SSブログ

これぞブータン的イノベーション [ブータン]

若者のグループが、自動手消毒器と手洗い洗剤噴霧器をリリース
Youth group launches automatic hand sanitiser and liquid soap dispenser
Thukten Zangpo記者、Kuensel、2021年10月14日(木)、
https://kuenselonline.com/youth-group-launches-automatic-hand-sanitiser-and-liquid-soap-dispenser/
Thangtong85.jpg
【抄訳】
イノベーションに取り組む若者のグループが昨日、「Thangtong’85」というブランド名で、現地生産された自動手指消毒剤と液体石鹸ディスペンサーを発売した。これは、7カ月にわたる研究開発と設計変更を経て、ティンプー市内のスタートアップセンターで産声を上げたもの。

Thangtong’85の創設者であるタシ・ナムゲイ氏は、自分たちは、将来的に85種類のイノベーティブな製品を製作するため、チームを拡大していく計画であると述べた。

「自分たちで消毒剤ディスペンサーを作れるなら、なぜ輸入する必要があるのでしょうか?」―――氏はこう投げかけた。現地製作された消毒剤ディスペンサーの価格は2,000ニュルタムで、現地生産の消毒液500mlが含まれる。3ヶ月の製品保証付き。

「この取組みの主な目的は、輸入代替を支援し、若者をよりイノベーティブな活動に参加させることです」と氏は述べる。「私たちは、よりイノベーティブなソリューションを備えた社会的企業になりたいと考えています。」

このプロジェクトでは、50台のマシンを高地の保健所(BHU)や老人介護施設(Goensho Tshamkhang)などに寄贈する予定。最初のフェーズでは150台のマシンを生産する。

グループメンバーの一人であるタシ・デマさんは、「ブータンにはイノベーションがなく、前進する時が来た」と語る。また、別のメンバーであるペマ・ヤンゾムさんは、「このローンチングにより、グループは今後もプロジェクトに取り組む自信がついた」と述べた。

このイニシアチブは、EU(欧州連合)とスイスの開発協力機関Helvetusの資金供与により実現した。
AutomaticHandSanitiser.jpg

ブータン腎臓病財団の創設者であるタシ・ナムゲイさんが、先週あたりからソーシャルメディア上でこの民間工房のことを宣伝し始めたので、僕は好奇心交じりでタシさんに連絡を取り、今週月曜日に彼の工房を見学させてもらった。

10月13日の国王陛下御夫妻のご成婚10周年に合わせた新製品ローンチングで、しかも15日は世界手洗いの日(Global Handwashing Day)である。既にローカルメディアでは注目を浴び始めているし、国王陛下御夫妻にも2機を謹呈するとタシさんは言っていたので、初期の150機は意外と早く売れるだろう。

「コーディングとかはよくわからないけど、私はこうやって輸入代替品を現地生産できることが大事だと思う」とタシさんは言っていた。僕も同感である。コーディングだけでは雇用創出は難しい。

ちなみに、ご想像の通り外装のベニヤ板は「Dumba」というデジタル木材加工専門の民間工房のレーザーカッターで加工が行われている。センサーとノズルがマウントされていて、それで消毒液が噴き出す仕組みだ。消毒液のタンクはミネラルウォーターのペットボトルの再利用である。

工房での生産活動を見学させてもらって、消毒液の液漏れに対するセンサーや回路盤の保護措置が取られていないことや、消毒液の充填作業が、ペットボトルの口から口へ、漏斗もなしにやられていたのが気になった。彼らも漏斗を買おうとしていたが、「あ、それなら作るから」とけん制して、訪問した翌日に3Dプリントして2基寄贈してきた。

IMG_20211011_204403.jpgIMG_20211012_140236.jpg

EUやHelvetusの援助のことが記事では書かれているけど、僕も少しだけ貢献しましたので。製品の華々しい部分じゃなくて、生産工程の改善への地味な寄与ですが、そのうち彼らのソーシャルメディアでも取り上げて下さるでしょう。

工房で彼の話を聞かせてもらって、さらに気付いたことがある。彼はこの消毒剤ディスペンサーの製品化に至るまでに、試作を5回やったと言っていた。日本人的感覚で言うと、試作5回というのは少ないと感じるが、一発での満額回答が常に期待されるブータン人的には結構やっている部類に入るように思える。

IMG_20211011_200040 (1).jpg

もう1つ気になるのが、国産品への市場の評価だ。彼らがいずれ入居するであろうスタートアップセンターには、女性生理用品を製造しているテナントが既に入居している。そこの女性起業家に、以前こんなことを言われた。

女性生理用品の現地生産ということで、国際機関や二国間援助機関、ブータン政府もそうだが、何かのイベントがある時には大量にまとめ買いしてくれるが、平時は輸入品との競争を強いられ、あまり売れない。パッケージングや消費者のニーズに合わせた製品多様化等、今の技術でできることに限界があり、同じような値段で市場に出したら、消費者は輸入品に飛びつく。政府は、輸入関税等、現地企業を優遇する措置もとってくれないし、入居期間2年間というルールも厳格で、テナント企業はスタートアップセンターを出て行かなければならない(空きスペースは沢山あるのに)。つまり、自動消毒剤ディスペンサーも、同じ価格帯で競合する輸入品があると、消費者がそちらを向いてしまう可能性がある。

最後に、工房でのスタッフの動き方を見ていて、タシさん以外の女性スタッフが、タシさんから言われたことをやっていたというのが気になった。タシさん並みの情熱と技術知識を持って、積極的に製品アイデアを出していくような若い人が、もう1人2人必要なのではないかと思った。

とはいえ、コーディング熱に浮かされることなく、こうした比較的ローテクの技術で輸入代替品の生産に挑戦する起業家が少なからずいるというのは嬉しい。取りあえず3Dプリントした漏斗は寄贈したけれど、何か協力できることは他にもあるかもな、ということで、これからも注目していきたい。


nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント