『ニューロマンサー』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)【M市立図書館】
ケイスは、コンピュータ・カウボーイ能力を奪われた飢えた狼。だが、その能力を再生させる代償に、ヤバイ仕事をやらないかという話が舞いこんできた。きな臭さをかぎとりながらも、仕事を引き受けたケイスは、テクノロジーとバイオレンスの支配する世界へと否応なく引きずりこまれてゆく。話題のサイバーパンクSF登場!
これも、いずれ読もうと思って「読みたい本」リストに挙げていた作品。2日で読み切った。
この作品がハヤカワSF文庫から出たのは1986年7月。ちょうど僕が三〇堂書店神田本店3階でアルバイトを始める直前だった。今となっては記憶が定かではないが、当時文庫本のSFものといったら『デューン~砂の惑星』シリーズやハインライン『夏への扉』等が平積みされていた。ウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』もその作品名を記憶している文庫本の1冊で、当時はSF文庫に手を出すことなど夢にも思わず、この作品名も「ニュー・ロマンサー(New Romancer)」だと思っていた。当時聴いていた菊池桃子の「BOYのテーマ」で「romancer(特定の言葉を織り込んだ願望を発声することで、その願望を現実化させる能力を持った人間のこと)」という単語だけ頭の中にインプットされていたからだ。
でも、実際は「ニューロ」と「ロマンサー」を合わせた造語neuromancerらしい。神経に働きかけて仮想現実を見せるというような話だろう。映画の『マトリックス』や『攻殻機動隊』を観てから作品を読むと、その世界観が理解しやすいかもしれない。「マトリックス」という電脳空間が実際に舞台となるし、人工知能が自我を持つ聖域の「ザイオン」、人体に埋め込んだジャックにプラグを挿して電脳空間へ移動、凄腕ハッカーの主人公が恋仲になった女戦士を通じて謎の男が率いるチームに参加するというメインキャラ達の相関などは、映画『マトリックス』と共通するらしい。
映画『マトリックス』は1999年公開だから、それよりも10年以上前にリリースされていた本作品は驚異的で、今読んでも全然古さを感じない。逆に言うと、1980年代前半時点でこのような作品舞台をイメージしていた作者の発想力のすごさを感じずにはおれない。映画『マトリックス』を見てもストーリーのディテールがよくわからなかった僕が、『ニューロマンサー』を読んでストーリー展開の細かい部分を理解できるわけがないのだが、SF小説を読んでていつも泣かされるポイントでもあるので、この作品だけが拙いというわけではない。読み手の準備が整っていないのだ。
最後に、本作品に登場する最初の舞台が千葉だというのも、日本人には親近感を感じさせているように思う。1980年代の日本経済はまだ勢いがあり、世界中から注目されていたいい時代だったと思う。作品にいささかの古さを感じるとしたら、作品の舞台として出てくる東洋の唯一の地が千葉であるという点ぐらいだろうか。それでも日本人読者には嬉しいポイントなのだけれど。
Neuromancer: The groundbreaking cyberpunk thriller (S.F. MASTERWORKS Book 173) (English Edition)
- 作者: Gibson, William
- 出版社/メーカー: Gateway
- 発売日: 2016/08/11
- メディア: Kindle版
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