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テックパークCEOの退任インタビューを読みながら [ブータン]

テックパークから垣間見たブータンの未来
Glimpses of Bhutan’s future seen from Thimphu TechPark
Jigme Wangchuk記者、Kuensel、2022年1月12日(水)、
https://kuenselonline.com/glimpses-of-bhutans-future-seen-from-thimphu-techpark/
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全訳や要約の時間的余裕がなかったので、内容はここでは明記しませんがお許し下さい。

ダショー西岡の伝記を書かれたツェリン・シゲ・ドルジさんは、徳島大学に留学され、日本人の我々の間でも有名な方である。2カ月ほど前、ランチをご一緒する機会があったが、徳島大学に留学されたときのエピソードを語っておられたので、ヴェンセスラウ・デ・モラエスのこともご存じかと僕が尋ねたところ、眉山の頂上にあるモラエス館を訪ねたとか、モラエス関連のエピソードも語っておられた。幕末に日本に来られてから昭和初期まで日本で過ごしたモラエスの生涯を見ていたら、ダショーの伝記を書こうという意欲が強まったのかなと勝手ながら想像してしまった。

さて、そんなシゲさんの当地でも肩書は、ティンプー・テックパークのCEOであった。2カ月前にお目にかかった際、12月末で退任されるとおっしゃっていた。在任期間は10年、ブータンのデジタル化を一貫して見て来られた方であった。今回のクエンセル紙の記事は、退任にあたっての独占インタビューだが、彼は同紙に頻繁にコラムを書いており、それをご自身のブログでも転載しておられる。
https://tcdorji.wordpress.com/author/gobhutango/

このインタビュー記事だけ流し読みするだけでも、テックパークの10年の歩みは包括的に理解できるのではないだろうか。ティンプー市内から距離が離れているため、頻繁に行ける場所ではなく、僕も朝から晩まで定点観測して、誰が何をしに来ているのかをしっかり観察してきたわけではないので、テックパーク自体について語る資格があるとは思えないが、あえて印象論だけで述べさせていただくと、一時期は外国企業のFDIの受け皿と見られていたテックパークも、同時にブータン人若手起業家のインキュベーション施設としても開放され、さらに最近ではePIS(電子カルテシステム)のような国のフラッグシップ事業や、DHIの研究開発部門(DRIVE)の入居等もあって、どちらかというとブータン人によるブータン人のための技術開発へと重点が移ってきているような気がする。

2016年11月に「ファブラボ」という言葉が現地メディアを賑わせるようになった際、ブータン最初のファブラボはティンプーテックパークにできる予定という、フライング気味の報道があった。その当時、僕もその物件探しの様子を傍観していたが、テックパークにはラボのスペースは十分にあるものの、市民に開かれるべきデジタルものづくり工房がそこにできるというのにはかなり違和感があった。市民が容易にアクセスできるような場所ではなかったからだ。実際に2017年7月に「ファブラボ・ブータン」ができたのは、テックパークよりも市街にはるかに近いシムトカサイドのバベサ地区だった。

でも、このインタビューの中で、シゲさんは、「スーパー・ファブラボ」というのに言及されている。そう、実は、テックパークの施設内にも、ファブラボを作ろうという動きがDHI主導で進められていて、今は内装工事も機械の据付も進んでいて、未だ到着していない一部の機材の据付を待って、今年前半には開所式が行われる予定である。

スーパー・ファブラボというのは、世界的に見ても、ボストン(米国)とケララ(インド)にしかない。ブータンのスーパー・ファブラボは世界で3番目の施設になる。そのコンセプトは、「ファブラボ2.0」とも称され、「ファブラボに設置する機械を作るファブラボ」である。実際、今インドには国内に72ものファブラボがあるが(2021年11月現在)、特にケララ州に集中している。それは、ケララのスーパー・ファブラボが製作した工作機械が、州内の工科大学に配布されたことが大きいと言われている。

実際、テックパーク内のスーパー・ファブラボ準備室では、3Dプリンターの試作に取り組んでいる。といっても、オープンソースの3Dプリンターのパーツを印刷して、そもそも3Dプリントそのものに習熟する過程といったのが現状だが。機械は相当ハイエンドのものまで揃えるらしいが、使いこなす人材の育成は少し時間がかかりそうな気もする。

もしスーパー・ファブラボが本来の目的通りの機能を発揮すれば、ケララのケースのように、この後ブータンには多くのファブラボができる筈である。輸入に頼らずとも必要なものは現地で作る、山岳国という障壁を乗り越えて、データのやり取りと現地の生産施設とを組み合わせ、国内各地で同時に同じものが作れる、といったビジョンが実現に近づく。

機械に不具合があっても、国内で製作されたのだから、国内で修理もできるということでもある。ただ、その場合の課題は2点考えられる。第1に、そうした機械の複製には費用もかかるが、その費用はどのようにファイナンスされるのかということ。引き続き、公的資金による助成は必要だと考えられる。そして第2に、ファイナンスがあれば機械は複製され、ファブラボ自体も複製可能かもしれないが、それを使いこなす人材はどう育てるのかというのも課題として残る。

スーパー・ファブラボのチームは、経験値を高めていけば相当強力な人材となるが、彼ら自身が地方に設置されるファブラボのインストラクターになるかといったらそれは別の話だ。そこは工科大学の学生などをターゲットとして、ボトムアップによる育成と組み合わせていかないといけない。そうした中から、将来スーパー・ファブラボ入りする人材も出てくるかもしれない。

スーパー・ファブラボも、開設後のビジネスモデルはまだ模索中なので、他のスーパー・ファブラボ同様に、「ファブラボを作るファブラボ」に本当になっていくのかはまだわからない。その潜在能力だけは半端ない。この国の産業育成にも相当貢献できる可能性がある。要は、利用する側がそれなりの意識を持って、「これはできるか」と彼らを突っついていき、スーパー・ファブラボ自身にそれを気付かせていくことも必要なのではないだろうか。放っておいたら、彼らも施設の中にとどまって他社との補完関係をうまく構築できず、DHIが親会社の製造業を1つ作っただけに終わり、競合他社を駆逐してしまうといった事態にだってなりかねないのである。そこは注意が必要だと思う。

シゲさんの退任インタビューから、大幅に話が脱線してしまったが、どうかご容赦下さい。

タグ:ファブラボ
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