ドマの将来需要 [ブータン]
ビンロウジュの殻剥き機を求む
Need for areca nut de-husking machine- Tenzinwama in Pema Gatshel
Thinley Dorji記者(ペマガツェル)、BBS、2022年7月19日(火)
http://www.bbs.bt/news/?p=172298
【ほとんど抄訳】
ペマガツェル県テンジンワマの人々の生活において、ビンロウジュは重要な役割を果たす。2006年に導入されて以来、それは村人の生計確保手段の大勢を占める。現在も事業は成長中で、殻剥き機があれば、もっと成長を遂げられると彼らは言う。
ノルブガン・ゲオッグ(郡)テンジンワマ村の人々は、この時期、ビンロウジュの植樹で忙しい。15年以上前にこの村に導入されたビンロウジュは、彼らの収入源として大きく成長を遂げた。ビンロウジュは植樹から3年で実をつけるようになり、40~50年は収穫が可能だ。昨年は1㎏あたり35ニュルタムの収入になった。殻剥きがもっと簡単にできるようになれば、もっと儲かると見られている。殻を剥いだビンロウジュの実だけだと、キロ150ニュルタムになる。しかし、殻剥きを手作業で行うのは大変だ。
殻剥きして実だけで売れれば、店主は80個400~500ニュルタムで仕入れてくれる。政府が殻剥き機を支援してくれたらと人々は言う。
ノルブガンの郡長によると、そういうアプローチを住民から受けたことはないという。記者が取材するまで、そのようなニーズがあるということを知らなかった。郡庁では殻剥き機購入を支援したいと言う。既に県の農業担当官に陳情し、協議を始めている。
殻剥き機はノルブガンに限らず、ビンロウジュの生産を行う他の村にとっても便益をもたらす。テンジンワマ村だけで60人以上がビンロウジュで生計を立てている。昨年は、トラック2台分のビンロウジュを収穫した。
プンツォリンに越してきてからはちょっと取り上げる回数は減っているが、ペマガツェルのBBSティンレー・ノルブ通信員の記名記事は今もBBSの報道をたびたび飾っている。ペマガツェルの貴重な情報源となっていて、おそらく会う機会など訪れないと思うけれど、感謝している。
ただ、彼は基本的には現場での取材を通じて見つけた課題をそのまま全国ニュースで報じる傾向が強い。ペマガツェルにはこんな課題があると報じるのはそれはそれで必要だが、「ではそれをどうするか」「ジャーナリズムはその課題解決にどう貢献できるか」の掘り下げがあまりないという点は気になっていた。今回は、この報道を通じて郡長が動き、県庁も巻き込んで殻剥き機の購入につなげるところまでは行ける可能性がある。ジャーナリストによる課題の指摘が解決への糸口になりそうなのは、ティンレー通信員の取材姿勢もちょっと変わったなと感じるところではあった。
この記事を読みながら、思ったことをいくつか挙げておく。
1つめは、ブータン人がよく噛んでいる「ドマ」の原料の1つであるビンロウジュの実で、確かに需要はあるわけだが、若い子たちがドマを噛んでいるところはあまり見たことがない。将来的にも確実にある需要なのか、自信はない。ドマは発がん性があるので食べない方がいいという記事もあるわけだし。
"Doma causes cancer" The Bhutanese, March 11, 2017
https://thebhutanese.bt/doma-causes-cancer/
ただ、隣国でも「パン(paan)」を噛んでる人は大勢見かけるので、ブータンだけで見てたら将来需要が頭打ちなのではないかと思えるが、大消費国が隣りに控えていればその心配はご無用とは言えるのかもしれないな。逆に、インド自身がビンロウジュの輸出国らしいので、ブータンの国内需要に対して、国内生産が追い付いていない実態があるのかもしれない。当面、心配ご無用といったところなのかも。
2つめは、殻剥き機の購入を前提とした議論に終始している点。インドあたりには殻剥き機を作っている業者はいるだろうが、それを購入して、壊れたらどう修理するのか、安易に完成品を輸入する場合のリスクはどう考えられているのかという、根本的な課題を論じる場がブータンにはあまりない気がする。農業は農業の枠内で、医療は医療の枠内で、それぞれが当たり前のように外国からの機材購入を前提として仕事を組み立てているが、短期的な対応としてはそれでいいかもしれないが、国内でもパーツを作れる能力は形成しておく必要があるのではないかと感じる。
パロの農業機械化センター(AMC)でトウモロコシの殻剥き機の試作品を見かけたことがある。AMCの研究開発の一環としてビンロウジュの殻剥き機を試作してみるというのもありかもしれない。ビンロウジュの殻剥き機の研究ではインドの研究者がいくつか論文を発表しているようだし、基本設計のデータも公開されているので、AMCがやる気になったら、プロトタイプ製作は比較的早期で実行できるのではないかと思われる。(ひょっとしたらもうAMCは取り組んでいる主題かもしれないし…)
といういうインセンティブをどうやってAMCに付けたらいいのだろうか。研究開発にお金を付けてもらえるような仕組みがあるといいのだけれど…。
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