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『途上国の人々との話し方』(その3) [読書日記]

途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法

途上国の人々との話し方―国際協力メタファシリテーションの手法

  • 作者: 和田 信明
  • 出版社/メーカー: みずのわ出版
  • 発売日: 2010/11
  • メディア: 単行本

前回は本書の共著者である和田・中田が共同代表を務める日本のNGOソムニードが、JICAの草の根技術協力事業を受託し、アンドラ・プラデシュ州北東部のスリカクラム県の3ヵ村において行なった3年間の事業「地域住民主導による小規模流域管理(マイクロウォーターシェッド・マネジメント)と森林再生を通した共有資源管理とコミュニティ開発」において、本書で書かれているような実践をどのように行なっていたのか、気付いたポイントを幾つか紹介した。

今回はそれらを踏まえ、3年間の協力期間を通じ、ソムニードの事業地で実際に何が起こったのかに焦点を当ててみたいと思う。ここでは僕が今年5月下旬にこの事業地の1つであるポガダヴァリ村を訪問して見聞してきたことも反映させたい。

1.住民自らが語る
NGOの事業地を訪ねると、同行してくれるスタッフの方が、ここで何をやっているのかを雄弁に語ってくれることが多い。NGOが行なっている事業が全て参加型開発というわけではないので、政府から請け負って社会サービスの提供を行なっているようなNGOであれば、現場での語り手がNGOのスタッフであるというのは当然あり得る。でも、少なくとも「参加型」を謳っているようなコミュニティ開発型のプロジェクトであれば、参加している住民が自分の村と自分達が計画して実施した開発事業について自ら語ってくれることを僕らは期待してしまう。しかし、実際に村に行ってみると、説明してくれるのが同行しているNGOの偉い人ということがよくある。

ポガダヴァリ村を訪ねてみて僕自身が非常に印象に残っているのは、お目にかかれた村の人々が「ウォーターシェッド」とはどういうものなのか、どこからどこまでがオラが村のウォーターシェッドなのかを教えて下さったということだ。(そういう質問を僕もしたのだけれど。)さらに、村を歩いていて築堤を設けて地表水が溜まるような構造物(下写真)を見学していた時も、僕の質問に答えていろいろ教えて下さったのは同行して下さった村の人たちだった。

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2.待ち続けた末の大きな進展
住民が自分で必要性を理解し、やる気を示すようになるまで辛抱強く待ち続けた。プロジェクトの初年度の成果が植物図鑑しかなかったことについて、スポンサーだった援助機関内でも、「本当に大丈夫なのか」という不安の声が上がっていた。

いつだったか、僕は著者のお一人にこんな質問をしたことがある。「3年間のうちにここまでは行けるという確信はあったのか。」これに対して、その方はこう仰っていた。「3年間で住民が行動を必ず起こす仕掛けを仕込んでおいた」と。その「仕掛け」についてはここでは書かない。本書にも明示的には書かれていないが、ソムニード現地駐在スタッフによるニューズレター「水・森・土・人~よもやま通信」をよく読むと、それが書かれている箇所がある。この「仕掛け」があったから、プロジェクトが2年目に入ると、住民はやらねばという気持ちが強く出てくる。著者の方はそれがちゃんとわかっていたのだろう。

あれをやりたい、これをやりたいという声は住民から上がってくるようになっても、この段階でのそれは単なる「欲しいものリスト(Wish List)」でしかない。研修はやってもインフラ整備やモノの無償提供はやりませんと言い切っているソムニードは、ここでも質問を繰り出す。そして、自分達で整備するには計画が要る、でも計画を作るには自分達には知識とノウハウが足りないということに住民は気付くのである。

こうして、まかりなりにも彼らにとって初めてのアクションプランが出来たのは2年目のことで、それに基づいて彼ら自身が設計や資材調達を行ない、計画された植林事業や村落インフラ整備事業を実際に実施したのは2年目後半になってからのことである。こうした実践を通じて経験を積んだ住民が、労賃の一部をプールして基金を作り、その基金の管理のためにやっぱり住民組織を作ろうということになっていったのはプロジェクト3年目のことであった。

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《村人が作った植林事業のアクションプラン》

3.中長期村落開発アクションプランは、プロジェクト終了時の成果
元々計画作りと予算策定のノウハウを持たない住民が、本当の意味でオーナーシップを持つような計画策定ができるようになるのは、少なくとも協力期間の初期の時点ではあり得ない。小さな成功体験を積み重ねる中で、徐々にノウハウを蓄積していった住民が、向こう3~5年を見越した中長期の村落開発計画を策定できるのは、協力期間も終了間近となるプロジェクト3年目のことであっても不思議ではない。元々村落の人材育成を目指しているプロジェクトであるから、本当の意味での参加型で計画が策定されたとしたら、それが1つの大きな成果だと見なすことができる。ニューズレターを読んでいくと、3村の代表によるそうしたアクションプランの発表会が行なわれるシーンが出てくるが、オラが村のことを住民代表が胸を張って語っている姿はとても印象的である。

4.ニューリーダーの台頭
住民に対して研修を幾つも実施していくと、学習して大きく伸びる人、好奇心が旺盛で自分から率先して村の活動をリードしていこうとする人、他人にもしっかり教えられる人が出てくる。そして、そういう人の姿を、他の住民もちゃんと認めて、「彼こそリーダーにふさわしい」という声が高まってくる。

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《ニューリーダーの1人、ポガヴァダリ村のソメーシュ君(中)》

短期間での成果を焦ると、協力を開始する時点で村の有力者を味方につけて、彼らを通じて住民の動員をかけるということにどうしてもなりがちだ。そうすると、古いリーダーが幅を利かせる住民組織になり、住民は受身の存在となってしまう。これに対して、最初から住民組織化にこだわらなかったソムニードのやり方では、研修等NGOと住民との対話・交流のプロセスの中から、村の若い衆や女性が、新たなリーダーとして育ってくる余地が相当に大きい。若者が村で活躍できる余地が広まれば、若者が町へと流出する可能性は低くなるだろう。

実際、ポガダヴァリ村では、この1年若者の流出が起きていないという声を聞いた。

5.効果と持続性の高い植林、村落インフラ事業
ソムニードは研修段階で、村の開発事業が非現実的で実現可能性が低いものとならないよう、そしてそれを住民自らが気付き、適切な方向に軌道修正できるよう、徹底して質問を投げかけてきた。そうした問答の中でシェイプアップされていった計画に基づいて行なわれた事業は、見ばえはともかく住民のオーナーシップは非常に高く、かつ裨益対象者と期待される成果が数値ではっきりしており、さらに維持管理の必要性についても意識付けが十分行なわれたものとなる。

6.プロジェクト終了後の外部者依存度小
上記3において、中長期村落開発アクションプランの策定がプロジェクトの大きな成果だと述べたところだが、このアクションプランの中には、全国農村雇用保証制度(NREGA)を活用した村落インフラ整備事業なんてのもしっかり含まれている。僕が村を訪問した際にも、住民の方から「ここはNREGAを使って整備するんだ」と言われたこともある。現実的な計画を策定し、費用計算もしっかりできる人材に育った住民達にとって、ソムニードとの事業で培った経験とノウハウを、他の政府プログラムや他ドナーからの助成金を用いた事業でも活用していくことは難しいことではないだろう。

本書で描かれているようなことが実践された結果が、今のスリカクラム県の事業地で観察できることなのだと思う。興味がある人は、ソムニードのHPを見てみるといい。スタディツアーや現地研修の企画案内が掲載されている。是非参加してみて下さい。本当に「目からウロコ」状態になると思う。
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