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国際ICT政策セミナー「情報通信政策改革と地方通信インフラストラクチャー」 [仕事が好き]

標記セミナーは、EBRD、慶応大学、IDRCとJICAが共催し、私はJICAのみならず日本側のコーディネーターの1人として関わらせていただきました。ご参考までに情報提供します。セミナーで用いられたプレゼン資料は電子ファイル入手し次第適宜JICAホームページにアップしているところです。現在は英語版報告書制作に追われているところです。9日間のセミナーだったのでとても疲れましたが、よい勉強になりました。
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1.セミナー名:International Seminar on ICT Policy Reform and Rural Communication Infrastructure

2.開催日程:8月23日(月)~9月1日(水)(於・慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス、三田キャンパス、横須賀リサーチパーク、神奈川サイエンスパーク)

3.参加人数:約100名

4.参加者内訳:
中央アジア・コーカサス地域通信セクター規制当局者:キルギス、ウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、グルジア
他地域規制当局者:ウガンダ、スリランカ、台湾
情報通信政策研究者:英国、フランス、スウェーデン、南ア、インド、スリランカ、バングラデシュ、台湾、米国、カナダ
マルチドナー:欧州復興開発銀行(EBRD)、世界銀行、アジア開発銀行研究所(ADBI)、IFAD、米州開発銀行(IDB)等
日本:総務省、財務省、JICA(国総研、社会開発部、アジア第二部、企画・調整部)、JBIC、慶應義塾大学、日本政策投資銀行、民間企業、横須賀市等地方自治体、NGO等

5.セミナー目的・内容:
(1)目的:
多くの途上国では、情報へのアクセスを可能とするための通信インフラが著しく立ち遅れており、インフラ建設に対する財政負担も厳しい制約下にある。情報通信技術(ICT)の開発プロセスへの活用の第一歩は、通信セクターの規制緩和と競争促進、ユニバーサルアクセスファンドの導入といった具体的な政策改革を進め、民間事業者の参入によって地方通信インフラの整備を進めることである。また、情報通信インフラを地域社会の振興と雇用拡大、競争力強化に結びつけるためには、大学と起業家を核としてイノベーションを生む知的産業のクラスターを形成することが不可欠であり、そのための総合的な地域開発戦略も必要となる。

このことはとりわけ他地域から距離的にも遠い内陸国で、人口の国内分散も著しい中央アジア・コーカサス地域においては重要な課題である。EBRDは同地域の最貧困国において市場経済活動の活性化のための技術援助実施を目的としたETC(Early Transition Country)イニシアチブを2004年4月に理事会決定した。その一環としてEBRDより共催の打診を受けた本セミナーは、情報通信セクター改革に向けて対象国政府当局者と援助機関との間で問題認識の共有と課題の整理を図ることを目的とした。

(2)内容:
中央アジア・コーカサス地域から通信セクター規制当局代表者の招聘に加え、既に通信セクター改革の先行事例を持つ国の政策担当者や、情報通信分野の政策研究者を招聘し、ナレッジ共有型のワークショップを行なった。「通信セクター政策改革」「地域社会の情報アクセス」「ICTクラスターの育成」「ICT教育」を4本の柱とし、講師による講義、各国からの事例の発表による相互学習、テーマ毎のグループ討論、行動計画の策定と発表を組み合わせたスケジュールを編成した。

ICTクラスター形成については、横須賀リサーチパーク、神奈川サイエンスパークの見学を日程に加え、クラスター形成に果たす自治体と大学の役割については、国内事例として横須賀市、市川市、三鷹市、慶應大学、東海大学等から有識者を招いた。

6.セミナーの成果:
(1)地方通信インフラ整備における民間投資促進のための環境作り:
各国事例の紹介、先行事例の研究を通じ、途上国の情報通信セクター改革へのアプローチとして以下の3点を重視するとのコンセンサスが形成された。
①競争促進策導入と独立規制当局の役割強化、
②ユニバーサルアクセスファンドのような地方通信インフラ整備助成制度の導入、
③低所得層が利用可能なコミュニティ情報アクセスポイントの設置、

中央アジア・コーカサス地域では、大手通信事業者の新興事業者への相互接続を義務付けや、通信料金の設定に関する独立規制当局の役割は法令整備がかなり進んでいる。ユニバーサルアクセスファンドについては、キルギスが既に試行導入を開始し、本セミナー参加国の代表者からも同様なファンドの創設に向けた検討を今後行なうとの発言があった。コミュニティ情報アクセスポイントとしての地域情報センター(Community Telecenter)は、タジキスタンを除く他の4ヶ国でパイロット事業が既に始まっている。

他方、いずれの国でも政府部門による上からの取組みに留まっているのが現状で、パイロット事業の自立発展とスケールアップをいかに達成するのかが課題であるとの認識が共有された。その達成に必要な条件として、政治的リーダーシップとサポート、独立規制当局関係者から草の根のICTリテラシーに至るまで膨大な能力開発ニーズの充足、特定セクター限定ではない包括的なアプローチ、が必要との結論であった。

(2)ICTクラスター形成に向けた官民連携、産学連携:
英国、日本、イスラエル、台湾等における産業クラスター形成の先行経験を紹介し、大学、自治体、NPO、起業家支援組織等の役割を分析し、地域特性に合致したクラスター形成に向けた環境作りをどう進めるかを検討した。起業家育成や専門技術開発などを通じて社会変革をもたらすエージェントとしての大学の役割が途上国においても重要であることが確認された。加えて、地域開発の立案に関する自治体と住民、民間企業、大学等がICT産業育成を通じて連携してクラスター形成に至るシナリオの第一歩として、電子政府を通じた自治体と企業・大学・住民の連携を事例として取り上げ、官民双方が電子政府開発を通じて恩恵を受けるWin-Win状況について理解を深めた。

(3)相互学習を通じた理解促進:
プレゼンテーションと質疑応答だけではなく、各セッションの後に中央アジア・コーカサスからの参加者に自国の状況を話してもらう機会を設け、域内各国への適用可能性につき議論を深めた。加えて、参加者を3つの作業グループに分けて、学習内容確認を目的としたグループセッションを毎夕1時間程度設け、「ユニバーサルアクセス」「テレセンター」「規制枠組み」「ICTクラスター」の4テーマに関してはセミナー日程後半に全体討議の時間を改めて設ける等して、学習内容の理解促進に努めた。

中央アジア・コーカサス各国の情報通信規制当局関係者同士が会して意見交換を行なう機会はこれまで少なく、参加者の間では、近隣諸国の取組み状況から学んだり刺激を受けたりすることができたとセミナーを評価する声が聞かれた。また、今後の要望として、参加者間のネットワークを維持し、連絡を取り合える体制の構築が挙げられた。

(4)JICA事業への理解促進と通信セクター改革へのJICAの理解促進:
8月27日は、慶應三田会場において、二国間援助機関によるICT支援の取組みを紹介するセッションを設けた。JICA関連では社会開発部(旧社調部含む)の取組みを中心に発表を行ない、人材育成重視の姿勢を強調した。とりわけ、10月から技プロ開始予定のキルギスIT人材育成センターへの言及は、同地域からの参加者が具体的なイメージを持つのに大きく貢献した。多くの参加者より、規制当局者の能力向上からICTリテラシーに至るまで、膨大な人材育成ニーズが存在するとの指摘があった。

同セミナーへは、国総研、社会開発部、アジア第二部を中心に各セッション3、4名の職員が参加した。民間通信事業者の参入促進のための制度環境整備といった政策改革は、これまでJICAの情報通信分野の中でも比較的取組み事例に乏しい領域である。こうした政策領域における先行事例や研究成果に接することで、JICA関係者も官民協調や規制枠組み、テレセンターへの理解を深めることができた。

7.今後のフォローアップ:
(1)対外発信:本セミナーで用いられた発表用資料等は全てJICAホームページ(主に英語)に掲載する予定。また、英文議事録も社会開発部の協力を得て現在作成中であり、完成し次第ホームページに掲載する。別途EBRDが開設予定の参加者メーリングリストと連携してコミュニケーションの促進に努める。

(2)JICA内での情報整理:本セミナーで用いられた発表用資料等はJICAにとって比較的取組みが手薄な政策領域をカバーしているため、JICA内での成果の普及を図るためには、本セミナーが取り上げた政策課題についてJICAなりの情報整理を行ない、とりまとめ結果をナレッジサイト上で掲載することが必要。現在、調査研究グループと情報通信チームとで勉強会開催を計画中である。

(3)ユニバーサルアクセスファンド創設に関するEBRDとの連携:本セミナー期間中、EBRDからJICAに検討依頼があったもの。EBRDは中央アジア・コーカサス地域の最貧困国において民間主導による経済成長促進を図るために、同ファンド創設に向けた技術援助を検討中であるが、JICAからも技術支援を得たいとする。また、長期的には同ファンド資金の国内動員だけでは膨大な地方通信整備ニーズを充足できないとして公的援助機関によるファンドへの拠出を期待している由。

(4)フォローアップセミナー(2005年4月):本セミナーのフォローアップを目的としたセミナーを、EBRDの次回年次総会を機にベオグラードで開催する意向であるとEBRD関係者より発表があった。論題として、「地方通信(Rural Connectivity)」「ICTクラスター」が挙がっている。ここで、今後半年間の各国の取組み状況について確認が行なわれる予定。

以 上


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