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南南協力とアフリカ援助 [仕事が好き]

1.南南協力支援の現状
南南協力は途上国自身が主体となった国際協力活動であり、協力実施国(以下、「新興援助国」)、受入国双方にオーナーシップが求められる。南南協力の理想形は、第三者からの支援なく新興援助国と受入国間で国際協力が進められることであり、我が国の関与は、この動きに対する支援と位置付けることが必要である。言い換えるならば、先進国による南南協力支援では、特に以下の観点が重視される。
新興援助国の人材及び資源の活用
途上国間技術協力活動への支援
新興援助国のドナー化支援

我が国による南南協力支援は、ODA大綱(2003)では、「アジアなどにおける開発の進んだ途上国と連携して南南協力を積極的に推進する」とあり、中期政策(2005)では「重点課題に取り組むにあたっては、ODA大綱の基本方針である開発途上国の自助努力(オーナーシップ)支援、(中略)政策全般の整合性の確保を含めた我が国の経験と知見の活用、南南協力の推進を含めた国際社会における協調と連携を踏まえる」と述べられている。南南協力支援を積極的に進めている先進国や国際機関は非常に少なく、この分野では我が国が世界をリードしている状況であるということができる。

一般的に南南協力の支援ツールとしてJICAで多用されるのは第三国研修や第三国専門家派遣である。いずれも、ある受入国を支援するに当たってより高い発展段階にある「第三国」の経験と人材を活用するものであるが、JICAの技術協力プロジェクトの一環としてJICA側のコスト負担に基づいて行なわれる単発のものもあれば、「パートナーシップ・プログラム」と呼ばれる枠組み合意に基づき、新興援助国(パートナー国)政府にもコスト負担を求め、第三国研修や第三国専門家派遣をプログラム的に運用しているケースもある。我が国がパートナーシップ・プログラムの枠組みを持つ相手国は以下の3地域11カ国である。
アジア(4):シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア
中南米(4):チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ
中近東・北アフリカ(3):エジプト、チュニジア、モロッコ

また、JICAの技術協力プロジェクトで度々行なわれている「技術交換」や「周辺国参加型セミナー」は、他国の類似案件における先行事例に触れることによる相互学習効果を重視しており、南南協力支援の性格を有するものと考えられる。こうした物理的な移動による対面学習に加え、テレビ会議を通じた遠隔学習システムとして、JICAはJICA-Netを有する。JICA-Netは、世界銀行の遠隔学習ネットワークであるGDLNなどとの相互接続により、異なる地域間でのテレビ会議開催をサポートすることも可能である。

2.アフリカ開発における南南協力活用の可能性
(1)アジア・アフリカ協力
我が国は、TICADプロセスを通じ、アフリカの新たなパートナーとなりうるアジアを中心とした諸国との効力推進を提唱し、JICAも、かかる政策に基づきアジア・アフリカ間の南南協力の推進に努めてゆくとの基本方針がある。しかし、従来から南南協力支援ツールとして活用されてきた第三国専門家派遣は、本邦からアフリカに対する日本人専門家派遣による技術協力の場合と同じ理由で困難な状況である。従って、南南協力支援の中心は第三国研修と、その効果の定着を補完的に支援する遠隔学習システムの活用に置かれることが予想される。

JICA-Netは、テレビ会議・マルチメディア教材・インターネットなど、様々な情報通信技術を活用してJICAの技術協力事業を補完するもので、アフリカ地域では既にケニアで開設された他、JICAの在外事務所が設置されている国で順次開設が予定されている。また、JICA-Netは世銀のグローバル遠隔学習ネットワーク(GDLN)との相互接続も既に確立しており、現在も複数国を同時接続したテレビ会議の開催が可能な環境にある。第三国研修もアジア・アフリカ間遠隔学習も、単発で行われるのでは効果が小さいが、対面学習と遠隔学習と自己学習を組み合わせる学習プログラムをパッケージングできれば、成果の定着により大きく貢献するものと期待できる。多くの援助機関が実施している技術援助(TA)の殆どは、受益国の支援対象者に対して国外での研修機会を提供することができない制度設計になっているため、JICAの本邦研修や第三国研修制度は他機関にはない特徴を有している。

