提言内容のフォローはやらないのか? [ブータン]
商工会議所、20の有望ビジネス機会を特定
BCCI study identifies 20 potential business opportunities
Thukten Zangpo記者、Kuensel、2022年7月19日(火)
https://kuenselonline.com/bcci-study-identifies-20-potential-business-opportunities/
【要約】
ブータン商工会議所(BCCI)が行った調査によると、全国20県において、農業、教育、エネルギー、製造業、ICT、ツーリズム等のセクターで20もの有望なビジネス機会があるとのこと。この調査は、「2021年有望ビジネス機会特定調査」と呼ばれ、昨日公表された。この調査によって、輸入代替、輸出促進、ブータン人の雇用創出、経済自立という政府の長年の念願への貢献が期待される。
ブータンは貿易不均衡の拡大に直面している。調査報告書によると、2016年から2020年にかけて、電力も含めた輸出総額は37%増加し、482憶ニュルタムに達した。水力を除いた貿易赤字を比較してみると、輸入総額が665憶ニュルタムであるのに対し、輸出は207億ニュルタムとなり、赤字額はGDPの約20%を占めるという。
BCCIによると、経済活動のほとんどは都市部に集中しており、今回の調査の主目的は、農村地域でのビジネス機会の創出にあるという。さらに農村地域の成長は、持続可能で公正な社会経済開発を実現して農村・都市間の人口移動を緩和するのに必要不可欠だとする。今すぐ取り組まないと、国内でより大きな不均衡をもたらすと警鐘も鳴らす。
調査では、ヤクの放牧が行われている高海抜地域における、①「ヤク試乗センター」が提案されている。地元民や観光客をターゲットとする。「ヤクを所有する高地民は、その文化や食事、ライフスタイルの真のエッセンスを披露することができる。しかし、高地以外の住民も、高地コミュニティと協働して、カフェで使う食材の調達を行うことができる。」
《後半に続く》
BCCIといえば、昔、このブログでこんな記事を書いたことを思い出した。「頑張る会計検査院」(2019年1月31日)というやつで、その中で、王立会計検査院(RAA)がBCCIを槍玉に挙げている項目の1つが、「一県三品(ODTP)」という事業で、「政府の政策の方向性とは合致しているものの、責任官庁がある中で、BCCIの本来のマンデートとして行われなければならない会員企業への周知や裨益効果という点で、ほとんど成果を上げていないとする。ODTPについては、三品の選定がデスクリサーチのみによって行われ、事前の事業可能性調査(プレF/S)も行われず、実施後のモニタリングもされていないので、失敗に終わった事業が多い」と指摘されていた。
ブータンはPETや高濃度ポリエチレンといったプラスチックを毎日7.02トン排出している。年間2,562トンという計算だ。本調査では、こうした②硬質プラスチックの植木鉢としての再加工を提案している。
ブータンは2020年、ナットやボルトを5千20万ニュルタム輸入していた。これを再加工して自動車産業や、電気機器、スペアパーツ、建設現場等で利用する③ナット・ボルト生産ユニットも有望だ。10㎜サイズの最もよく使われているナットやボルトの製造から始めて、屋根用シートの固定に用いるドリルネジの製造に拡大していくことが本調査では提案されている。
アジア開発銀行によると、過去5年間で5,140もの建物が、県や市で建てられたという。ティンプー(市及びカサダプチュ地区)だけでも2,780のビルが建設された。本調査では、④造園設計や果樹、花卉、芝生植栽は大きな可能性を秘めると指摘する。
ブータンは過去4年間で57,986個のLEDランプを輸入した。その部品は近隣国から集められ、インドで組立が行われたものだ。ブータンでのLEDランプの需要は今後も成長が見込まれる。本調査では、ブータンも独自の⑤LEDランプ組立工場を持ち、価格競争力をつけるべきだと提言している。
⑥CNC木材加工機を使った木材加工品の生産:切削加工機を使えば、キーホルダーや贈答品(カードホルダーやペン立て)、置物、木製レール等が生産可能。
⑦タイル接着剤:樹脂ベースの接着剤の代替品として有望。2015年から2020年にかけて、9千200万ニュルタム相当の樹脂ベースの接着剤が輸入された。2020年だけでの6千300万ニュルタムに上るという。
⑧ダレチリソース:ブータン人社会におけるダレ消費の習慣を踏まえると、ダレソースの市場参入は容易で、ブータンに入って来る他のソースの代替品となり得る。
⑨グミキャンディ:国内での需要が拡大しており、さらにオーガニック、ヒマラヤ、ピュア、素朴といったブランド価値を付けて、健康志向のグミとして、輸出市場での訴求も可能。
⑩各種フレーバーヨーグルト:プレーンヨーグルトに比べて140%相当の付加価値をつけることが可能。
⑪フィンガーフライム:子どもたちの間で大量に消費されているフィンガーチップスは有望だが、品質向上、パッケージング改善、適切なブランド戦略が必要。
⑫地鶏の養鶏:地鶏は絶滅が危惧されているが、需要は大きく、味や栄養価も高いと見られている。
⑬スープ、ベビーフード:一般に消費されているネッスル社のセレラックの代用品として有望。
その他にも、⑭カクテルフルーツ缶、⑮小袋で小分けされたエゼ、⑯揚げテンマ(トウモロコシ)、⑰バナナクッキー、⑱ジンジャーガーリックペースト、⑲豆腐、⑳冷凍エンドウ豆、といったアイデアが掲載された。
BCCIでは、個人や企業家が、同会議所のビジネス情報促進センターで詳細情報を入手し、役立ててほしいと求めている。
このBCCIの新たな報告書の公開に関する記事を目にしたとき、結局ODTPはどうなっちゃったんだろうかと思い出した。「一郡一品(One Gewog One Product、OGOP)」というのもあって、かつOGOPの方がはるかに有名なのに、ろくに農業の知見もないBCCIが、「一県三品(One Dzongkhag Three Product、ODTP)」なる報告書をリリースして、農業省の協力も得ずに独自で展開し、で結局どうなったのかが全然わからない、そんな取組みだった。
まさか会計検査院に指摘されて、同じようなデスクサーベイだけで今回の報告書をリリースしたわけではないと思いたいが、のっけから「ヤク試乗センター」ってのが登場してしまうと、どれくらい需要があるのか、ちゃんと調べたのかと疑いたくもなる。
それに、CNC木材加工機なんて、既にそれで起業して頑張っている知り合いがいるが、この報告書で言われているような合板を切削加工してキーホルダーやペン立てを作るのは、競合が多くてビジネスとしてペイしない、だから自分は利益率が高いサイネージ(看板)の方にウェートを移していると彼は言っていた。また、使用するインド製の合板は質が一定しておらず、すぐにスピンドル(針)を傷める。スピンドルのスペアが入手できないとしばらく使えなくなるリスクがあるし、自分で直せないと稼働率が維持できない。
突っ込みたいところは他にもあるが、BCCIは、こういう報告書を出しておきながら、事業化は個々の企業家の責任と突き放している節があるのが相当気になった。ちょっと考えれば思い付くようなアイデアを並べているのもどうかと思うが、本当に収益を生むのかどうかが悩ましい事業まで載せてないだろうか。
提言内容をちゃんと実現に至らせるフォローアップをしなかったら、何のための報告書なのだろうか。実現に向けて取り組んで、でもちゃんとやれずに忘却の彼方に置き去りにされたODTPは、まだ実行してみただけマシと言えなくもない。
僕のいる大学でも、今年度のビジネスアイデアコンテストの募集が7月20日から始まった。そういうのに挑戦する学生たちにも、BCCIがこんな報告書を出しているから読んでみたらとアドバイスしたいところだが、なにせ現時点でBCCIのウェブサイトに報告書は公表されていない。ティンプーのBCCIに行かないと閲覧できないというのなら、プンツォリンにいる学生にはすぐには参照にしづらいかも。
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そもそもこの報告書のタイトルで検索してみたら、BCCIが自前の研究員を使って行った調査ではなく、APECS Consultancyというコンサルティング会社に業務委託して行った調査だというのがわかった。しかも、この会社、全国をまわって県別のSWOT分析までやっているという。高地でのヤク試乗は確かにそういう県別の分析の成果だろうというのは想像できるが、では僕らのいるチュカやサムチあたりで行ったSWOT分析からは何が見いだせたのだろうか。標題の20品目と20県は一対一対応はしていない筈なのだが、県レベルでの調査が提案の20品目とどうやって結び付いているのだろうか。
また、こうした調査の外注は、報告書のドラフト段階で発注側がどれだけ読み込んでフィードバックをしているのかによって、出来上がった報告書のオーナーシップの度合いに差が出てくることも考えられる。仕上げの過程にちゃんと関わっていればその後のフォローアップはある程度なされるだろうし、単に丸投げしたものを最後に受け取ったというだけなら、フォローアップがされる保証はない。この調査はどっちだったのだろうか?注意して見ていきたい。
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