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『妄想する頭 思考する手』 [仕事の小ネタ]

妄想する頭 思考する手 (ノンフィクション単行本)

妄想する頭 思考する手 (ノンフィクション単行本)

  • 作者: 暦本純一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2021/02/05
  • メディア: Kindle版
出版社からのコメント
誰も考えなかった新しい技術は、ひとりの「妄想」から生まれる。「新しいことを生み出す」には、思考のフレームを意識して外したり、新しいアイデアを形にし、伝えたりするためのちょっとしたコツが必要だ。この本では、そういった思考の方法や発想のコツなどを、自分の経験を踏まえながら具体的に紹介する。
【購入】
この半年の僕の大きなテーマは「アイデア出し」だった。だから、突拍子もない「無駄づくり」の藤原麻里菜さんの著書なんかもよく読んだし、「アイデアスケッチ」なんて手法についても少し勉強したりもした。川喜田二郎先生の「KJ法」をかじったのも今年の出来事だった。

そんな流れで本書も購入した。サブタイトルに「想像を超えるアイデアのつくり方」とあるくらいだから、やはりこれもアイデア出しのハウツーが述べられている。著者の肩書はソニーコンピュータサイエンス研究所副所長であり、扱われているアイデアは研究開発のフロンティアを行っているテクノロジーの話が多い。Arduinoを使って日常のちょっとした不便を解消するような民主的なものづくりの領域の話とは違い、それなりにエンジニアリング的な手法で、役に立つかどうかはわからないけれど、本人的には面白い、主体的に没頭して取り組みたいと思うような研究を突き詰めていって作られるイノベーションの領域の話が展開されている。

で、まあそういう研究開発のためのアイデア出しはそれなりに参考にはなったのだけれど、読み手の僕が今抱えている悩みに対して、「そういう見方もあるのか」と気付かせてもらったのが今回の読書での収穫だ。

再三書いてきているが、僕は昨年度の社内コンペで通った新規事業のアイデアを具体化させられずに大苦戦を強いられている。テクノロジーが絡む話では必ずしもないが、部署横断的な事業をやろうとしても、総論では「面白そう」と言ってもらっているのに、各論の組織論になると「うちじゃない」との押し付け合いが始まる。精神的に追い詰められて、「辞退」することも考えたのだが、前例がないので辞退はまかりならんとも言われた。まったく、どうすりゃいいのか見当もつかない中で、今ももがき続けている。

そんな僕に少し元気をくれたのが、本書第4章、第5章で展開されているアイデアの捉え方だった。

 同じようなアイデアは、自分以外にも思いつくことができる。でも、その実現を阻む壁を乗り越えられるのは自分しかいないかもしれないし、乗り越え方にも自分らしさが出せるかもしれない。そう思うと、1回やってみて失敗するぐらいのほうが、やりがいのある面白いアイデアのように思えるのだ(p.107)

 これは「認知的不協和」と呼ばれる現象で、「葡萄を取りたい」という目的と「そこに届かない」という自分の能力不足とが協和しないときに、「この葡萄はすっぱい」つまり、「この課題には、もともとチャレンジするだけの値打ちがない」という解釈にすげ替えることで無理やり整合を取ってしまう。それくらい、人は失敗を嫌う。(中略)失敗が重要なのは、それが「自分が取り組んでいる課題の構造を明らかにするプロセス」だからだ。エジソンは大量の試行錯誤をしたことで知られているが、「私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ」と言っていたそうだ(pp.109-110)

 うまくいかないアイデアを完全に捨て去るのが惜しいなら、「いったん眠らせておく」という方法もある。私自身、それは何度もやってきた。時間や人員のリソース不足で手が回らなくなった案件を、いったん脇に置くのだ。
 ただしアイデアの権利などは守らなければいけないので、論文を発表したり、特許を申請したりはしておく(p.131)
―――なるほど、エジソンの言葉は知っていたけれども、今の僕自身の文脈でもそれは使えるのだ。いずれ中間成果発表会か何かが行われるだろうが、その時には、堂々と、「この新規事業アイデアが今の組織の建付けではうまくいかないということがわかったのがこの事業の成果だ」と報告してやろうかな(笑)。また、今正攻法で挑んでもうまくいかないのなら、少し時間を空けて様子を見ようかというのもありなのだと、開き直りたい気持ちも生まれてきた。

また、本書の最終盤には、「真面目で正しい課題」と、その解決に役立つ技術開発だけが求められている社会では、「予想できない未来」を開拓できる技術は生まれないとも指摘されている。そうすると、「あらかじめ設定された目的の達成につながる「正解」だけが高く評価されるようになってしまう。そうなると、人をキョトンとさせるアイデアに耳を傾ける余裕もなければ、それを試している余裕もない。予測できない未来への可能性をことごとく摘み取ってしまっている」(p.218)、そんな世の中になっていってしまうと危惧されている。

 そうやって、面白い妄想から生まれる新しいアイデアを潰しているとすれば、イノベーションはむしろ遅滞するだろう。実際、日本の科学技術がかつてのような勢いを失い、大きなイノベーションを起こせずにいるのは、それが大きな要因のひとつではないかと私は思っている。(p.221)

―――溜飲が下がる思いがした。著者は、日本全体のことを言っているのだろうが、それは各組織においてもいえるのではないだろうか。現に、ソニーCSLのようなイノベーションを生む組織もあるわけだし。正論で理屈を通されたら、ちょっと舌足らずだけどかなり面白いことを提案しているアイデアも簡単に潰される。そんなことがまかり通る組織では、イノベーションを起こすことは難しいと思った方がいい。

それにしても、「光速エスパー」や「ジャンボーグA」にまで言及があったのには驚きだ。子どもの頃、何気なく見ていた特撮ものに、テレプレゼンス概念の先駆的事例を見るなんて、考えたこともなかった。
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