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ルーラル・テレセンター [仕事が好き]

「ルーラル・テレセンター」とか「コミュニティ・テレセンター」とか「ITキオスク」とか呼ばれる機能について、いずれ先行研究のレビューをやってみたいと思っている。

テレセンターは、遠隔地域の住民に情報アクセスと情報発信の手段を提供する手法だ。日本にあるインターネットカフェ(サイバーカフェ)をイメージするとわかりやすいと思う。利用者は利用時間によって課金される。途上国の遠隔地域の場合は、自宅に通信端末を持てる住民は極めて限られているので、コミュニティの中で人が集まりそうな場所に公共の通信端末を設けて、遠くの農産品市場の市況情報を入手したり、なかなか巡回に来てくれない地方の行政サービスの情報を入手したり、或いは携帯電話やEメールで海外の家族や親戚と連絡を取ったり、といった使い方がされる。途上国の遠隔貧困地域だと、自宅に固定電話サービスを引き込むのに必要な費用を負担できる家庭は非常に少ないし、利用者の立場からは使用したいときに使用時間分だけ料金を払うのには抵抗は少ないわけだから、公共でアクセスポイントを提供して利用者から料金徴収する仕組みが機能する余地が大きいと思う。

これを利用した事例としてよく紹介されるのはバングラデシュのグラミン・フォンである。これは、農村女性による携帯電話貸出サービスで、携帯端末の購入代金をグラミン銀行がマイクロクレジットで貸し付け、借り手は携帯電話の貸し出しで通話時間に応じて使用料を徴収する。電話料金のグラミン・テレコムへの支払いは、グラミン銀行の外交員が返済金の徴収で村を巡回する際に一緒に料金も回収するのである。このモデルは今やアフリカにも移転され、グラミンは技術指導すら行なっている。先週あるテレビ番組で、ボリビアの首都ラパスで行なわれている携帯電話貸出サービスを見たが、街中に公衆電話ボックスならぬ携帯電話を持った人が立っている姿は少し滑稽だったけれど、これも一つのビジネスモデルだと思う。テレセンターといっても、インターネット端末が必要不可欠というわけではなく、

テレセンターは、情報アクセスだけではなく、情報発信の手段ともなる。中国の反日デモの動員は、中国都市部で盛んなサイバーカフェのインターネット端末を通じて行なわれた。情報発信を行なえるメディアはさすがに限られてくるが、そういう潜在性があるのだ。

これだけ見てくると、テレセンターは公共性があるものの、商業性もあって民間経営者の方が効率的な運営を行なうことができるのではないかと考えられる。海外からの援助がなくても、ちょっとした企業家精神と資金調達手段があれば、採算が取れるところでは民間のオペレーターが登場するだろう。逆に、利用者の所得水準や人口稠密度の関係で民間では採算が取りづらい地域もあるだろうが、そういうところは公的資金による支援も必要だろう。

テレセンターの様々なモデルとその持続可能性については、90年代からカナダのIDRCが相当の実証研究を行なっている。その結果を整理するだけでもかなりの情報になると思う。


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南南協力とアフリカ援助 [仕事が好き]

1.南南協力支援の現状
南南協力は途上国自身が主体となった国際協力活動であり、協力実施国(以下、「新興援助国」)、受入国双方にオーナーシップが求められる。南南協力の理想形は、第三者からの支援なく新興援助国と受入国間で国際協力が進められることであり、我が国の関与は、この動きに対する支援と位置付けることが必要である。言い換えるならば、先進国による南南協力支援では、特に以下の観点が重視される。
新興援助国の人材及び資源の活用
途上国間技術協力活動への支援
新興援助国のドナー化支援

我が国による南南協力支援は、ODA大綱(2003)では、「アジアなどにおける開発の進んだ途上国と連携して南南協力を積極的に推進する」とあり、中期政策(2005)では「重点課題に取り組むにあたっては、ODA大綱の基本方針である開発途上国の自助努力(オーナーシップ)支援、(中略)政策全般の整合性の確保を含めた我が国の経験と知見の活用、南南協力の推進を含めた国際社会における協調と連携を踏まえる」と述べられている。南南協力支援を積極的に進めている先進国や国際機関は非常に少なく、この分野では我が国が世界をリードしている状況であるということができる。

一般的に南南協力の支援ツールとしてJICAで多用されるのは第三国研修や第三国専門家派遣である。いずれも、ある受入国を支援するに当たってより高い発展段階にある「第三国」の経験と人材を活用するものであるが、JICAの技術協力プロジェクトの一環としてJICA側のコスト負担に基づいて行なわれる単発のものもあれば、「パートナーシップ・プログラム」と呼ばれる枠組み合意に基づき、新興援助国(パートナー国)政府にもコスト負担を求め、第三国研修や第三国専門家派遣をプログラム的に運用しているケースもある。我が国がパートナーシップ・プログラムの枠組みを持つ相手国は以下の3地域11カ国である。
アジア(4):シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア
中南米(4):チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ
中近東・北アフリカ(3):エジプト、チュニジア、モロッコ

また、JICAの技術協力プロジェクトで度々行なわれている「技術交換」や「周辺国参加型セミナー」は、他国の類似案件における先行事例に触れることによる相互学習効果を重視しており、南南協力支援の性格を有するものと考えられる。こうした物理的な移動による対面学習に加え、テレビ会議を通じた遠隔学習システムとして、JICAはJICA-Netを有する。JICA-Netは、世界銀行の遠隔学習ネットワークであるGDLNなどとの相互接続により、異なる地域間でのテレビ会議開催をサポートすることも可能である。

2.アフリカ開発における南南協力活用の可能性
(1)アジア・アフリカ協力
我が国は、TICADプロセスを通じ、アフリカの新たなパートナーとなりうるアジアを中心とした諸国との効力推進を提唱し、JICAも、かかる政策に基づきアジア・アフリカ間の南南協力の推進に努めてゆくとの基本方針がある。しかし、従来から南南協力支援ツールとして活用されてきた第三国専門家派遣は、本邦からアフリカに対する日本人専門家派遣による技術協力の場合と同じ理由で困難な状況である。従って、南南協力支援の中心は第三国研修と、その効果の定着を補完的に支援する遠隔学習システムの活用に置かれることが予想される。

JICA-Netは、テレビ会議・マルチメディア教材・インターネットなど、様々な情報通信技術を活用してJICAの技術協力事業を補完するもので、アフリカ地域では既にケニアで開設された他、JICAの在外事務所が設置されている国で順次開設が予定されている。また、JICA-Netは世銀のグローバル遠隔学習ネットワーク(GDLN)との相互接続も既に確立しており、現在も複数国を同時接続したテレビ会議の開催が可能な環境にある。第三国研修もアジア・アフリカ間遠隔学習も、単発で行われるのでは効果が小さいが、対面学習と遠隔学習と自己学習を組み合わせる学習プログラムをパッケージングできれば、成果の定着により大きく貢献するものと期待できる。多くの援助機関が実施している技術援助(TA)の殆どは、受益国の支援対象者に対して国外での研修機会を提供することができない制度設計になっているため、JICAの本邦研修や第三国研修制度は他機関にはない特徴を有している。