アジアの開発経験のアフリカとの共有を図る際の留意点として、アジアの知見の何がアフリカ開発に有用なのかの特定を誰が行ない、誰がコンテンツとしてまとめていくのか、考え方を整理しておく必要がある。冒頭述べた通り、南南協力では協力実施国、ホスト国双方のオーナーシップが重要であるため、アジア・アフリカ協力を持続的かつ効果的に実施するためには、我が国主導で支援を推進するのではなく、アジア・アフリカ双方の域内諸国に協力実施・受入のための雰囲気が醸成されなければならない。従って、南南協力を支援する際にも、我が国の支援に頼らずアジア諸国が独力で成し遂げた成功事例も、アフリカ地域との共有が有用であると両地域が判断した場合には、我が国としても支援するという考え方の整理が必要となってくる。

JICA-NetやGDLNといった遠隔学習ネットワークは、政府間協力への「場」の提供だけではなく、貿易・投資促進に向けたアフリカ域内政府とアジア域内民間企業家、投資家との官民対話、両地域の民間企業家、市民社会、メディア間の対話・交流の促進にも活用が可能である。

(2)アフリカ域内協力
アフリカ諸国にとっては、アジア諸国や我が国の経験から学ぶことに加え、課題の共有を域内でも進め、域内で比較的共通性の高い政治社会条件、地理的条件、経済条件下において、各々の国が行なっている取組みをグッド/バッド・プラクティスとして共有する試みを支援してゆくことも重要と考えられる。これまでのJICA内での整理では、広域協力は南南協力には含まれないと定義しているが、アフリカの中でも比較的狭い域内でグッド/バッド・プラクティスの共有を図るには域内第三国研修や第三国専門家派遣、遠隔学習システムも依然有効と考えられるため、あえて言及したい。

TICADⅡ(1998)における「アフリカ人造り拠点構想」の具体策として2000年に設立されたAICADは、JICAを通じた日本の支援を受けながら、ケニア、タンザニア、ウガンダの東部アフリカ3カ国が共同で財政支援をし、運営・維持されている。アフリカの人々が自らの力で様々な問題を解決できるように働きかけ、アフリカの貧困削減と社会経済開発に貢献することを目的とし、具体的に、農業・工業セクターにおける生産性向上や水資源、環境、ジェンダー、保健といった住民生活の改善に資する域内の研究活動に対する助成と成果の普及を支援する。これは多くの援助機関が関与する政策研究系の域内研究機関とは大きく異なるアプローチである。AICADのこのような取組みは、東部アフリカ地域における人づくりに貢献しており、我が国としては、今後同様の取組みを北部、東部、南部アフリカ地域に拡大するとともに、アジア・アフリカ協力のアフリカ側拠点としての育成・支援も必要であると考えられる。

3.南南協力支援の課題
以上で述べた通り、アフリカ支援に南南協力を活用する余地は大きいと思われるが、南南協力支援には以下で述べる幾つかの課題が指摘されている。

(1)ニーズとリソースのマッチング
新興援助国と受入国の間には情報の非対称性があり、それぞれ援助ニーズとリソースに関する情報が乏しい。先進国が行なう援助の場合は世界規模での実施を通じて援助ニーズや援助国側の人材情報の蓄積、方法論の精緻化が進んでおり、効率的なマッチング・メカニズムが確立されているが、南南協力ではそれが不十分である。次善策として、新興援助国は、第三国研修主催のように自国がオファーできる知見が何かを明示してそれを必要とする途上国に手を挙げさせるようなsupply-drivenな実施形態を選択しがちである。また、受入国における協力事業の実施に当っては詳細な事前調査が必要となろうが、新興援助国側には自前で事前調査や事業設計を行なう余裕はなく、専門家派遣のような事業形態は選択しづらいことが予想される。(一部の援助機関の間で進められている技術援助のアンタイド化は、受入国が協力実施国の人材情報を十分持たない状況下で自国のニーズに最も合致した専門家を調達する現実的な方法として理にかなったものであり、その結果他の途上国の専門家が選ばれた場合には事後的(ex-post)には南南協力になっていることがある。)リソースのインベントリー作成や途上国ニーズに関する国別分析やセクター分析情報、事業の事前調査情報などの共有といった、ニーズとリソースのマッチング・メカニズムの支援が行なわれない限り、当事国間だけで南南協力の深化を図ることは難しい。

