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『援助じゃアフリカは発展しない』(2) [読書日記]

Dead Aid: Why aid is not working and how there is another way for Africa

Dead Aid: Why aid is not working and how there is another way for Africa

  • 作者: Dambisa Moyo
  • 出版社/メーカー: Allen Lane
  • 発売日: 2009/01/29
  • メディア: ペーパーバック

第二弾は、アフリカの民族多様性がもたらす経済不安定性に焦点を当て、著者の論考を整理してみたい。

巷間言われることは、アフリカには1つの国の中にさまざまな民族が混在しており、部族間の拮抗状態が社会的不安や抗争を招き、しばしば全面的な内戦に発展してしまうという危険があるということと、またそれが平和時においてですら、経済成長には障害になるということである。この紛争と開発というテーマにおける第一人者は英国オックスフォード大学のポール・コリアー教授であるが、彼によれば、民族的な多様性を持つ小さな国々における改革は難しく、それこそが、アフリカにおいて他の地域よりも長期にわたり貧弱な政策が続いている理由だという。民族的に分断された社会の特徴は、異なるグループの間には不信感があるということであり、それは公共サービスの提供に向けて共同行動をとることも難しくしている。こうした中で民主主義導入の取組みが行なわれても、民族的な亀裂が見られるグループの間において政策上の合意形成を得ることは簡単ではない。必然的に、民族間の境界線において抗争や難題あるいは断絶が存在すれば、経済成長をもたらすような重要な政策の実施の足枷にもなる。(pp.44-45)

しかし、アフリカには異なる部族グループが平和的に共存してきた国々も存在する。

2000年代初期に援助をする側の国々や国際機関でよく言われたのは、良好な政策環境にある国では援助は役に立つというものである。その上で、良好な政策環境にない国において、政策を良くするために援助は何ができるのか、どのように活用されるべきかが検討されてきた。その中でもよく主張されるのが「民主的な環境が経済成長を急加速する」という考え方で、欧米諸国が特に強い。そして、民主化はアフリカを救うと主張される。汚職や経済的な縁故主義(ネポティズム)、非競争的で非効率な慣行を除去し、公職にある者が気まぐれに冨を奪取する全ての機会を民主主義によってきっぱり立ち切れば、アフリカは救われるというのである。民主主義と経済成長の間には正の相関関係があると考えるのである。(pp.57-58)

しかし著者はこう反論する。
民主主義は経済成長の前提となるどころか、経済的便益をもたらす法制度の採択が、競合する党派と利害の狭間で困難になる場合には、民主主義は開発の妨げになることもある。完璧な世界では、貧しい国々が経済開発の最も低い段階において必要とするのは複数政党制民主主義ではなく、実際のところ、経済を発展させるために必要な改革を推し進める毅然とした意思のある慈悲深い独裁者なのである(残念なことに、多くの国々の場合、慈悲深いとはいえない独裁者で終ってしまうのだが)。(pp.58-59)
実際に、外国援助を受け入れたアフリカ諸国で民主主義が広まったことによって経済的な稗益があったのかを見た場合、民主主義は、援助の擁護者が主張するように経済成長のための前提条件ではなく、逆に、経済成長が民主主義の前提条件なのだという結論が導き出されるという(p.60)。前回述べた「援助は経済成長の足枷となっている」とする主張と繋げると、援助を通じて民主化支援を行なおうとする援助する側の論理は説得的ではないことになる。

ただ、こうして振り返ってみると、著者がアフリカ人の1人として、アフリカの民族多様性がもたらす経済成長へのマイナスの影響を除去する方策について、何ら有効な処方箋を提示していないこともわかる。聖人君子的な「慈悲深い独裁者」の自然発生とサバイバルを期待しているに過ぎない。先ほどの引用にも、「完璧な世界では」という前提条件が付いているようだが、その前提条件自体が達成困難なのではないかとも感じてしまう。それを期待していいのかどうかというのが知りたかったのですが…。

アフリカの開発問題をアフリカ人自身が語るというのが売りの本書だが、実際にアフリカに住んでいるアフリカ人ではないというところで「あれっ?」と思ったのも付け加えておく。
タグ:アフリカ
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