アジアの開発経験のアフリカとの共有を図る際の留意点として、アジアの知見の何がアフリカ開発に有用なのかの特定を誰が行ない、誰がコンテンツとしてまとめていくのか、考え方を整理しておく必要がある。冒頭述べた通り、南南協力では協力実施国、ホスト国双方のオーナーシップが重要であるため、アジア・アフリカ協力を持続的かつ効果的に実施するためには、我が国主導で支援を推進するのではなく、アジア・アフリカ双方の域内諸国に協力実施・受入のための雰囲気が醸成されなければならない。従って、南南協力を支援する際にも、我が国の支援に頼らずアジア諸国が独力で成し遂げた成功事例も、アフリカ地域との共有が有用であると両地域が判断した場合には、我が国としても支援するという考え方の整理が必要となってくる。

JICA-NetやGDLNといった遠隔学習ネットワークは、政府間協力への「場」の提供だけではなく、貿易・投資促進に向けたアフリカ域内政府とアジア域内民間企業家、投資家との官民対話、両地域の民間企業家、市民社会、メディア間の対話・交流の促進にも活用が可能である。

(2)アフリカ域内協力
アフリカ諸国にとっては、アジア諸国や我が国の経験から学ぶことに加え、課題の共有を域内でも進め、域内で比較的共通性の高い政治社会条件、地理的条件、経済条件下において、各々の国が行なっている取組みをグッド/バッド・プラクティスとして共有する試みを支援してゆくことも重要と考えられる。これまでのJICA内での整理では、広域協力は南南協力には含まれないと定義しているが、アフリカの中でも比較的狭い域内でグッド/バッド・プラクティスの共有を図るには域内第三国研修や第三国専門家派遣、遠隔学習システムも依然有効と考えられるため、あえて言及したい。

TICADⅡ(1998)における「アフリカ人造り拠点構想」の具体策として2000年に設立されたAICADは、JICAを通じた日本の支援を受けながら、ケニア、タンザニア、ウガンダの東部アフリカ3カ国が共同で財政支援をし、運営・維持されている。アフリカの人々が自らの力で様々な問題を解決できるように働きかけ、アフリカの貧困削減と社会経済開発に貢献することを目的とし、具体的に、農業・工業セクターにおける生産性向上や水資源、環境、ジェンダー、保健といった住民生活の改善に資する域内の研究活動に対する助成と成果の普及を支援する。これは多くの援助機関が関与する政策研究系の域内研究機関とは大きく異なるアプローチである。AICADのこのような取組みは、東部アフリカ地域における人づくりに貢献しており、我が国としては、今後同様の取組みを北部、東部、南部アフリカ地域に拡大するとともに、アジア・アフリカ協力のアフリカ側拠点としての育成・支援も必要であると考えられる。

3.南南協力支援の課題
以上で述べた通り、アフリカ支援に南南協力を活用する余地は大きいと思われるが、南南協力支援には以下で述べる幾つかの課題が指摘されている。

(1)ニーズとリソースのマッチング
新興援助国と受入国の間には情報の非対称性があり、それぞれ援助ニーズとリソースに関する情報が乏しい。先進国が行なう援助の場合は世界規模での実施を通じて援助ニーズや援助国側の人材情報の蓄積、方法論の精緻化が進んでおり、効率的なマッチング・メカニズムが確立されているが、南南協力ではそれが不十分である。次善策として、新興援助国は、第三国研修主催のように自国がオファーできる知見が何かを明示してそれを必要とする途上国に手を挙げさせるようなsupply-drivenな実施形態を選択しがちである。また、受入国における協力事業の実施に当っては詳細な事前調査が必要となろうが、新興援助国側には自前で事前調査や事業設計を行なう余裕はなく、専門家派遣のような事業形態は選択しづらいことが予想される。(一部の援助機関の間で進められている技術援助のアンタイド化は、受入国が協力実施国の人材情報を十分持たない状況下で自国のニーズに最も合致した専門家を調達する現実的な方法として理にかなったものであり、その結果他の途上国の専門家が選ばれた場合には事後的(ex-post)には南南協力になっていることがある。)リソースのインベントリー作成や途上国ニーズに関する国別分析やセクター分析情報、事業の事前調査情報などの共有といった、ニーズとリソースのマッチング・メカニズムの支援が行なわれない限り、当事国間だけで南南協力の深化を図ることは難しい。

(2)新興援助国側の援助理念、手法の理解
新興援助国側に受入国の開発課題やニーズの特定化に繋がる情報が少ないという問題だけではなく、先進国や国際機関の間でこれまで蓄積されてきた援助の理念やアプローチの共有、援助手法の改善努力に関する情報が少なく、南南協力が援助の潮流を踏まえて有効性が高い形で行なわれる保証は必ずしもない。アフリカの開発問題に南南協力を通じて取り組むのであれば、その前提条件として、協力を実施する側の新興援助国が、これまでアフリカ開発問題に関して国際社会が積み重ねてきた議論や援助手法の検討を十分に踏まえていることが必要である。我が国が南南協力支援の柱の1つとして打ち出している「途上国のドナー化支援」では、このような視点からの新興援助国支援が求められる。2003年9月にコロンビアで行なわれた「キャパシティ・ディベロップメントに向けた南南協力セミナー」のように、南南協力当事者間でCDの重要性の認識を深める取組みは、アフリカにおいても実施されるのが望ましい。

(3)当事国のオーナーシップ
さらに大きな課題として、南南協力推進を我が国が打ち出すこと自体が抱えるリスクを挙げておく必要がある。南南協力は途上国自身が主体となった国際協力活動であり、当事国に主体者意識が乏しい中で先進国が旗振り役を務め、新興援助国の人材や知見を途上国支援に活用することを提唱するのでは、当事国間に主体者意識は育成されないし、協力事業自体の持続性も損なわれる。途上国における開発プロセスのコントロールはあくまでも途上国自身が行なうものであるという点を再確認した上で、途上国自身が他の途上国の開発経験から学ぶ意義を理解し、主体性を発揮できる動機付け、環境作りに我が国としては努めるというアプローチを取る必要がある。しかし、実際には、我が国の国際協力事業の成果を拡大するのに南南協力が有用であるという認識が南南協力推進の背景にはある。我が国の国際協力推進と南南協力当事国のオーナーシップ問題を両立する鍵は、事業実施が我が国と新興援助国の援助協調の下で行なわれるという理解を全ての当事者が共有し、上記(2)でも述べた援助アプローチと手法を理解した上で事業が行なわれることであろう。

