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稼働不能な耕運機 [ブータン]

耕運機、スペアパーツ不足を理由に未稼働状態~タシガン
Power tillers rusting idle due to shortage of spare parts in Trashigang
Sonam Darjay記者(タシガン)、BBS、2022年3月15日(火)、
http://www.bbs.bt/news/?p=166766
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【抄訳】
タシガン県内ゲオッグに配備された耕運機のほとんどがスペアパーツ不足を理由に稼働不能に置かれている。中には、耕運機を諦めるゲオッグも。43台の耕運機のうち、18台は故障。7台が現在修理中。

耕運機は農民が田畑を耕すのに主に用いられるが、ゲオッグ事務所に停めてある耕運機も見かける。故障のため1年以上も放置され、稼働していない間に腐食がはじまっている。運営上の問題やパーツ入手の難しさに直面し、耕運機を農業機械センターに返却したゲオッグも。農民は、耕運機のオペレーターがいない状態では、故障が頻繁に起こると指摘する。

各ゲオッグでは、農業普及官が耕運機の運営管理を担当する。1日1,500ニュルタムで農民に耕運機を貸し出す。しかし、稼働しているのは20~25%程度。理由は、フルタイム働けるオペレーターがいないこと。耕耘・代かきの時期にオペレーターを確保できないケースも。さらに、耕運機が故障した場合、メンテナンスのために農業機械センターに耕運機を送るのが難しい。そして仮に送れたとしても、今度は農業機械センターのメンテナンス作業がしばしば遅れる。

カンルンにある農業機械センターは、修理作業は現場に作業員を派遣して行うが、大きなメンテナンス作業が必要な場合はカンルンでも受け入れるとしている。センターは、県庁担当者を通じて故障中の耕運機のリストを入手し、それをパロの農業機械センターに送る。パロにスペアパーツがある場合は、カンルンから発注し、入手でき次第現場に向かってパーツ交換作業を行う。しかし、スペアパーツが本部にない場合、日本やタイから調達しなければならなくなる。これには3~5カ月、時には1年かかることもある。

農業機械センターでは、先般の地方選挙で選出された郡長(ガップ)と面談し、センターからの耕運機提供サービスの在り方について意見交換する計画。タシガン県では、2016年から18年にかけて、3種類の耕運機を受領。

稼働不能な耕運機については度々メディアで報じられる。そのたびに、心が痛む。

自分自身の信条で言えば、現地で修理やパーツ調達が簡単にできない機械は安易に外国から持ち込むべきではないと考えている。しかし、機械の供与は目立つ。華々しい調印式や引渡式を行えるので、外交的には見栄えがよく、受け取る側の政治家も「自分が持ってきた」と実績をアピールできる。僕自身の信条とは別の次元で物事が決まっていくのを指をくわえて見ているのはつらい。そして、華々しいセレモニーの時にシニカルに見ていた未来予想が、本当に実現してしまうのはもっとつらい。

ブータンの政治家や政府高官、さらには市民社会組織の人々のナラティブを見ていると、外国からの支援を金額や機材供与の規模といったものさしで評価しているように思えて仕方がない。口では「キャパシティビルディング」や「制度構築」と言っていても、よくよく訊くと自分たちに欠けているキャパシティとは4WDの車両のことだったり、「制度構築」が外国の援助機関が調達したコンサルタントによって作成された「ガイドライン」や「マニュアル」のことだったりする。

メディアも、単に人手不足とかパーツ不足だとか、稼働不能になった現実だけを切り取って、スナップショット的に報じるだけではなく、なぜそうなったのかをもうちょっと深掘りして、やるなら本気のキャンペーンを展開して欲しい。そもそものこの報道、「Farm machinery centre」と表現しているが、これだとその本部がパロのAMC(Agriculture Mechanization Centre)のことなのか、FMCL(Farm Machinery Corporation, Ltd.)のことなのか、どちらかわからない。おそらく後者のことだと考えられるが、その辺のこともわからずに通信員は原稿を書いて報じてしまっている。

オペレーターの人材がなぜいないのか、そもそも現在の耕運機の貸出サービスの設計時に、オペレーター不足は予測していなかったのか、オペレーター不足を補う努力は誰がどう行っているのか、オペレーターがいたとしてもなぜ壊れるのか、故障の内容の特徴はあるのか、それをFMCLはなぜ把握してより前広にパーツの調達計画を立てていないのか、耕運機を使わないでもやっていけるようなゲオッグになぜ耕運機を配置したのか、タシガンだけの問題なのか(同じカンルンのFMCL事務所が所管している他の県では問題は起きていないのか)、多くの県で観測されている問題なら、FMCLや農業省はどのような対策を考えているのか――――。

タシガン県での限定的な出来事としてではなく、全国的な状況をカバーして、根本的な課題として捉えたキャンペーンを展開して、事実を洗い出して欲しい。特にBBSには感じることだが、各地域の通信員が縦割りになっていて、それぞれが横の連携なくバラバラに担当地域の話題を拾って報じている。

加えて、援助する側も、破損しやすい機材のパーツについては、設計データをオープンソース化するよう、メーカーに働きかけて欲しい。「純正パーツじゃないと、機械のパフォーマンスが保証できません」というのがメーカーの言い分なんだろうけれど、今みたいにグローバルサプライチェーンが分断されている現状を考えたら、パーツの供給体制に大きな遅延を発生させないような新たなビジネスモデルを考える時期に来ているのではないだろうか?そうしたオープンソースデータを元にして現地でパーツ複製できる可能性がある人や施設がないわけではない。

スペアパーツ問題は、日本のODAが内包する永遠の課題である。30年以上前から指摘され続けているのに、未だに有効な解決策が見出されていない。その間に、コンピュータのパーソナル化もインターネットの普及も進み、デジタル工作機械もよりコストダウンが進んで生産拠点の分散化が可能になった。しかもネットの普及はハードウェアの世界でもオープンソースが可能となった。テクノロジーの環境は30年間で大きく変わった。周辺環境が変わってきたのだから、機材供与のやり方にも変革が必要なのではないでしょうか。

究極の理想は、パロのFMCLからカンルンのセンターにデータを送信して、カンルンでパーツ複製をその場でやってしまうことである。しかし、現状金属やカーボン3Dプリンター自体が高価で、まだまだ遠い未来の話である。

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