(2)新興援助国側の援助理念、手法の理解
新興援助国側に受入国の開発課題やニーズの特定化に繋がる情報が少ないという問題だけではなく、先進国や国際機関の間でこれまで蓄積されてきた援助の理念やアプローチの共有、援助手法の改善努力に関する情報が少なく、南南協力が援助の潮流を踏まえて有効性が高い形で行なわれる保証は必ずしもない。アフリカの開発問題に南南協力を通じて取り組むのであれば、その前提条件として、協力を実施する側の新興援助国が、これまでアフリカ開発問題に関して国際社会が積み重ねてきた議論や援助手法の検討を十分に踏まえていることが必要である。我が国が南南協力支援の柱の1つとして打ち出している「途上国のドナー化支援」では、このような視点からの新興援助国支援が求められる。2003年9月にコロンビアで行なわれた「キャパシティ・ディベロップメントに向けた南南協力セミナー」のように、南南協力当事者間でCDの重要性の認識を深める取組みは、アフリカにおいても実施されるのが望ましい。

(3)当事国のオーナーシップ
さらに大きな課題として、南南協力推進を我が国が打ち出すこと自体が抱えるリスクを挙げておく必要がある。南南協力は途上国自身が主体となった国際協力活動であり、当事国に主体者意識が乏しい中で先進国が旗振り役を務め、新興援助国の人材や知見を途上国支援に活用することを提唱するのでは、当事国間に主体者意識は育成されないし、協力事業自体の持続性も損なわれる。途上国における開発プロセスのコントロールはあくまでも途上国自身が行なうものであるという点を再確認した上で、途上国自身が他の途上国の開発経験から学ぶ意義を理解し、主体性を発揮できる動機付け、環境作りに我が国としては努めるというアプローチを取る必要がある。しかし、実際には、我が国の国際協力事業の成果を拡大するのに南南協力が有用であるという認識が南南協力推進の背景にはある。我が国の国際協力推進と南南協力当事国のオーナーシップ問題を両立する鍵は、事業実施が我が国と新興援助国の援助協調の下で行なわれるという理解を全ての当事者が共有し、上記(2)でも述べた援助アプローチと手法を理解した上で事業が行なわれることであろう。

(4)グッド・プラクティスの整理と情報共有、評価の重要性
南南協力推進を途上国支援の柱の1つとして位置付けるのであれば、それが本邦の人材を活用して実施する我が国の技術協力だけではなく、他の援助機関が支援しているアンタイドの技術援助と比べて費用対効果が高いことが実証されなければならない。また、CDの観点から南南協力の導入の有効性を見る場合、JICAの援助プログラムの中で、南南協力導入の有無によって有意な成果が得られたのかどうかという視点も必要になる。これまで、南南協力支援に関しては、個別の第三国専門家派遣案件や第三国研修案件の評価は行なわれているが、南南協力導入も含めた協力プログラム全体の評価はあまり行なわれてこなかった。加えて、これまで南南協力支援が途上国の人材と資源を活用した有用なツールといわれながら案件の積み上げが芳しくない理由の1つに、事業経験の蓄積が行なわれておらずグッド・プラクティスの共有が進んでいないことが考えられる。それを推進する体制が十分確立されていないことも大きい。
 
他方、我が国においてODAが途上国でどのように活用されているのか、それが我が国の国民にどのように裨益するのかを国民向けに説明する必要があるのと同様、新興援助国が自国の外でやろうとしていることが当該国国民にどう裨益するのか説明が必要となってくる。新興援助国の国益を考慮することとともに、新興援助国が自国の限られた予算を使って行なう国際協力の成果を国民に説明するための評価の重要性の認識強化を新興援助国に対して働きかける必要がある。


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