(4)グッド・プラクティスの整理と情報共有、評価の重要性
南南協力推進を途上国支援の柱の1つとして位置付けるのであれば、それが本邦の人材を活用して実施する我が国の技術協力だけではなく、他の援助機関が支援しているアンタイドの技術援助と比べて費用対効果が高いことが実証されなければならない。また、CDの観点から南南協力の導入の有効性を見る場合、JICAの援助プログラムの中で、南南協力導入の有無によって有意な成果が得られたのかどうかという視点も必要になる。これまで、南南協力支援に関しては、個別の第三国専門家派遣案件や第三国研修案件の評価は行なわれているが、南南協力導入も含めた協力プログラム全体の評価はあまり行なわれてこなかった。加えて、これまで南南協力支援が途上国の人材と資源を活用した有用なツールといわれながら案件の積み上げが芳しくない理由の1つに、事業経験の蓄積が行なわれておらずグッド・プラクティスの共有が進んでいないことが考えられる。それを推進する体制が十分確立されていないことも大きい。
 
他方、我が国においてODAが途上国でどのように活用されているのか、それが我が国の国民にどのように裨益するのかを国民向けに説明する必要があるのと同様、新興援助国が自国の外でやろうとしていることが当該国国民にどう裨益するのか説明が必要となってくる。新興援助国の国益を考慮することとともに、新興援助国が自国の限られた予算を使って行なう国際協力の成果を国民に説明するための評価の重要性の認識強化を新興援助国に対して働きかける必要がある。


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国際ICT政策セミナーレポート [仕事が好き]

国際ICT政策セミナー
「情報通信セクター改革と地方通信インフラストラクチャー」
-中央アジア・コーカサス地域の発展を中心に-

 2004年8月23日から9月1日にかけて、慶應大学湘南藤沢キャンパスをメーン会場として、国際ICT政策セミナー「情報通信セクター改革と地方通信インフラストラクチャー」が開催された。本セミナーはJICA、欧州復興開発銀行(EBRD)、IDRC(カナダ)及び慶應義塾大学の共催により、中央アジア・コーカサス地域5ヶ国の規制当局代表者と世界各国の情報通信分野の政策担当者、規制当局、政策研究者、他援助機関等から招聘した延べ約50名と、国内から募った延べ約50名の参加によって開催された。

1. ICT分野における国際社会の動向

情報通信技術(以下、ICT)は、知識集約型の成長を創出し、地域における雇用の創出・知識・情報へのアクセスを可能にするといった点において、先進国・途上国の双方にとって不可欠である。2003年12月にジュネーブで行なわれた世界情報社会サミットにおいても、2006年に向けて、先進国と途上国が共同してデジタル・ディバイド解消のための具体的行動を取ることを求めている。

しかし、多くの途上国では、このようなICTへのアクセスを可能とするための通信インフラの整備が著しく立ち遅れており、整備に必要な財政負担にも厳しく制約がある。アクセス改善への第一歩は、通信セクターの規制緩和、ユニバーサル・アクセス・ファンド(以下、UAF)の導入などの具体的な政策改革を進め、民間資金を活用した通信インフラの整備を可能とすることである。また、この通信情報インフラを地域社会の振興と雇用の拡大、競争力の強化に結びつけるためには、大学と起業家を核としてイノベーションを生み出す知的産業のクラスターを形成するための総合的な地域開発戦略も必要となる。

援助機関の間では、このような民間参加によるインフラ整備、総合的なICT政策の確立などに向け様々な取組みが行なわれている。例えば、ADBやEBRDでは、アジア諸国や移行国に対して通信の自由化、民営化、独立規制機関の設立等に向けた資金援助・知的支援を行なっている。またIDRCは、これまでの通信規制緩和の経験を整理し、どのような順序での改革が最も効率的であったかといった政策研究を積極的に行なっている。加えて、多くの機関では、民間参加によるユニバーサル・アクセスの実現に向けた手法の研究が進んでいる。一方、大学におけるICTの政策教育や起業家などの能力向上も途上国のデジタル・ディバイド解消のためには重要と考えられている。

2. セミナーの概要

本セミナーは、2004年4月にEBRD理事会で承認された「早期移行国イニシアチブ(Early Transition Country Initiative)」と連携し、中央アジア・コーカサス地域の最貧困国において民間セクターの投資活動を活性化するのに必要な通信セクター改革を早期実現するため、これら地域から政策立案者を招聘し、既に通信セクター改革の先行事例を持つ国の政策立案者、研究者と、ナレッジ共有型のワークショップを実施するものであった。セミナーでは、民間参入によって通信インフラの整備を進め、国・地方自治体がICTの導入によって知的産業の集積を図るための総合的な政策作りを行なうための鍵として、以下の4つの課題を設定した。

(1)経済活動の自由化とそれを支える規制枠組み

ICTと経済成長の相関関係を詳しく見ると、電話加入率やパソコン普及率、インターネット利用率といった指標は必ずしも経済成長と高い相関関係にあるわけではない。成長の背景にあるより重要な要素は、GDPに占める海外直接投資の割合などに代表される投資環境や、公的セクターのガバナンスや企業統治、金融セクターの発展などであると考えられる。従って、ICT開発では、民間セクターの活動を支えるメカニズム、例えば、効率的で透明性が高い規制枠組みやICTを活用した広範なビジネス機会の創出、イノベーションや企業家精神を育む環境、企業家を支援する金融や社会インフラが前提として必要となってくる。このような投資環境整備の重要性は、『世界開発報告2005』でも指摘されたところであり、本セミナーでも、民間活力の導入を可能とするための政策改革につき、各国のベスト・プラクティスと課題を共有し、参加者間での意見交換を行なった。具体的には、途上国の政策担当者が、世界銀行が開発したICT政策アセスメント・ツールを活用し、それぞれの国の通信自由化政策の現状評価を試みた。次に、各国の実情を踏まえて、ICT政策・通信サービス規制緩和への次のステップを具体的に提案する行動計画を作成した。

1社独占の産業構造が一般的であった通信セクターにおいて、ネットワークをアンバンドル化して部分的な競争導入を行なう場合、ボトルネック保有企業と新規参入企業との相互接続が重要になる。しかし、自由競争の下では相互接続が自然に実現するとか必ずしも限らない。アンバンドル化が産業全体の効率を引き上げるためには、相互接続において新規参入企業が不利益を被らないようなルールの設定と監視を行なう規制機関の役割が競争導入と同様に強く求められる。

