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『その日のまえに』再訪 [重松清]

その日のまえに (文春文庫 (し38-7))

その日のまえに (文春文庫 (し38-7))

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2008/09/03
  • メディア: 文庫

5日(日)の午後、前々から妻が楽しみにしていたイベントが実際に会場に行ってみたら中止だとわかり、半日は会場で過ごす予定がパーになって早めに帰宅した。まとまった時間ができたので、何か小説でもと思い、9月に出張で東京に帰った時に買ってきた文庫本を書棚から取り出した。

『その日のまえに』を読むのは約2年ぶりのことだ。
そして、同じ作品をブログで取り上げるのは今回が初めてである。
(前回のブログ記事はこちらから。)

兼ねてから述べているように、僕が読んできた重松作品の中で最も好きなのが『その日のまえに』と『卒業』である。収録されている短編の間に関連性を持たせているという意味では『その日のまえに』の方がお薦めかもしれない。いずれも僕と同世代か少し下の世代の知人の方々にも薦めたいと思い、文庫化されたのを機会に今回はちゃんと購入した。
(前回の単行本の時は図書館で借りた。)
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また、本作品は大林宣彦監督作品として映画化されており、今年11月に日本で公開される予定で、既に公式HPまである。主演は南原清隆(ナンチャン)、永作博美。『いとしのヒナゴン』や『疾走』と比べても映画化が妥当な作品だと思うものの、観客動員力がある作品では必ずしもない。11月の公開期間中に日本にいられないこともさることながら、レンタルビデオ店でも下手したら置いてくれてない可能性もあり、なんとかならないものかと思案に暮れているところだ。

さて、今回2年振りに読み直してみて感想はどうだったかというと、僕が自分の健康状態には気を遣わなければならない重松世代の1人であることには大きな変わりはなく、むしろ実際にガタが来ているところを感じているだけに今回の方が他人事ではないような捉え方で読ませていただいた。

重松清という作家は「死」を扱っている作品ではその殆どが「癌」宣告から死までを描いており、その過程の中に様々なメッセージが盛り込まれていく。『カシオペアの丘で』では「赦すこと」「赦されること」が描かれた。『その日のまえに』はそれよりも少し前の作品になるので、死を迎えるにあたって「考えること」が描かれている。それは、次のような一節からも察せられる。
「終末医療にかかわって、いつも思うんです。『その日』を見つめて最後の日々を過ごすひとは、じつは幸せなのかもしれない、って。自分の生きてきた意味や、死んでいく意味について、ちゃんと考えることができますよね。あとにのこされるひとのほうも、そうじゃないですか?」(中略)
「考えることが答えなんだと、わたしは思ってます。死んでいくひとにとっても、あとにのこされるひとにとっても」(p.343)
これは、収録短編「その日のあとで」の中で看護師の山本さんが主人公の「僕」に語ったセリフである。このセリフを見た後で振り返ると、収録されていた「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」の3作品では、「僕」が何を考えたかが非常に刻銘に描かれているのがよくわかる。

それともう1つ。この考えることの中に、「昨日を振り返る」ということが加わるのが「その日」に向かう人々に共通する思索なのかなとも思った。
 それまでは目の前のものしか見ていなかった。子どもたちのこと、僕の仕事のこと、和美が参加している地域のNPO活動のこと、お互いの両親の老後のこと……僕たちが向かい合う「今日」や「明日」の風景はめまぐるしく移り変わり、その変化を追い、次の変化を見定めているだけで日々は過ぎていた。「昨日」を振り返る余裕はなかったし、振り返ってもなにか面白いものがあるとは思えなかった。
 僕たちは、いま、どこにいる――?
 僕たちは、これから、どこに向かう――?
 ずっと、この2つしか考えていなかった。それだけでじゅうぶんだとも思っていた。
 僕たちは、どこからここに来た――?
「明日」が断ち切られてしまって、初めて、その問いのかけがえのなさに気づいた。
(pp.230-231)

いい作品なので、できるだけ多くの人に読んでもらえたらと思う。
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