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2つのインド(その2) [インド]

P. N. Mari Bhat
"Indian Demographic Scenario, 2025"
in R. K. Sinha ed. India 2025, Shipra Publications, August 2008

デリー大学経済成長研究所人口研究センター(Population Research Centre, Institute of Economic Growth)のマリ・バット教授が政策研究センター(Centre for Policy Research, CPR)の『2025年のインド』というプロジェクトから依嘱を受けてまとめられたのがこの論文である。実際の執筆年は2001年6月であり、僕は2008年の出版物に収録される前のナマの論文の方を読んだ。

マリ・バット教授のこの論文がよく引用されるのは、教授がこの中で人口動態の違いにより今後2025年に向けてインド国内での格差が拡大することを指摘しているからである。
 将来予測の内容を評価する際には、人口学的変数が地域間で大きく異なることを考慮しておく必要がある。南インドの幾つかの州は合計特殊出生率(TFR)が人口置換水準(2.2~2.1)に既に到達しているか間もなく到達する。一方で、北インドの多くの州では、TFRは4を超えており、人口置換水準に到達するには数十年かかる。同様な違いは死亡率、特に乳幼児死亡率にも見られる。
1991年から2001年にかけての年平均人口増加率は北インドでは2.22%だったが、南インドではわずか1.24%だったという。これだけ見ても北と南の間では人口の増え方が異なるということがわかる。ましてや合計特殊出生率が高いのだから、今後死亡率が低下していけば、出生率の低下も仮にあったとしても北インドの人口は今後も増え続けるだろう。

さて、こうした人口将来予測を行なう場合、どうしても何らかの仮定を設けなければいけない。本論文では、インド全体でのTFRの低下ペースを、2000年の2.8から、2010年には2.8に低下し、2025年には人口置換水準を達成すると仮定している。これを南北別で見ていくと、次のような仮定である。

 南インド: 2.3(2000年)⇒1.9(2010年)⇒1.8(2025年)

 北インド: 4.4(2000年)⇒3.6(2010年)⇒2.7(2025年)

また、平均寿命も延びる。

 南インド(男性): 64歳(2000年)⇒70歳(2025年)
 南インド(女性): 67歳(2000年)⇒74歳(2025年)

 北インド(男性): 59歳(2000年)⇒66歳(2025年)
 北インド(女性): 58歳(2000年)⇒67歳(2025年)

こうした仮定に基づき2025年の人口推計値を算出してみると、インドの総人口は約14億人となる。また、人口の男女比(男性1000人に対する女性の人口)は、932人(2000年)から952~954人(2025年)に若干ではあるが改善する。これは女性の平均寿命が男性より伸びるからで、いかにジェンダー不平等があって女性が長生きできないと言われている北インドであっても2025年には女性の方が長生きになっている。

さて、ここからは格差がどう拡がるかという話をさらに具体的に紹介しておこう。

先ず、人口密度。南北で人口密度が逆転し、北の方が混雑が酷くなる。

 南インド: 346人/km2(2000年)⇒417人/km2(2025年)
 北インド: 319人/km2(2000年)⇒496人/km2(2025年)

次に、人口増加率。2025年時点の年平均増加率は、南インドの場合は0.5%にまで低下しているが、北インドでは1.4%で推移しているとみられる。

こうなると、筆者は次のような現象が起きると予測している。
地域間の人口不均衡は、北から南への大規模な人口移動を引き起こすかもしれない。こうした現象が各地域にどのような軋轢をもたらすのかについては予想がつかない。

第3に、人口の中心年齢(メディアン)と高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)。これを見ると、南インドの方が高齢化の進行が速い。

 南インド: 26歳(2000年)⇒34歳(2025年)   9%(2025年)
 北インド: 21歳(2000年)⇒26歳(2025年)   4%(2025年)

第4に、こうした人口動態の違いが、経済にどのような影響を及ぼすのかについてである。
2000年から2020年にかけて、就労年齢人口の増加率は総人口の増加率を上回る。人口ボーナスは、楽観的シナリオ(TFRの低下ペースが速いと想定)の方が大きいが、現実的シナリオ(人口関係指標の改善がゆっくりとしたものと仮定)に基づく人口ボーナスと比べてそれを享受できる期間も短い。(中略)南インドの場合は1990年代までに人口ボーナスが発生しており、現在南インドで見られる活発な経済活動はこうした人口条件がプラスに働いたからであると考えられる。しかしこのフェーズは15年ほどで終わりを迎える。一方、北インドの場合は人口ボーナス発生期に入るのにあと10年はかかり、その効果は2025年まで持続する。

これだけ人口動態が南北で異なると、かなり大きな格差が出てくるのではないかと懸念されるだろう。
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