(2)ユニバーサル・アクセス
 
セミナーでは、特に、地方の通信インフラの整備に向けたUAFという新しい通信政策上の仕組みの導入と活用について討議を行なった。遠隔地域における通信事業は、民間企業がいかに効率的経営を行なったとしても不採算に陥る可能性が高く、民活によるインフラ整備を進めるには、事業立ち上げ後の一定期間、事業リスクを公的に補償する仕組みが必要との見解が援助機関の間では強まっている。UAFは、通信事業者の売上高の3%程度、或いは事業免許料を基金として積み上げ、これを不採算地域における事業者に対する活動助成に充当する仕組みである。本セミナーでは、ペルー、チリ、スリランカ、ウガンダ等、UAF導入実績のある途上国とUAFに関する政策研究で先行する先進国から講師を招き、UAFに対する理解を図った。

UAFは採算地域の事業収入によって不採算地域へのサービス拡大を支援する仕組みであるが、途上国の場合はUAFの積み立てには不足が生じることが懸念される。このため、多くの援助機関では、援助によるUAF支援が必要との見解を持っている。また、UAFによって民間助成を行なう場合にも、Value for Moneyを最大化するには複数事業者間での競争導入が図られ、所定の成果を得るのに最低限の補助金で事業運営を行なうことのできる通信事業者に事業権を付与することが必要である。そのための仕組みとして、”Smart Subsidy”と呼ばれるスキームの研究が国際機関を中心に進んでおり、実際の導入事例の紹介がセミナーでは行なわれた。

(3)テレセンター

所得水準が低い途上国・地域、特に遠隔地域においては、民間事業者による通信網の整備だけでは各家庭がこれらのサービスにアクセスすることは出来ず、公共性の強い情報アクセスの「場」が必要となる。多くの潜在的利用者にとって、自宅に電話を引くために必要な加入料や基本料金の負担は非常に大きく、公衆電話やプリペイド式携帯電話のように必要な時に必要なだけ利用できればよい。このため、”Information Kiosk”、”Rural IT Center”、”Rural Telecenter”などと呼ばれる、情報通信端末を設置して利用者から使用の度に利用料を徴収する、いわゆる「テレセンター」が開設されるケースが増えてきている。テレセンターの中には、政府・ドナーが主導して整備されたものだけではなく、インドのサイバーカフェやバングラデシュのGrameen Phoneのように、民間のイニシアチブにより開設され民間資金のみで運営されてきたものもある。これまでの途上国の経験では、採算上民間による運営が困難な地域へのテレセンター整備の拡大は政府・ドナーの無償資金援助に依存し、持続的運営が可能なテレセンターを全ての村に建設することができなかった。本セミナーでは、地域社会へのサービスの提供、参加型のローカルコンテンツ制作などにより、地域起業家が参加できるモデル、学校などの公共機関・NPOが運営するモデルなど幾つかの持続可能なビジネスモデルが紹介された。これらの活動も、UAFによる支援の対象に含めることにより民間の活力を最大限利用した建設が可能となる。

(4)ICTクラスターの育成

産業クラスターとは、高い先端技術を持った中小企業とそれを支えるベンチャー・キャピタル、大学、研究機関などの経済的・社会的インフラが人間的な交流が可能な比較的近い距離に集まり、相互に密度の高い相互関係を形成する地域を指す。シリコン・バレー、バンガロールなど、それぞれが特徴あるクラスターを形成してきた。高度な知的集約産業を育てるためには、このようなICT分野での産業クラスターの形成が必要不可欠であると考えられる。本セミナーでは、マンチェスター(英国)、北九州、イスラエル、新竹(台湾)におけるICT産業クラスター形成の先行経験を紹介し、大学、自治体、NPO、起業家支援組織などの役割を分析し、地域特性に合ったクラスター形成のための環境作りをいかに行なうのかを討議した。具体的には、大学の技術移転・起業家育成のための役割、ベンチャー・ファイナンスの方法、サイエンスパークの成功の条件などにつき討議を行なった。

3.セミナーの成果と今後の課題

各国事例の紹介、先行事例の研究を通じ、途上国の情報通信セクター改革へのアプローチとして、①競争促進策導入と独立規制当局の役割強化、②UAFのような地方通信インフラ整備助成制度の導入、③テレセンターの設置拡大、を重視するとのコンセンサスが形成された。中央アジア・コーカサス地域では、大手通信事業者に新興事業者への相互接続を義務付け、通信料金の設定に関する独立規制当局の役割は法整備がかなり進んでいる。しかし、政治や政府からの独立性が高い規制当局は創設後日が浅く、職員自身が何をどうやればよいのか必ずしも十分理解して活動が行なわれているわけではないという問題点の指摘があった。UAFについては、キルギスが既に試行導入を開始しており、本セミナー参加国の代表者からも同様なファンドの創設に向けた検討を今後行なうとの発言が見られた。テレセンターは、キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、グルジアでパイロット事業が既に始まっている。しかし、いずれの国でも公的セクターによる上からの取組みに留まっているのが現状で、パイロット事業の自立発展とスケールアップをいかに達成するのかが今後の課題であるとの認識が共有された。その達成に必要な条件として、政治的リーダーシップとサポート、独立規制当局関係者から草の根のICTリテラシーに至るまで膨大な能力開発ニーズの充足、特定セクター限定ではない包括的なアプローチ、が必要との結論であった。

ICTクラスターについては、起業家育成や専門技術開発などを通じて社会変革をもたらすエージェントとして、大学の役割が途上国においても重要であることが確認された。加えて、地域開発計画の立案に関して自治体と住民、民間企業、大学等がICT産業育成を通じて連携してクラスター形成に至るシナリオの第一歩として、電子政府を通じた自治体と企業・大学・地域住民の連携を事例として取り上げ、官民パートナーシップ(PPP)による電子政府開発を通じてステークホルダー全てが恩恵を受けるWin-Win-Win状況について理解を深めた。

セミナーではプレゼンテーションと質疑応答だけではなく、各セッションの後に中央アジア・コーカサスからの参加者に自国の状況を振り返る機会を設け、域内各国への適用可能性につき議論を深めた。加えて、参加者を3つの作業グループに分け、学習内容確認を目的としたグループセッションを毎夕1時間程度設け、「規制枠組み」「ユニバーサル・アクセス」「テレセンター」「ICTクラスター」の4テーマに関してはセミナー後半に全体討議の時間を改めて設ける等して、学習内容の理解促進に努めた。中央アジア・コーカサス各国の情報通信規制当局関係者同士が会して意見交換を行なう機会はこれまで少なく、参加者の間では、近隣諸国の取組み状況から学んだり刺激を受けたりすることができたとセミナーを評価する声が聞かれた。また、今後の要望として、参加者間のネットワークを維持し、連絡を取り合える体制の構築が挙げられた。

