運んでくれているのだから、自分達の暮らしを良くするには何が必要なのか、何が問題なのか、何かしら言ってあげないといけない」と考えがちだ。しかし、ソムニードのスタッフは、村について質問して住民に教えてもらうという実践の中で、「村にあるものは何か?」を住民に気付かせるように仕向けた。そして住民ひとりひとり、特に古くから村に住むお年寄りがよく知っている村の植物の利用法―食用、薬用、建築用、家畜飼育用、さらには季節の移り変わりを確認できるベンチマークとしてなど―に関する知識を、言語・視覚情報に置き換えて住民間で共有を図ろうとする動きに繋げていった。「あなた方は、村には何もないと言うけれど、こんなに豊富な植物資源があるじゃないですか」と気付かせるだけではなく、この植物図鑑の制作過程でも住民のアイデアをどんどん反映させ、住民の主体性を高めていった。出来上がった図鑑は、外部の人々に植物資源を販売する場合にはカタログ代わりにもなる。

3.「~しなさい」を使わない
自分の子供を見ていてもそうだが、親から「~しなさい」と言われたことほど反発してやらなかったりするし、僕自身も、いい大人なのに帰宅するたびに「手洗って」「うがいして」と言われるのは結構苦痛だ。会社の顧問医から「あんたはメタボで自己管理能力ゼロ」だと言われれば心を開いて顧問医の忠告を素直に聞くことなどできない。しかし、自分でそれをやることの必要性を理解できた時、ダイエットの取組みは人から言われてやるよりも持続する。顧問医にバカだチョンだと言われている間は渋々ながら続けられるかもしれないが、顧問医から取りあえず及第点をもらった途端に続かなくなるということにもなりかねない。

大切なのはそれをやる動機付けをどのレベルで行えるかということで、当事者が自分から気付いて自分から行動を起こすようになるまで、辛抱強く待ち続けることが外部者には求められる。「あなた、~して下さい」とこちらが言った時点で、相手はお客さんになってしまう。

4.住民が必要だという研修を行う
自分たちのコミュニティが何を持っていて何を持っていないかがわかってくると、住民たちの間で自分たちは何をすべきかという声も上がってくる。しかし、それを行なうために必要な知識やノウハウを、住民自身が持っているケースも、持っていないケースもある。そうした、「あるもの」と「ないもの」との峻別の結果として、住民側からソムニードに対して、こうした研修を自分たちに実施して欲しいと要望が上がってくる。上がってきた要望に対しては迅速に研修実施機会を提供する対応をした。

5.住民組織作りを急がない
開発の単位を「小規模流域(ウォーターシェッド)」に定めるということは、この小規模流域には全ての住民が利害を持つということでもある。従って、ソムニードは、村の特定のクライテリアを満たした住民だけを支援対象として研修を行なったり参加動員をかけたりはせず、住民全てを対象とみなして村と関わるようにした。住民がソムニードと会いたいという日時は住民に決めてもらうこととし、住民からお声がかかるのをじっと待った。最初の頃は、住民側で決めておきながら当日参加者が現れず、スタッフは何もせずに村を後にしたこともあったらしい。

しかし、いったん住民がそれを必要だとみなした場合、新たな住民組織を作ることをソムニードが否定することはない。組織作りに必要なノウハウは研修を通じて提供した。

6.中長期村落開発アクションプランの策定
プロジェクトの中長期の目標は、小規模流域の自然資源管理の技術を住民が修得して、自ら持続的な自然資源管理ができるようになることである。そして、資源管理のためにどのような活動を住民が行なうとしても、そこには予算がかかり、いつまでに何をどう終えるか、誰がそれを行なうのか、どのような作業工程を取るのか、それに必要な知識とノウハウはどのように得るのか――要はそうした具体的な行動計画が必要となる。政府の後進地域支援プログラムは拡充され、外国援助機関も様々な支援を行なっている今日、必要となる資金の出所はそれなりに存在する。しかし、スポンサーが財布の紐を緩める判断をしてくれるに足りるだけの計画を自ら策定してスポンサーに示すような能力は住民にはない。元々計画的な行動など村での生活にはあまり必要とされていなかったのである。それが、自然資源への過度の依存が進んでしまい、村での生活自体が持続不可能になりつつあるのが今の農村で起こっていることなのだ。

従って、ソムニードが重視し、3年間の協力期間の中で住民との対話や研修実施を通じて働きかけたのは、ソムニードが撤退した後でも、継続して村の問題を特定し、実現可能な取組み策を決め、具体的にそれを行動に移していくための計画を、住民自身が策定する能力に対するものであったように思える。

7.住民自らが他の住民に教える
僕達が身を置く業界では、誰かが研修で学んだことを、組織に戻って他の構成員にも教えて、共有して欲しいと言ってもなかなかそうはならない、伝言ゲームはあまり効果を発揮しないというのが一種の定説となっているような気がするが、ここで言いたいのはある研修の場での話として、前回の研修で何を学んだか、どこまで学んだかを記憶している参加者に話してもらうことや、現在行なっている研修テーマの中で、参加者の誰かが既に知っていることはその参加者に話してもらうという方法のことを指す。参加型ワークショップではよく用いられる手法であるが、これをやることで話す住民の自尊心が高まり、参加者意識も高まるという効果も期待される。さらには、A村で行なった研修と同様の研修をB村でも行なうことになった場合、A村の住民にB村に行って話してもらうといったことも行なわれている。

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《村での開発事業のプロセスについて話してくれる住民の人々(中央はソムニードのスタッフ)》

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