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『起業のすすめ』 [読書日記]

起業のすすめ さよなら、サラリーマン (文春e-book)

起業のすすめ さよなら、サラリーマン (文春e-book)

  • 作者: 佐々木 紀彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/10/26
  • メディア: Kindle版
内容紹介
NewsPicks創刊編集長の著者が提案する、「夢」も「お金」もあきらめない、会社に縛られない新しい生き方。「サラリーマン教の呪い」を断ち、今こそ起業しよう!起業の醍醐味とは、「自分の人生の”独裁者”になれること」。本書は、初めの起業にあたり、私自身が悩んだこと、知りたかったことを、100人以上の起業家やプロフェッショナルへ徹底取材し、絶対に成功する秘訣を詰め込んだ『起業の教科書』の決定版です。
【購入(キンドル)】
以前ご紹介した鈴木忠平『嫌われた監督』と出版社が同じだったからか、著者同士の対談録がYahoo!ニュースに掲載されているのを見て、気になったのでキンドルでダウンロードしてみた。NewsPicksの創刊編集長という肩書になっているから、実際の起業家への取材や著書のリサーチをベースにして書かれているんだろうと想像はしていたものの、結論から言うと、50代後半のオジサンが読むべき本ではない。半分ぐらい読んで嫌になり、残りは惰性でパラパラ読んだに過ぎない。

なんでこうなってしまったのかは、後で見たアマゾンのレビューコメントの1つが如実に語っている。「地方での起業やスモールビジネスくらいのスケールの起業を目指す方には参考にはならない」―――そう、リタイアして目指そうとしている個人事業主というのは僕にとってはまさにこの規模のもので、本書で語られている起業のスケールのデカさとはまったくレベルが違う。イメージが合わないのだ。本書には申し訳程度に個人事業主にも言及があるし、引退しても週3日ほど働いている起業家の話も出てくるのだが、そういう話の後にすぐに場面遷移が起こり、話がまた30代起業に戻ったり、わりと世間的にも有名な起業家のストーリーに移ったりする。そもそも著者が言う「起業するのに遅いことはない」というのも、せいぜい40代まででの話なのだ。

そういうのが見えてきてしまうと、もう読み手である僕の心が閉ざされてしまい、まともに著者の論点に耳を傾ける気持ちが失せてしまった。そうなるともう嫌なところだけが目に付くようになり、他書の内容を紹介して「詳しくはそちらを読むことをおススメする」という誘導が気になって仕方なくなってしまった。すごく極論すると、本書を使って他書の宣伝をやっているように読めるのである。そして、そんな他人の受け売りが頻発する。

「ビジネス書は読むな」というのも今年はよく目にした格言だが、今回は見事にやられてしまった。つくづく自分が嫌になった。著者が起業を勧めている世代から自分がずれているのがわかってしまうと、敗北感にさいなまれて、読み続けるのが苦痛だった。

それでもポジ要素をあえて挙げるとすれば、1つは「ミッション、ビジョン、バリュー」に関する解説があったことである。これは確かに参考になった。そしてもう1つは、これを読んでいたら、僕がここ数カ月しこっている新規事業の提案について、現状打開に向けたちょっとしたアイデアをいただけた。自分の退職後の人生設計とも関係するものだが、今書き直している企画書について、「こういう加筆をしよう」というひらめきがあった。それともう1つ、「非エンジニアも、プログラミングを丸投げして、ブラックボックスにしない方がいい」と書かれているが、この点は僕も痛感していて、齢をとってからプログラミングを覚えるのが少々難儀であっても、避けて通ってはいけないというのを改めて自分に言い聞かせた。

著者曰く、「このままでは、全体知も、高度な専門知も、ハングリー精神もない、第2世代の生き残りや、第3世代が、日本のリーダーでい続けることになってしまいます。(中略)そうなると、日本の没落は決定的になるでしょう。そうならないように、新しい世代、1980年代以降の世代が、早く世の中の中心に入って、新たなサイクルを生み出さないといけません」とのことである。これをあとがきで言われているが、ここでわかった。

著者にとって、1960年代や70年代に生まれた「第3世代」というのは、日本の没落に拍車をかける、敵対視すべき対象なのだ。だから80年代以降の生まれの40代や30代に起業しろと鼓舞しているわけだ。別にそうした著者の線引きに対して敵愾心を抱くわけではない。それはそれで頑張ってやってくれればいいし、我が子の世代もそういうのにあやかって欲しいと願う。

だけど、もろに第3世代に属する僕などが、本書で鼓舞されている起業をなぞってはいけないのだ。今の僕に必要なのは、やはり身の丈に合った起業の形で、それは本書のカバー領域には含まれていないのだ。
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