8月27日には、二国間援助機関によるICT支援の取組みを紹介するセッションを設けた。JICA関連では社会開発部の取組みを中心に発表を行ない、人材育成重視の姿勢を強調した。とりわけ、2004年10月から技術協力プロジェクト開始予定であったキルギスIT人材育成センターへの言及は、同地域からの参加者が具体的なイメージを持つのに大きく貢献した。多くの参加者より、規制当局者の能力向上からICTリテラシーに至るまで、膨大な人材育成ニーズが存在するとの指摘があり、技術協力による支援の可能性は大きいと考えられる。

以上


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大規模公共施設は「負の遺産」なのか? [仕事が好き]

大規模公共施設は「負の遺産」なのか?
―途上国における官民パートナーシップ(PPP)の活用に関する検討を開始―

 このコラムを執筆しているのはアテネでの五輪競技が真っ盛りで、連日の日本代表選手の活躍を観戦し、睡眠不足の毎日を過ごしておられる方も多いのではないかと思います。ヒートアップする五輪競技とは裏腹に、1つクールな話題を提供してみようと思います。

 数年に1回の特別なイベントのために整備された建造物は、その後どのように利用されるのでしょうか。

 最も身近な例としては、2002年に日韓共催で開催されたサッカー・ワールドカップがあります。この時、日本国内で新設、増改築されたスタジアムは8ヵ所あり、総工費は2375億円となっています。この建設費は主に誘致した自治体が負担しており、この建設費の償還費用に加えて年間数億円の運営赤字を生み出す「負の遺産」として、マスコミの批判の対象となってきました。運営赤字ということでは、例えば静岡スタジアムは年間維持費4億6000万円に対して収入が6000万円、埼玉スタジアムは維持費7億円に対して収入は1億1000万円程度だそうです(いずれも2003年1月当時の推計値)。このため、各自治体とも、大規模な施設運営のノウハウを持つ民間会社にスタジアムの運営を委託する途を模索しているのだそうです。共催国だった韓国では、劇場や映画館・水族館、ショッピングモール等の収益施設を併設してスタジアムの維持管理費に充当する工夫がなされていますが、日本のスタジアムの多くは都市公園内の施設であり、都市公園法の制約があって基本的に収益事業が行なえない決まりになっています。これでは、大規模施設運営のノウハウといっても、民間セクターの創意工夫には限界もあるでしょう。

 五輪ということで、2000年シドニー大会のケースを見てみましょう。シドニー五輪のメーン会場は「スタジアム・オーストラリア」の建設でした。この建設プロジェクトは、ニューサウスウェールズ州政府や納税者だけではなく、総工費約6億9000万豪ドルのうち、6億ドルが民間企業によってファイナンスされました。同州政府は、五輪に加えてラグビーやサッカー開催に適した施設の建設に加え、納税者の負担をできるだけ少なくできる革新的なプロポーザルの提出を期待し、施設の設計、ファイナンス、建設、運営に関心のある企業に参加を呼びかけました。その結果、①4社からなる民間企業コンソーシアムが施設を建設した後の所有も行ない、五輪・パラリンピック開催期間は五輪組織委員会に無償で貸し出す(民設公営方式)、②五輪開催期間中の座席数は11万席ながら、終了後は両翼の巨大スタンドを海外に売却して8万席に減らす、③五輪終了後はフィールドをフットボール用の長方形に変更する、といった、五輪開催後の施設運営まで視野に入れたスタジアム建設計画が採用されたのです。

 スタジアムの平時の活用は商業性がより強いものになるのでやや特殊なケースかもしれませんが、公共性がより強い他のインフラ整備事業でも、このような民間ファイナンス(PFI: Private Finance Initiative)は活用できそうです。アテネ五輪の場合は、スタジアム建設にはPFIは活用されていませんが、関連公共サービスであるスパタ国際空港建設やアテネ環状道路の整備事業はPFIで進められています。

 こうして見てくると、途上国におけるインフラ開発事業の中でも、設計段階から建設段階、完成後の施設運営に至るまで、民間セクターのノウハウや資金調達能力を活用する余地が大いにあります。インフラは援助資金の活用も含めて政府部門が設計施工し、受益者はただ利用するだけというのではなく、計画や設計段階への受益者の参画や民間経営ノウハウの導入によって、運営が長期にわたって安定化し、受益者にとって利用価値の大きい公共サービスの設計が可能になるのではないでしょうか。


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世界銀行における調査研究 [仕事が好き]

世界銀行における調査研究

2004年10月12日

始めに
世銀で行なわれる調査研究は、次の3種類に大別される。
1.開発経済局(DEC: Development Economics Vice Presidency)が行なうもの
2.世界銀行研究所(WBI: World Bank Institute)が行なうもの
3.DEC、WBI以外の部局(Other VPUs: Vice President Units)が行なうもの

調査研究予算
 調査研究は、有料出版物にならない限りは収益事業ではないため、IBRD/IDAが調達した貸出用原資を調査研究に投入することはできない。調査研究を実施するため資金は、貸出収益金からの振替で創設された世銀の開発グラントファシリティ(DGF: Development Grant Facility)からの拠出と、加盟国政府(主に先進国)からの信託基金拠出によって創設された既存のパートナーシッププログラムに研究資金申請をすることで調達するか、或いは当該テーマに強い関心を示すと思われる加盟国政府と個別交渉して当該調査研究のファンディングだけを目的とした個別信託基金を通じて調達するか、いずれかのケースが一般的である。

DECの調査研究
グローバルな開発アジェンダについて国際社会に向けて問題提起を行なうための材料整理を目的とする。例えば、「貿易と開発」「グローバリゼーション」「移民と外国送金」等が総合研究テーマとして設定され、それに収斂させてゆく材料の整理として先行研究のデスクレビューに加え、小規模の調査研究が新規で何本か行なわれる。これによって、地域と時系列とカバー範囲の厚みを持たせ、政策的示唆に富んだ総合研究レポート(Synthesis Report)に仕上がってゆくのである 。

DECの調査研究予算の殆どは加盟国政府からの信託基金拠出である。従って、DECの最終的な説明責任は理事会を通じて加盟国政府(途上国も含まれる)に対して負うものである。但し、それがどのように活用されているのかについてはケースバイケースであり、前述の「貿易と開発」は主にWTOドーハ・ラウンドにおける世銀代表の発言に、「グローバリゼーション」の世銀首脳が世界各地で行なう発言内容に色濃く反映されている。世銀総裁や首席エコノミストが行なう発言の理論的裏付けは、DECの調査研究に負うところが大きい。但し、タスクマネージャーが必ずDEC所属の研究員であるわけではない 。

収益貢献度が低い部局であるため、DEC所属の研究員の多くが他研究機関からの出向者や複数機関との掛け持ちであり、100%世銀管理経費から人件費支出を受けている職員は非常に数が少ないと言われている。但し、取り扱う出版物の多くはグローバルなインパクトが非常に大きく、出版物の売上げによって全額ではないにせよある程度まではコストリカバリーに貢献はしているものと考えられる。

WBIの調査研究
WBIも取り扱うテーマとしてはDECと似通っている。近年の代表的なテーマとしては「貧困削減のスケーリングアップ」「変化に向けた知識(Knowledge for Change)」等であるが、これらは調査研究というよりもそれ自体が知識共有を目的とした1つのプログラムであり、DECのような「総合研究&小規模調査研究群」という構成ではなく、全体プログラムに沿って行なわれる知識共有型イベント(国際会議、ワークショップ、シンポジウム、研修等)の事前準備・実施段階で傭上されるリソースパースンが、情報の事前配布を目的としてまとめるタイプの調査研究レポートが多い。期間もDECと比べて短期間で、(言い方にはやや語弊があるが)研究者は過去のペーパーを使い回していることが多い 。

WBIがワークショップ等の知識共有型プログラムを実施する場合の基本フォーマットとして、先ずタスクマネージャーがプログラムの達成目標とそれに必要なコンポーネントを設定すると、そのコンポーネントを実施するためのリソースパースンを世銀内でスカウトするか、或いは外部の有識者に発注する 。その際、事前配布資料の作成指示を、作成の目的や方向性、書式も含めて行ない、イベント当日はPPTによるプレゼンの他、グループディスカッションへの参加等が求められる。

WBIの予算も加盟国が拠出する信託基金によって捻出されている。加盟国政府の多くがWBIの調査研究・知識共有事業へのファンディングを半ば経常支出と見ており、毎年新会計年度に入る直前の数ヶ月は、どのプログラムにいくら配分するのか、総額でいくらコミットされるのかについて、WBIと各国理事室との間で密度の濃い協議が行なわれる。また、年度途中に加盟国政府からの新規拠出を受けて新たなプログラムが立ち上げられる場合も多い。こうして予算配分が行なわれるWBIのプログラムの多くは、ドナーとしての加盟国との関係を重視し、「パートナーシップ」と銘打ってappreciateされる。

なお、WBIが行なう知識共有事業は、地域別の世銀のオペレーションとの連携の欠如が問題視されることが多かった。WBIは他国で域内ワークショップのようなイベントを開催する際、当該国の世銀カントリーオフィスではなく、別の民間パートナー機関に実施アレンジと受入調整を委託する。このため、カントリーチームの知らないところで当該国が裨益する能力開発事業が行なわれるという問題が度々発生した。このため、世銀内の他の地域局及び課題局との連携をより強化することを目的として、2003年7月に続き、2004年7月にも組織改編が行なわれ、現在、地域別、課題別に担当ディレクターが配置されている。

以上、調査研究を中心としてWBIを説明してきたが、WBIの研修実施機関としての性格を改めて強調しておきたい。WBIは世銀職員対象の研修(他機関からの受講も可)と途上国政策立案者・マスコミ・オピニオンリーダー等を対象とした学習プログラムの提供を行なう機関であり、調査研究はその学習プログラムのコンテンツ開発の一環である。

WBIが主催する研修プログラムの多くは有料であり 、その参加料収入と報告書販売代金を以ってコストリカバリーに充当されるが、通常これだけでは不十分である。

その他部局(Other VPUs)が行なう調査研究
東アジア(EAP)やラテンアメリカ(LAC)といった地域局、環境社会開発局(ESSD)、民間セクター局(PSD)、人間開発局(HD)といった課題局が独自に加盟国政府から信託基金拠出を受けて行なう調査研究も多い。

我々が最もよく知る調査研究としては、EAPがJBIC、ADBと共同で行なっている「東アジア・インフラ共同研究」が挙げられる。これも、世銀側のファンディングは日本政府のPHRD基金を通じて行なわれており、この事務局への職員派遣をJBIC、ADBがそれぞれ費用負担することでco-financingが成立している。全体的な印象としては、期間はDECの調査研究と同様長いが、総合研究に繋げる小規模研究の本数はDECのそれと比べて少ない。

こうしたアドホック的調査研究以外で特筆されるのは、地域局が行なう経済セクター調査(ESW: Economic & Sector Work)である。ESWはCAS策定や貸出案件発掘に繋げる基礎調査で、貧困アセスメントやPER (Public Expenditure Review)、CFAA (Country Financial Accountability Assessment)、CPAR (Country Procurement Assessment Report)、といったCore Diagnosisと呼ばれるルーティン調査の他に、CAS策定に当たって世銀として当該国のこのセクターがよくわからないといった場合に行なわれるfact-findingも含まれる。これらの調査は、元々地域局が国別アプローチ強化のために当然が如く行なわねばならないもので、管理費人件費により職員が重点配置され、かつコンサルタント信託基金(CTF)プログラムからの配分でESW向けのコンサル傭上が行なわれるという仕組みが確立されている。

アドホック型調査研究、ESWの双方に対しては、特定の加盟国が自国の推進したい開発アジェンダに関連付けて資金拠出を行なっており、調査研究の説明責任は先ず資金拠出国に対して負うことになる。実際の調査研究成果は、地域局の場合は当該地域で今後行なわれる貸出政策や政策助言に反映される。課題局の場合は、各地域における政策助言・貸出政策への反映だけではなく、同局が国際会議等を通じて世界的に推進したいアジェンダのアドボカシーに反映されることが多い。

最後に・・・
DECのような大規模な調査研究は当グループの予算規模ではとうてい不可能であるが、全体としては小規模であっても、今年度の調査研究には、「キャパシティ・ディベロップメント」の総合研究に客員による小規模案件が付随するといったプログラム型のものが目立つようになってきたと思われる。

他方、WBIと比較した場合、そもそも国総研は途上国人材の学習プログラムに関与する度合いが小さく、援助人材の育成面での関わりの方が大きい。WBIが行なうようなペーパー書下ろしを短期間で行なって学習プログラムのコンテンツ制作に繋げるような手法は現在JICAではあまり取られておらず、WBIの調査研究と同様の位置付けの調査研究を国総研調査研究グループが担うには、専門知識を持った職員の配置も含めて相当の努力を要する。

地域局の行なう調査研究のうち、ESWのような基礎調査はJICAの場合は地域部・在外事務所が行なうプロ形に相当する。地域局や課題局が行なう調査研究の多くは政策助言・援助政策への反映を目指すものであるが、世銀の場合は貸出という形でツールが限られており、JICAにおける援助手法の向上に資するような調査研究に相当するものは考えにくい。地域局のアドホック型調査研究は、JICAの場合は主に課題部のプロ研がこれに相当する。

国総研とは一言で何をするところかと世銀関係者から尋ねられた場合、私は「DECとWBIを合わせたような」機能であると説明することが多いが、改めて振り返ると、WBIよりもむしろDECに近いのが現実の姿であるように思える。

以上


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国際ICT政策セミナー「情報通信政策改革と地方通信インフラストラクチャー」 [仕事が好き]

標記セミナーは、EBRD、慶応大学、IDRCとJICAが共催し、私はJICAのみならず日本側のコーディネーターの1人として関わらせていただきました。ご参考までに情報提供します。セミナーで用いられたプレゼン資料は電子ファイル入手し次第適宜JICAホームページにアップしているところです。現在は英語版報告書制作に追われているところです。9日間のセミナーだったのでとても疲れましたが、よい勉強になりました。
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1.セミナー名:International Seminar on ICT Policy Reform and Rural Communication Infrastructure

2.開催日程:8月23日(月)~9月1日(水)(於・慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、三田キャンパス、横須賀リサーチパーク、神奈川サイエンスパーク)

3.参加人数:約100名

4.参加者内訳:
中央アジア・コーカサス地域通信セクター規制当局者:キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、グルジア
他地域規制当局者:ウガンダ、スリランカ、台湾
情報通信政策研究者:英国、フランス、スウェーデン、南ア、インド、スリランカ、バングラデシュ、台湾、米国、カナダ
マルチドナー:欧州復興開発銀行(EBRD)、世界銀行、アジア開発銀行研究所(ADBI)、IFAD、米州開発銀行(IDB)等
日本:総務省、財務省、JICA(国総研、社会開発部、アジア第二部、企画・調整部)、JBIC、慶應義塾大学、日本政策投資銀行、民間企業、横須賀市等地方自治体、NGO等

5.セミナー目的・内容:
(1)目的:
多くの途上国では、情報へのアクセスを可能とするための通信インフラが著しく立ち遅れており、インフラ建設に対する財政負担も厳しい制約下にある。情報通信技術(ICT)の開発プロセスへの活用の第一歩は、通信セクターの規制緩和と競争促進、ユニバーサルアクセスファンドの導入といった具体的な政策改革を進め、民間事業者の参入によって地方通信インフラの整備を進めることである。また、情報通信インフラを地域社会の振興と雇用拡大、競争力強化に結びつけるためには、大学と起業家を核としてイノベーションを生む知的産業のクラスターを形成することが不可欠であり、そのための総合的な地域開発戦略も必要となる。

このことはとりわけ他地域から距離的にも遠い内陸国で、人口の国内分散も著しい中央アジア・コーカサス地域においては重要な課題である。EBRDは同地域の最貧困国において市場経済活動の活性化のための技術援助実施を目的としたETC(Early Transition Country)イニシアチブを2004年4月に理事会決定した。その一環としてEBRDより共催の打診を受けた本セミナーは、情報通信セクター改革に向けて対象国政府当局者と援助機関との間で問題認識の共有と課題の整理を図ることを目的とした。

(2)内容:
中央アジア・コーカサス地域から通信セクター規制当局代表者の招聘に加え、既に通信セクター改革の先行事例を持つ国の政策担当者や、情報通信分野の政策研究者を招聘し、ナレッジ共有型のワークショップを行なった。「通信セクター政策改革」「地域社会の情報アクセス」「ICTクラスターの育成」「ICT教育」を4本の柱とし、講師による講義、各国からの事例の発表による相互学習、テーマ毎のグループ討論、行動計画の策定と発表を組み合わせたスケジュールを編成した。

ICTクラスター形成については、横須賀リサーチパーク、神奈川サイエンスパークの見学を日程に加え、クラスター形成に果たす自治体と大学の役割については、国内事例として横須賀市、市川市、三鷹市、慶應大学、東海大学等から有識者を招いた。

6.セミナーの成果:
(1)地方通信インフラ整備における民間投資促進のための環境作り:
各国事例の紹介、先行事例の研究を通じ、途上国の情報通信セクター改革へのアプローチとして以下の3点を重視するとのコンセンサスが形成された。
①競争促進策導入と独立規制当局の役割強化、
②ユニバーサルアクセスファンドのような地方通信インフラ整備助成制度の導入、
③低所得層が利用可能なコミュニティ情報アクセスポイントの設置、

中央アジア・コーカサス地域では、大手通信事業者の新興事業者への相互接続を義務付けや、通信料金の設定に関する独立規制当局の役割は法令整備がかなり進んでいる。ユニバーサルアクセスファンドについては、キルギスが既に試行導入を開始し、本セミナー参加国の代表者からも同様なファンドの創設に向けた検討を今後行なうとの発言があった。コミュニティ情報アクセスポイントとしての地域情報センター(Community Telecenter)は、タジキスタンを除く他の4ヶ国でパイロット事業が既に始まっている。

他方、いずれの国でも政府部門による上からの取組みに留まっているのが現状で、パイロット事業の自立発展とスケールアップをいかに達成するのかが課題であるとの認識が共有された。その達成に必要な条件として、政治的リーダーシップとサポート、独立規制当局関係者から草の根のICTリテラシーに至るまで膨大な能力開発ニーズの充足、特定セクター限定ではない包括的なアプローチ、が必要との結論であった。

(2)ICTクラスター形成に向けた官民連携、産学連携:
英国、日本、イスラエル、台湾等における産業クラスター形成の先行経験を紹介し、大学、自治体、NPO、起業家支援組織等の役割を分析し、地域特性に合致したクラスター形成に向けた環境作りをどう進めるかを検討した。起業家育成や専門技術開発などを通じて社会変革をもたらすエージェントとしての大学の役割が途上国においても重要であることが確認された。加えて、地域開発の立案に関する自治体と住民、民間企業、大学等がICT産業育成を通じて連携してクラスター形成に至るシナリオの第一歩として、電子政府を通じた自治体と企業・大学・住民の連携を事例として取り上げ、官民双方が電子政府開発を通じて恩恵を受けるWin-Win状況について理解を深めた。

(3)相互学習を通じた理解促進:
プレゼンテーションと質疑応答だけではなく、各セッションの後に中央アジア・コーカサスからの参加者に自国の状況を話してもらう機会を設け、域内各国への適用可能性につき議論を深めた。加えて、参加者を3つの作業グループに分けて、学習内容確認を目的としたグループセッションを毎夕1時間程度設け、「ユニバーサルアクセス」「テレセンター」「規制枠組み」「ICTクラスター」の4テーマに関してはセミナー日程後半に全体討議の時間を改めて設ける等して、学習内容の理解促進に努めた。

