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『Designing Reality』 [仕事の小ネタ]

Designing Reality: How to Survive and Thrive in the Third Digital Revolution (English Edition)

Designing Reality: How to Survive and Thrive in the Third Digital Revolution (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Basic Books
  • 発売日: 2017/11/14
  • メディア: Kindle版
内容紹介
過去に起きた2つの「デジタル革命」――コンピュータとコミュニケーションーーは、私たちの経済や生活を根本的に変えてきた。そして、第三のデジタル革命は今、ファブリケーション(工作)の分野で起きている。今日の3Dプリンターはトレンドの始まりでしかなく、指数関数的に加速の度を高め、データを物質へと変換していく。ニール・ガーシェンフェルドとその協力者たちは、スタートレックで登場したユニバーサル・レプリケーターを実際に作ることを究極の目的としている。デジタルファブリケーションは自給自足可能な都市や(ほぼ)なんでも作ることができる能力を約束するが、大きな不平等につながる可能性もある。最初の2つのデジタル革命で世界のほとんどがまずい状態に陥った。本書で描かれたこれからの現実をデザインしていくことで、今回はそうならないことが期待される。
【購入】
11月に読み始め、ダラダラ読んでいたところ、自分のFacebookの写真に写り込んだ本書を見た当地の友人から、「読み終わったら読ませてくれ」と懇願された。僕の読書日記もいよいよ年末の佳境を迎え、年越しの読みかけは残したくなかったので、1週間ぐらいかけて、一気に150頁以上を読み切った。(貸すけど、ちゃんと返してくれよ!)

なぜ友人から「読ませてくれ」と懇願されたかというと、共著者の1人であるニール教授は、ブータンにファブラボ(デジタルファブリケーション・ラボ)を作るために、2014年に初めてブータンに来られ、最初のファブラボができた2017年の開所式にも来訪され、その薫陶を直接受けたブータンの若者が何人かいるからである。「読ませてくれ」と言ってきた友人もそのうちの1人だ。そして、オミクロン株の感染拡大が深刻化しなければ、2022年7月にはブータンで第17回世界ファブラボ会議(FAB17)が開催され、ニール教授は三度目のブータン訪問を果たすことになるだろう。

内陸山岳国であるブータンは、デジタルファブリケーションの普及から得られる便益がとりわけ大きい。2014年の初訪問の際、ニール教授は当時のツェリン・トブゲイ首相とも面談されていて、その際のエピソードが本書の中でも紹介されている。コメを主食とするブータン人は、電気炊飯器を輸入に頼っている。その多くが日本製だ。炊飯器の原理など簡単なのに、なぜ日本からの輸入に頼っているのかという話題になったという。(ちなみに、僕がニール教授から聞いた他のたとえとしては、ティンプーの市内でやたらと見かけるナイキのシューズがある。)

そのトブゲイ前首相が、本書の推薦文を書いておられるので引用する。
ブータンが自身の開発哲学であるGNHを推進する上での最大の制約は、輸入品への過度の依存にある。しかも、ブータンは長く伸びたサプライチェーンの末端に位置する。本書は、デジタルファブリケーションがグローバルな思考を進めつつGNHの原則にも忠実に添いながら、生産はローカルで行うことを可能にし、制約を打破することを可能であることを示してくれている。ブータンが都市単位での自給自足を指向する「ファブシティ」になるだけでなく、国全体として自給自足を指向する「ファブカントリー」に変貌していくことを楽しみにしている。
―――余談だけど、「ファブカントリー」という言葉を最初に使ったのは僕です。本書は2017年11月発刊で、多分前首相の推薦文も2017年夏頃に書かれていると思われるが、僕が全国紙クエンセルへの寄稿において「ファブカントリー」を使ったのは2016年11月のことで、しかも2017年7月のファブラボ・ブータン開所式の際に、教授と前首相の前で「ファブカントリー」に言及している。

話をブータンから本書に戻そう。本書は、共著者の姓が3人とも「ガーシェンフェルド」であり、実は兄弟である。でも、3人はそれぞれ別の途を目指した。(たぶん)長男のニール教授は世界的なファブラボ普及の提唱者であり、本書においても、米国ファブ・ファウンデーションのCEOであるシェリー・ラシターさんの言を引用し、2001年に最初のファブラボができてから、1.5年で倍増のペースでファブラボが世界的に増殖しているのを、「ラスの法則」と呼び、この趨勢が有名な「ムーアの法則」のように、さらに続いて行くと予測している。

こうした指数関数的なデジタルファブリケーションの普及傾向に対し、弟2人は、ビジネスや社会科学の観点から、個人も組織も制度も、一次関数的にしか発展していかないと反論している。1つにはデジタルファブリケーションへのアクセスやリテラシーの問題、さらにはサポートするエコシステムの問題、特にエコシステムについては、①協働や知識共有、②メンターやリーダーの確保、③作品の販売市場の開拓、④設立及び運営資金の確保、⑤ガバナンスメカニズム等の面での課題があると指摘する。

こうして、兄と弟2人が交互に章を分担執筆していくのだが、面白いことに、最初のうちは両者の論点が交わっていないように思えるのが、読み進めるにつれて徐々にシンクロしていく。弟2人の論点は、決して第三のデジタル革命を否定的に見ているわけではなく、第三のデジタル革命は既に始まっていると捉えて、それに個人や組織、制度がどうアラインしていくべきか、そのためには各々のステークホルダーが何にどう取り組む必要があるのかを論じ、言い換えれば、テクノロジーと社会の共進化(co-evolve)を提唱しているのである。

2017年にファブラボ・ブータンができてからの4年半を振り返ってみると、弟2人の懸念する点はよく理解できる。挙げられた項目のどれもが腑に落ちるのである。前首相が推薦文を書いているぐらいだから、それじゃあブータン政府はどう動いているのかと気になるところだが、著者の最後の提言事項のうち、「政府指導者」について挙げられた次の項目は、僕はかなりクリティカルだと思う。

地元のファブラボで時間を過ごし、ファブラボがコミュニティに与えるインパクトを理解する(そして、自分が学んだことを他者とシェアする)

視察には来るが、手は動かさない。自分でやってみないから、その意味がわからない。ただテクノロジーの先進性だけをピックアップするから、テクノロジーのブラックボックス化をかえって助長してしまっている。「自分はなんだかよくわからないが、イノベーションに貢献するから進めよう」と言って、肝心なところを直接的当事者に丸投げする。資金繰りの問題とか、資機材調達上の課題とか、理解できていないから、当事者であるファブラボ・ブータンにとって有益な政策制度的支援がなされていない。

今後、本当にデジタルファブリケーションが指数関数的に普及し、ファブラボ(community fabrication)からパーソナルファブリケーションへと発展していくなら(その後のユニバーサルファブリケーションやユビキタスファブリケーションへの発展径路はちょっとわかりづらかった…)、政策立案者がこれらのテクノロジーを理解していることが必要だ。テクノロジーのブラックボックス化は避けなければならない。

とはいえ、こうした論点を理解していないのは、別に途上国の政策当局者だけではない。先ほどの著者の提言は、そのまま跳ね返って日本の政策当局者や組織にも当てはまってしまう。こうした動向にディープダイブせず、中途半端な理解で対応なしで済ませていると、気付いた頃には第三次デジタル革命がデファクト化していて、その頃になって慌ててももう遅いという事態に陥っているかもしれない。

半ば愚痴になってしまうのでこれくらいでとどめておくが、俺もう知らないから―――。

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