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『国家破産以後の世界』 [読書日記]

「国家破産」以後の世界 (ペーパーバックス)

「国家破産」以後の世界 (ペーパーバックス)

  • 作者: 藤井 厳喜
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2004/12/15
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「景気回復」が「国家破産」をもたらす!?―そんな信じられないことがいま、われわれの目の前で現実になろうとしている。このパラドックスの説明は簡単だ。「景気回復」→「長期金利上昇」→「国債の金利払い急増」→「国家破産」という因果関係は、決して断ち切れないからだ。日本政府がゼロ金利下で安易に国債発行を続けてきたため、“隠れ借金”を含む国家の債務超過は、もう1000兆円を超えている。したがって「長期金利」が上昇すると、利息払いだけで国家財政は即パンクするのだ!結局日本は、官僚主義の弊害で第2次大戦に負け、いままた同じ理由で「国家破産」に到るのである。本書では、「日本の国家破産は実際、どのようなかたちで訪れるのか」をシミュレーションするとともに、より広く世界の情勢を考えたうえで、「今後の日本と日本人の生き残り方」を問う。
この本、光文社カッパブックスの延長線上に位置付けられる、即ち、祥伝社ノンブックスと同じ系統の本である。従って、スキャンダル性をかなり追いかけていて危機感を煽る書きぶりにどうしてもなっていると思う。その分は割り引いて読む必要がある。光文社のシリーズではお馴染みの著者である。この著者は、1984年に別のペンネーム(藤井昇とケンブリッジフォーキャストグループの共著)で『世界経済大予言』という本をカッパブックスから出している。当時も多少話題にはなっていて、僕は読んだ記憶がある。印象としては比較的リーズナブルな予言で、同時期に発表になっていた「ファティマ第4の予言」「ノストラダムスの大予言」等と比べるとドラマチックではなかった。

本書の中核は、日本の公的債務の積み上がり状況が既に危機的状況にあり、財政は破綻寸前であることを問題提起し、国民にカタストロフに備えよと述べていることであろう。それに、趣旨から外れるようなBRICsの話とか、米国シンクタンクが日本の将来について描いたペーパーとかを紹介している。この手の本にありがちなのは、全世界の動向は一握りのエリート達によってシナリオが描かれ、それに基づいて世界経済は動いているのだということである。しかも、往々にしてこういう主張は「ユダヤ陰謀説」と結び付きやすい。我々がいかに抗おうが世界はユダヤの掌の上で踊っているというのである。本書で紹介されている米国シンクタンクのレポートは、それ自体制作されるのはある意味当たり前のようには思うのだが(逆にそういうのを自分の国についてちゃんと考えていない日本のシンクタンクの方にも問題があるように思うのだが)、それを以ってして米国は日本をどう扱うのかシナリオを作っているのだということになってしまう。

僕から見れば、米国シンクタンクがまとめた日本に関するレポートに過ぎないと思うのだが、シンクタンクがそのような研究を行なう資金の出所を考えた場合、何らかの意図は感じないといったら嘘ではある。日本の民間シンクタンクは、こんな研究をやる資金をどこかの政党や大企業家からもらってやることはあまりないだろうから、自ずと日本政府に対する政策提言的インパクトは小さいだろう。

さて、本日の本題であるが、日本の債務残高は単純計算でいけばGDPの160~200%は積み上がっている。1990年代初頭から一貫して増えているのであるが、特に小渕首相時代からがひどい。本書にも紹介されているが、2002年にアルゼンチンが債務不履行(デフォルト)を宣言した際の債務残高はGDP比50%くらいだったらしい。本書ではアルゼンチン以外にも1997~98年の通貨経済危機の韓国やメキシコ、ロシア等の事例も紹介されている。いずれも債務残高の対GDP比が100%にも満たないのにデフォルトに陥っている。勿論、基礎体力という点で日本の場合は公的部門はともかくとして民間部門はそれなりに体力を持っているので、一概にいくら債務が積み上がったら危険水域ということは言い切れないが。

でも、国債発行残高が増えたら利払いも馬鹿にならない。先日、格付けに関する書籍を1つ紹介したが、ムーディーズやS&Pが日本国債にアフリカのボツワナよりも低い格付けを与えているのは残高が著しいからであるが、こうした格付けがダウングレードされるとそれだけで国債は売りにくくなるので、金利は上げざるを得なくなる。こうした格付けのダウングレードのような明確なきっかけがなくても、何かの拍子に日本国債への投資家の信頼性が薄れていくようであれば、長期金利は上昇する。本書によれば、現在の国債発行残高は2004年末現在で約500兆円ある。もし金利が1%上がれば、それだけでも3~5%の財政負担が利払いに充てられなければならなくなる。筆者は、従って、日本政府が金利上昇に極めて神経質であり、景気拡大が続いている中でも「デフレから脱却できていない」との一点張りで、金利上昇を押さえ込みたいと考えているというのだ。

日本国債は米国債のケースと異なり、殆どが日本の機関投資家や個人投資家によって購入・保有されている。そうなると、万が一財政破綻して債務不履行に陥ると、その影響はもろに国内の投資家に行く。機関投資家といえば銀行や保険会社だろうから、彼らの業績は悪化する。個人投資家は直接的に損害を受けるだろう。従って、公的債務は政府の問題とは言い切れず、遅かれ早かれ民生にも大きな影響を及ぼすことになると危惧される。

本書を読みながら、そんな暗い事態が遅かれ早かれ訪れるのではないかと本気で背筋が寒くなった。僕は現在、住宅ローンという長期債務と、短期の流動性確保のために郵貯や外貨定期とか短期債権の両建にしているが、多少短期債権を取り崩しても、長期債務を極力圧縮しておいた方がいいのではないかと思うようになった。

そういう意味で、本書は示唆に富んでいると思う。蛇足な部分は飛ばしていいので、第1部から第3部までは読んでみるとよいと思う。日本がデフォルトを宣言するような事態になった場合に想定される混乱については歴史から学ぶことも必要だろう。先述の通り、本書には他国で起きたことを紹介している章がある。なまじ詳細な経済分析を行なっている専門書を読むよりも、これくらいの分量であればコンパクトで理解もしやすいだろうと思う。
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