中央アジア・コーカサス各国の情報通信規制当局関係者同士が会して意見交換を行なう機会はこれまで少なく、参加者の間では、近隣諸国の取組み状況から学んだり刺激を受けたりすることができたとセミナーを評価する声が聞かれた。また、今後の要望として、参加者間のネットワークを維持し、連絡を取り合える体制の構築が挙げられた。

(4)JICA事業への理解促進と通信セクター改革へのJICAの理解促進:
8月27日は、慶應三田会場において、二国間援助機関によるICT支援の取組みを紹介するセッションを設けた。JICA関連では社会開発部(旧社調部含む)の取組みを中心に発表を行ない、人材育成重視の姿勢を強調した。とりわけ、10月から技プロ開始予定のキルギスIT人材育成センターへの言及は、同地域からの参加者が具体的なイメージを持つのに大きく貢献した。多くの参加者より、規制当局者の能力向上からICTリテラシーに至るまで、膨大な人材育成ニーズが存在するとの指摘があった。

同セミナーへは、国総研、社会開発部、アジア第二部を中心に各セッション3、4名の職員が参加した。民間通信事業者の参入促進のための制度環境整備といった政策改革は、これまでJICAの情報通信分野の中でも比較的取組み事例に乏しい領域である。こうした政策領域における先行事例や研究成果に接することで、JICA関係者も官民協調や規制枠組み、テレセンターへの理解を深めることができた。

7.今後のフォローアップ:
(1)対外発信:本セミナーで用いられた発表用資料等は全てJICAホームページ(主に英語)に掲載する予定。また、英文議事録も社会開発部の協力を得て現在作成中であり、完成し次第ホームページに掲載する。別途EBRDが開設予定の参加者メーリングリストと連携してコミュニケーションの促進に努める。

(2)JICA内での情報整理:本セミナーで用いられた発表用資料等はJICAにとって比較的取組みが手薄な政策領域をカバーしているため、JICA内での成果の普及を図るためには、本セミナーが取り上げた政策課題についてJICAなりの情報整理を行ない、とりまとめ結果をナレッジサイト上で掲載することが必要。現在、調査研究グループと情報通信チームとで勉強会開催を計画中である。

(3)ユニバーサルアクセスファンド創設に関するEBRDとの連携:本セミナー期間中、EBRDからJICAに検討依頼があったもの。EBRDは中央アジア・コーカサス地域の最貧困国において民間主導による経済成長促進を図るために、同ファンド創設に向けた技術援助を検討中であるが、JICAからも技術支援を得たいとする。また、長期的には同ファンド資金の国内動員だけでは膨大な地方通信整備ニーズを充足できないとして公的援助機関によるファンドへの拠出を期待している由。

(4)フォローアップセミナー(2005年4月):本セミナーのフォローアップを目的としたセミナーを、EBRDの次回年次総会を機にベオグラードで開催する意向であるとEBRD関係者より発表があった。論題として、「地方通信(Rural Connectivity)」「ICTクラスター」が挙がっている。ここで、今後半年間の各国の取組み状況について確認が行なわれる予定。

以 上


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CAW―国別分析調査(Country Analytic Work) [仕事が好き]

CAW―国別分析調査(Country Analytic Work)

 読者の皆さんは、世銀やADB、Sidaといった援助機関が自分の担当国についてまとめた援助戦略、援助の重点分野が、どのような調査と分析に基づいて行なわれているのか、疑問を思ったことはありませんか?例えば、世界銀行は、3年に1回の頻度でCAS(Country Assistance Strategy)の策定を行なっていますが、CASをまとめてゆく過程で、貧困アセスメント(Poverty Assessment)や公共支出レビュー(PER: Public Expenditure Review)、国別経済メモ(Country Economic Memorandum)、投資環境調査(Investment Climate Survey)といった様々な調査が行なわれます。これらの調査は、総称して「国別診断調査(Country Diagnosis Study)」ないしは「経済セクター調査(ESW: Economic & Sector Work)」と呼ばれ、CAS策定プロセスにおける必須作業とされています。

 JICAの国別事業実施計画の改訂は1年毎に行なわれるので、他機関と同様な分析作業を行なうことは難しいし、他機関が既に行なっている調査を改めてJICAが独自に行なう必要はないでしょう。他機関が行なった調査結果で利用できるものは利用し、各機関の独自の視点で調査が必要なものに特化し、そしてそれらを援助機関相互に共有する――そうした考えに基づき、2002年6月に「Country Analytic Work(CAW)」と呼ばれる国別分析調査のプラットフォームが発足し、27の援助機関が参加しています。

 JICAの場合、国別事業実施計画策定に繋がる国別診断調査として代表的なものは国総研が実施してきた「国別援助研究」です。国総研はCAWのJICA窓口として、2000年以降に実施した国別援助研究を中心に15件の国別分析調査報告書をCAWウェブサイトに掲載しています。国別援助研究は、他機関の国別分析調査と比べてより長期的な開発効果に重点を置いており、JICAが同国で目指す援助戦略への示唆も含め、他機関にとっても貴重な情報となっています。加えて、昨年度は、アルゼンチン緊急支援パッケージとしてJICAが行なった調査の報告書を6件掲載しました。これは、現在CAWに掲載されている同国関連報告書20件のうちちょうど30%を占めるものです。CAW上で調査報告書を他の援助機関と共有することによって、調査のインパクトを拡大することも期待できます。

 JICAが国別分析調査には、国総研の国別援助研究だけではなく、企画・調整部で行なわれている「国別評価」、開発調査やプロジェクト形成調査の中で行なわれている「セクター分析」も含まれます。セクター分析の場合、案件によってはこのような調査自体が全体として1つの国別分析の体裁を持つことも考えられるでしょう。海外技術協力プロジェクトの中にもこうした性格を持つものがきっとあることと思います。皆さんが担当されている国・案件の中で、その調査結果を他の援助機関と共有することで調査のインパクトの拡大が期待できるものがあれば、是非国総研にご相談の上、CAWへの掲載を検討してみて下さい。

 CAWは、他の援助機関が当該被援助国に関して行なった調査を一覧できる便利なサイトです。皆さんも自分の担当国について詳しく知りたい時は、是非CAWを閲覧してみて下さい。URLはhttp://www.countryanalyticwork.net/です。

 6月21日には、ブリュッセルEU本部において、CAW参加27機関による合同ワークショップが開催されます。CAWとしては、単なる情報共有だけではなく、得られた情報をもとに各機関が援助の有効性をいかに高めたかに注目しており、さらには、国別分析調査を複数の機関が共同で実施するような「縁談」成立も期待しています。ワークショップでは様々な事例につき分析が行なわれる予定ですので、他機関のCAW活用状況についても今後皆さんに報告したいと思います。


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