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『グローバル化する医療』 [読書日記]

グローバル化する医療―メディカルツーリズムとは何か

グローバル化する医療―メディカルツーリズムとは何か

  • 作者: 真野 俊樹
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
もっともグローバル化が難しいといわれていた医療に、メディカルツーリズムという新しい動きが始まっている。アジアを中心に国家戦略として打ち出し、自国の医療や産業基盤の底上げを図っているのだ。その動きは先進国における医療崩壊と無縁ではない。各国の医療現場を徹底取材し、その実像と問題点を浮き彫りにしてゆく。
来週後半にここで描かれているインドのメディカルツーリズムの情報が仕事上必要になると思い、早めに読み始めたのだが、著者の文章が読みにくいのかそれとも僕の方が込み入った仕事で忙殺されていて読書に集中できなかったからいけないのか、とにかく読んでいても書かれている情報があまりサクサク頭に入って来ず、大変な苦戦を強いられた。多分原因は両方にあるのだろう。

この著者の著書を読むのは二度目で、最初の本の時にも思いの外苦戦を強いられた。相当な調査に基づき情報量も膨大なのだが、議論が拡散して論点が何だったのかもう一度前に戻って読み直さないと理解できないという手戻りが何度もあった。そもそもサブタイトルに惹かれて購入したものだが、内容の半分ぐらいはこのメディカルツーリズムと直接的な関係があるのかないのかわからない記述だった。

もう1つはこの1週間の僕の状況だった。「込み入った仕事」とサラッと書いたが、自分的には納得のいかない仕事をやっている。外野からいろいろ飛んでくるし、普段なら目くじらも立てないことでイラっと来たケースもかなりあった。家の方でも、主寝室のトイレとシャワーの水が出なくなり、3日間シャワーなしの生活を強いられた。そして何よりも、週後半から体調を崩した。木曜昼過ぎから徐々におかしくなり、金曜日は休みたい気持ちもあったが、先述「込み入った仕事」があったのでどうしても出勤せざるを得なかった。

今週末も何とか読み切ろうと努力をしたが、どうにも集中できなかった。読んでいて集中していない自分にだんだん腹が立ってきたので、「メディカルツーリズム」という言葉だけを拾って飛ばし読みを行なった。はっきり言って、メディカルツーリズムについて知りたいという人にはあまりお薦めできる本ではない。「メディカルツーリズム」を以て「医療のグローバル化」と呼ぶわけではない。

何故これほど読みにくいのか、自分の集中力の欠如を棚上げして本書の中に原因を探ってみたが、考えられるのは、本書の冒頭で分析枠組みの提示をしていないことだ。全体の海図となるような記述がないから、全体の中で今自分が読んでいる箇所がどのような位置づけにあるのかが確認できないのだ。

僕なりに「医療のグローバル化」を考えてみると、乱暴ながら以下の4つの切り口があると思う。

第1に、医療サービスの需要側(患者側)が国境を越えて移動することである。インドやタイのメディカル・ツーリズムはここに含まれるが、日本から米国に行って手術を受けるというケースも時々あるため、単純に先進国から途上国に患者が向かう動きを以てメディカル・ツーリズムとは言えない。こうした動きには当然、送出国側の事情と受入国側の事情というものがある。

第2に、医療サービスの供給側(医師をはじめとした医療従事者)が国境を越えて移動することである。途上国の医師の卵が先進国に留学して学位を取得するケースも含められるが、往々にしてこの動きは途上国から先進国に向かうもので、これは「頭脳流出」とい言葉で表わされる。こうした動きにも当然、送出国側の事情と受入国側の事情というものがあるだろう。

第3に、ある国で生まれた医療技術と医療マネジメントの概念やアイデア、基準が国境を越えて他国でも適用されてやがて世界標準となっていくという動きである。上記2で述べた供給者側の人の動きとも重ね合わせると、概ねこの動きは特定の先進国から他国へ広まっていくものだ。大抵の場合は欧米先進国、特に米国が発信源となっているケースが多いだろう。

第4は、概念や供給側の医療人材の一時的な移動も伴うものだが、医療資本が国境を越えて移動するものである。先進国のNGOが途上国に行って医療サービスを行なうケースも、上記2にも該当するかもしれないが資金を伴って行なわれるという点では僕の頭の中では別の項目だ。もっとわかりやすいのは医療法人の多国籍化。インドのアポロ病院グループがスリランカに病院を設立するケース等はこれに該当するし、さらにはソーシャルマーケティングの手法を用いて欧米の医療サービスグループのブランドが途上国でも用いられてサービス提供を展開するケースもこれに該当する。先進国で行なわれている医療サービスのうち、カルテの保存や画像診断等の工程だけをアンバンドルして人件費の安い途上国にアウトソーシングするというのもこのカテゴリーに入れられる。

こういう「医療のグローバル化」を捉える枠組みを先ず持たないと、議論が拡散しているという印象しか与えないと思う。サブタイトルに「メディカル・ツーリズム」と銘打っている以上、読者は上記1を期待して本書を購入する。序論から第1章、第2章あたりまでは「メディカル・ツーリズム」について書かれているということができるが、そこから第3章以降はツーリストを送り出す側の国の国内事情の話になって行く。そこからがツーリズムの話とあまりにもかけ離れた記述なので、僕は当惑したのである。軌道修正の仕掛けが各章にあるといいのだが、そういうのもあまり感じられなかった。

もう1つだけ述べておきたいのは、その肝心要の「メディカル・ツーリズム」に関する記述である。確かにインドについては書かれているが、本当の意味でメディカル・ツーリズムに関するのはアポロ病院について少し書かれたセクションだけで、その後はインドの医療事情を少し述べ、最後は小口医療保険(マイクロ・インシュアランス)について述べてお茶を濁している。これには拍子抜けだった。海外に住んでいてアマゾンを通じて本を購入すると、書店で立ち読みして購入を決めるのと違って中身の確認ができないリスクを負う。今この本をインドで読み始めるにあたっての問題意識は、インドに住む外国人の僕達がどれくらいこうした医療施設を利用できるのかにあり、アポロだけではなく他の病院がどれくらい在留外国人に対して便宜を図ってくれるのかを知りたかったのだが、その意味では全く役に立たなかった。僕はアポロ病院はこの目的で訪問したことがあるのだ。

自分の集中力がある程度高い時期にもう1度読んでみないと本書の評価は下せないかもしれないが、次にまた手に取る時にもかなりの勇気が必要になりそうだなと思う。
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