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『孤愁(サウダーデ)』 [読書日記]

孤愁〈サウダーデ〉 (文春文庫)

孤愁〈サウダーデ〉 (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/05/08
  • メディア: 文庫
内容紹介
「父が精魂を傾けながら絶筆となってしまったこの作品を、必ずや私の手で完成し父の無念を晴らすつもりだ」――その公約を果たすためには、30余年の歳月が必要であった。本書は、「孤愁(サウダーデ)」を毎日新聞連載中に新田次郎氏が急逝、未完に終わった作品を息子である藤原正彦が書き継いで完成させた。ポルトガル人ヴェンセスラオ・デ・モラエスの評伝である。 「孤愁(サウダーデ)」とは、「愛するものの不在により引き起こされる、胸のうずくような思いや懐かしさ」のこと。軍人で、外交官で、商人で、詩人でもあったモラエスは、在日ポルトガル領事もつとめた。日本人のおよねと結婚、およね亡き後は妻の故郷である徳島に住み、その生涯を終えた。あまり知られていないが、モラエスの遺した詳細な日記や日本を題材にした作品が、日本の素晴らしさ、日本人の美徳を世界に知らしめ、「もう一人の小泉八雲」といわれている。精緻で美しくも厳しい自然描写の新田次郎ファン、日本人の誇りと品格を重んじる藤原正彦ファン、双方の期待に応える一冊。(文庫解説・縄田一男)
【MKレストラン文庫棚から拝借】
15日から17日まで、僕にとっては超久々の三連休だった。祭日が週末にくっついたのも久々だが、それ以上に、毎週土曜日が僕にとっては勤務日で、そもそもが週休1日という状態でここまで3ヶ月ほど走って来た。たまたま今週末はその土曜日をオフにしたため、大型連休になった。とはいえ、この3日間とも完全にオフしていたわけではない。ならしたら毎日半日分ぐらいは、溜めてた仕事を片付けるのに費やした。そして、残りの半日は、本書を読むのに充てた。720頁もある超大作である。

これも、たまたまそこに置いてあったから借りて読んだ。本の内容紹介でも触れられているが、新田次郎の未完の遺作で、これを息子の数学者・藤原正彦が引き継ぎ、23年の歳月をかけて残りの部分を書き上げた。親子二代によるモラエスの評伝で、僕がこれまで触れる機会も乏しかった、明治後期から大正時代にかけての、神戸や徳島の様子を知れる、一種の地域歴史小説である。

僕も自分の読書対象の選択ではいくつかのカテゴリーがあると思うが、本書は、2019年から2020年前半にかけて仕事上も関わっていた、日本の近代史や日本研究のカテゴリーに属する1冊である。今自分がやっている仕事とはほとんど接点もなく、単なる興味本位の読書であった。過去に、新田次郎にしても藤原正彦にしても、著作を読んだことがあるので、単にそういう理由で選んだに過ぎない。

でも、そうして一時期日本の近代史や幕末から明治期に日本に長期滞在した外国人による日本人論や日本滞在記等をわりと集中して読んでいた僕にとっては、やはり本書は読み始めてみたらハマる作品であった。徳島は行ったことがないのでなんとも言えないが、こと神戸に関しては、ボランティアでやっていた仕事や南北朝時代オタクをやっていたので多少の土地勘があり、位置関係をイメージしながら読めた。また、僕はマカオにも数日滞在したことがあって、その間に旧市街地を歩いたこともあるので、モラエスのマカオ滞在時代の足取りも、実際の風景をイメージしながら読めた。

そして、この作品の中から、日清・日露戦争から第一次世界大戦に向かう頃の日本の社会の空気を垣間見ることもできる。「日本人は調子に乗り出すと、想像もできないようなことをやる」(p.151)とか、「諸君は日本人を温順な礼儀正しい国民だと信じているかもしれない。しかし彼等がひとたび外国人を外敵と見た場合の憎悪感はたとえようもないほど激しいものとなって現れる」(p.450)等、外国人というだけで敵国人と見なされてしまう当時の雰囲気が感じられるエピソードが、かなり頻繁に出てくる。

これ読むと、モラエスの著作もそのうち読みたいという気持ちにはなる。

モラエスぐらいに日本びいきで日本礼賛だと読んでて心地も良いが、一方で、モラエスが日本で暮らした時代は、謙虚に外国から学ぼうと言うところから緒戦に勝利を収めて徐々に大きな大戦の泥沼にはまり込んでいく時期とも重なっており、そうした意味でも、今読んでおく意味があるように思う。

ポルトガル語の「サウダーデ」は本作品で頻出するキーワードになっている。新田次郎は「ノスタルジーであり、メランコリーであり、物や人への愛着でもある。全体に通じるのは喜びの含まれた哀しみ、とでもいうのか、ポルトガル人にしか理解できない感情らしい。それも一人々々の感じ方で違うんです」とか「モラエスは故郷へのいとおしさ、懐かしさを込めて日本を愛していたようだ。故郷へ帰らないことによって、サウダーデを強調したかのようにも思える」(p.726)とも語っている。

あぁ、なんだか、また「ポルトガル」に触れたくなってきた。高校時代に久保田早紀を聴き、学生時代に少しポルトガル語をかじった経験者としては、またポルトガルが気になり始めた。


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