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『「一万円選書』でつながる架け橋』 [読書日記]

「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店

「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店

  • 作者: 岩田 徹
  • 出版社/メーカー: 竹書房
  • 発売日: 2022/02/18
  • メディア: 単行本
内容紹介
詳細なカルテを基にお客さん一人ひとりにあった本を 選書するサービス「一万円選書」で注目!1冊ずつ心を込めて「売れる本」ではなく「売りたい本」を売り、読者が運命の1冊に巡り合うお手伝いをする、小さな本屋さんの物語。
本の中になにがある、字がある。字の中になにがあるか、宇宙がある。
「本が好きなんです。それに尽きます。いい本をみんなに読んでほしい。一人でも多くの人に本の面白さを知ってほしい。そのためだったらな何だってやるつもりです。」
北国の小さな本屋が、どんな工夫とアイデアで苦境を乗り越えたのか? 「本が読まれない」といわれるこの時代に、こんなにも人々を魅了する一万円選書の魅力とは? そして、お客さんのカルテを基に選書を担当している本の目利き・岩田徹さんはなぜそこまで今その人に必要な心をゆさぶる本を選ぶことができるのか?
【Kindle Unlimited】
僕が時々読ませていただいているうしこさんのブログで、本書について紹介されているのを見かけた。僕の大学時代からの親友が今北海道で「ブックコーディネーター」という仕事をしているので、彼に、「いわた書店って知ってる?」と尋ねてみたところ、「よく知ってる。来週もお目にかかる」と言っていた。

親友との話のネタに読んでみた。本書の内容についてはうしこさんのブログ記事の方がはるかに簡潔で、かつ包括的に紹介されているのでそちらを参照していただくとして、読みながら僕が感じていたのは、著者の岩田さんにせよ、僕の親友K君にせよ、本好きがこのように本を一生の仕事にできるのは羨ましいことだということ、そして、地方の書店の生き残り策としていいご提案をされていて、地域づくりの一環とも捉えられているのだなというのも伝わってきた。K君、いい仕事してるね。

岩田さんの「一万円選書」にしても、K君の「ブックコーディネーター」にしても、本が好きで、かつたくさんの本を自身で読んでいないととてもできない。しかも、長年の読書の蓄積がものを言うので、20代や30代よりも、僕らのような50代、60代になって生きてくる仕事だと思う。羨ましいお仕事だ。

僕もそこそこ本を読んでたことは読んでたわけだが、小説はともかく、文芸書の読書暦がほとんどない。たいていが社会科学系で、最近では実用書が多く、かつ小説と言っても推しが「岐阜県出身の作家」という枠を持っているため、それ以外の作家の作品はあまり読めていない。そういう条件の中でであれば、「推しの一万円選書」は作れないこともないわけですが。

読みながら途中もう1つ感じたのは、これって、僕らがマーケティング用語としてよく用いる「ロングテール」のアナログ的マーケティング戦略の1つなのかなというところである。出版流通の業界でよく言われるロングテール戦略の成功例としてはアマゾンが有名だが、あれはIT活用してそんなに売れない本でも買い手とマッチングさせる仕組みだと思う。逆に、「一万円選書」でなされていることは、そんな「あまり売れない本」を、著者のようなキュレーターが発掘し、まとめ上げて、「ロングテール」の尻尾の方ではなく、より胴体に近い太い部分に移動させるようなアプローチなのかなと思った。アナログっぽいが、ある程度まとまった需要が作れるので、出版社もそれだったら再版しようという判断もしていけるだろう。

おそらく、こうしたアプローチはコロナ禍で店舗が開けられない中でも需要があると思う。むしろコロナ禍だからこそのニーズがありそうだ。いわた書店だけではさばき切れない引合いもきっとあるに違いない。また、おそらくいわた書店では、著者が読んだ本の中から選書を行っていると思う。全国どこの書店であっても、店主がそれぞれ異なった本のポートフォリオを持っておられ、行われる選書も異なるだろうから、どこの地方書店であってもこの取組みはある程度複製可能で、かつ当分の間は競合は起こりにくいだろう。(例えば、僕が岐阜県西部地方でこの選書をやっているなら、大西暢夫『ホハレ峠』なんて絶対加えると思うが、北海道砂川市の店主が本書を薦められるとは思えない。)

著者も指摘されているように、昔はどこの鉄道駅の近くにも書店があって、どこも品ぞろえに特徴があった。僕の経験でも、東京・山手線沿線の国電(古くてスミマセン)目白駅近くの書店はベストセラーものが多く、西武池袋線・椎名町駅近くにあった書店はそこにしかない本が沢山あった。同じく西武池袋線・桜台駅近くにあった書店も、同駅を使っていたのは1年少々だったけれど、改札を出るとつい立ち寄りたくなる品ぞろえだった。今はこれらの書店はすべて姿を消している。ましてや地方の書店も、学校隣接で文具や学習参考書等を扱っているところはかろうじて残っているかもしれないが、本好きがこだわりをもって並べているという書店ではもはやなくなってしまった感がある。

そんな地方の書店に、「この手があったか」とケースを示してくれる本だ。また、一般読者にも、書店と出版の業界のこれまでの歩みを軽く俯瞰し、今これらの業界、特に街の本屋さんがおかれた状況についても明らかにしている。待ち合わせ時刻よりもちょっと早めに目的地に着いたから時間つぶしにちょっと本屋さんでも―――といった感じで気軽に入れる書店は少なくなった気がするし、あってもどこも同じような品揃えで、しかも最近は模型や手芸品等の大きな付録が付いた本が棚の中で幅をきかせている。店の個性はあまり感じられなくなり、店員も学生のバイトでつまらなさそうにレジ打ちをやっている。(学生のバイトがダメだとは言わない。K君も僕も神田のデカい本屋の同じフロアで学生時代にバイトで知り合った。)

少し前に読んだ伊藤洋志『イドコロをつくる』では、こういう街の本屋さんでも「イドコロ」になり得ると著者は言っていた気がするが、特徴に欠ける本屋が自分の心の安定に役立つともあまり思えない。地域の書店を守っていく取組みも、住民の側からは必要なのかなとも思った。

最後に、先だって本書をブログでご紹介下さったうしこさんに改めて感謝申し上げます。
他のブロガーの方が紹介されていた本を読んでみて自分も良かったと思えると、とても嬉しいです。

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