コーディングをPi-Topで習うと… [ブータン]
日本でも今盛んに行われているプログラミング研修、参加資格者がほとんどの場合中高生ぐらいまでに限定されていて、中高「年」のオジサンが参加できるような研修機会はあまりない。文系人間のくせに50代になってからこの世界に関わり始めた僕は、もっぱらラズパイ電子工作の本を買って、パーツは秋月電子通商やスイッチサイエンスで取り寄せて、それでわからないなりになんとか覚えようと努力はしてみるが、どうにもこうにも覚えられない。乱視なのか老眼なのかわからないが、ブレッドボードやGPIOにジャンパーワイヤーのピンを差し込むのにもいちいち眼鏡をはずして凝視しないとできない。
こうして、日本でのプログラミング研修の現場を見たことがないから比較することが難しいのだが、ラズパイ(Raspberry-Pi)内蔵のモジュラーラップトップ「Pi-Top 3(パイトップ)」は、ブータンでは日本よりも頻繁に目にする機会があるような気がする。ブータンでは、コーディングの研修(プログラミング研修)自体がPi-Top 3で行われることが多く、既にデファクトスタンダード化した感がある。
英国のスタートアップ企業が製作したPi-Topをブータンに初めて持ち込んだのは日本人であり、その経緯は下記の本の中でも触れられている。この本の最後の舞台となった2019年4月時点では、Pi-Top 3はティンプーのファブラボ・ブータンに10台弱あるだけだったが、その頃から始まっていたSTEM教育の盛り上がりに目を付けたユニセフが、国内各地に設置されているユースセンターや、IT系の学科を有する大学にもPi-Top 3を多数供与した。

だから、コーディングというとPi-Top 3のモジュラーレールにブレッドボードを装着して、内蔵のPython IDEを呼び出してキーボードでコードを書いていくという姿が、当たり前のように見られる。ラズパイとブレッドボードをジャンパーワイヤーでつなぎ、ディスプレイはHDMIケーブルで、キーボードやマウスはUSBケーブルでつないで、デスクトップPCのような環境を作ってコードを書くという、僕が本で習ったやり方とは、原理は同じだろうが見た目が随分と異なる。
で、今回も、ブータン王立ボランティア「Desuup」向けのデジタルファブリケーションブートキャンプのお話の続きである。
僕自身も、ちょっとかじったラズパイ電子工作の復習ぐらいのつもりで、このブートキャンプに組み込まれていたPi-Topコーディングワークショップにオブザーバー参加させてもらった。繰り返しだがPi-Topの心臓部分にはラズパイが組み込まれているので、原理はラズパイ電子工作と同じだ。それにLEDランプやタクトスイッチ、ブザー、人感センサー等をつなげて、それが思った通りに動くようコードを書くわけである。(但し、厳密に言うと、ImportするライブラリーがRPiからではないのですが…)
また、モジュラーレールからブレッドボードを外して、Pi-Top PULSEというLEDマトリックス付きスマートスピーカーをつなぐと、このLEDマトリックスに電光掲示したり、元々Pi-Top 3には装備されていないスピーカーモジュールとして使用することも可能だ。Pi-Top 3にはSonic-Piという音楽シンセサイザープログラムアプリも装備されているが、スピーカー未装備なのでヘッドホンで聴くしかなかった。Pi-Top Pulseを装着することで、そういう使い勝手も広がる。

ただ、僕はこのPi-Top Pulseを使ってLEDマトリックスを点滅させるコードを書いている研修生の様子を見ながら、ふと、単にLEDマトリックスを点滅させるコードを学ばせたいのなら、同じ英国初の手のひらサイズのマイコンボード「Micro:Bit」の方がいいのではないかという疑問がわいた。Micro:Bitであれば、単体で2,000円強だし、USBケーブルでどんなPCにでもつなげ、それでMicrosoftのMakeCodeにアクセスして、より直感的なコードが書ける。Pi-Top 3を使ってコーディング研修を行うには、Pi-Top 3のセットだけで4万円強、これに別売のPi-Top Pulseが1万円弱かかる。
ブータンでのPi-Topは、きっかけはともかくとして、普及させようとしたのはファブラボ・ブータンとユニセフであり、これをベースにコーディングの研修を組み立てているのは仕方ないと言えば仕方ない。でも、単純にもっと廉価なMicro:Bitと比較してどうかと思ったので、昔ファブラボ・ブータンにいてPi-Top普及をユニセフと進めていた元スタッフに訊いてみた。彼も、本当はMicro:Bitの方が普及に費用がかからないという点は認めていた。
さらに、Pi-Topによるコーディングは、Pythonによるコーディングとは少し違うところもあるという。彼は今ファブラボ・ブータンを離れ、ティンプー・テックパークに入居している、政府フラッグシッププログラムの1つ「電子カルテ情報管理システム(ePIS)」のシステム開発チームで働いているが、その彼曰く、Pi-Topに慣れていたところからPythonに移り、最初は少し戸惑ったそうだ。
一方、Pi-Topは既に第4世代の小型モジュール「Pi-Top 4」も登場させていて、これもファブラボ・ブータンには既に導入されている。こちらの方はまさにラズパイを内蔵した筐体で、これをディスプレイやキーボード、マウスにつないでPCとしても使える他、筐体にGPIOが付いていて、ジャンパーワイヤーをつないで電子工作にも使える。
こうして、ファブラボ・ブータンでのPi-Topコーディングの研修の様子を見学させてもらって、確かに、研修受講者はコードを書く経験は積めたと思う。ただ、受講者でいちいち書いたコードをメモしている者はほとんどいなかったし、主催者側も紙で書いた資料を配ったりはしていなかった。これで本当に定着するのかは少し疑問だ。さらに言えば、こうしてデファクト的にPi-Topを使っていることで、コードを書くにはPi-Topが必要という先入観が持たれてしまわないだろうかと心配にもなった。他のPCでのコードの書き方にはインストラクターもあまり言及していなかったので。
それに、ファブラボで研修を主催している以上、こうして学習機会を提供したコーディングと、それ以外のものづくりのスキル――例えば3Dプリンティングやレーザー加工、CNC等が、どう関連してくるのか、どう組み合わさっていったらいいのかを、併せて考えてもらう機会を設けた方がいいのではないかという気もした。各々の技術はそれ単体で存在しているわけではなく、ものを作るなら、それらを組み合わせて試作を進める必要があると思う。それが、今のファブラボ・ブータンではあまりうまく伝えられていないように見える。
LEDマトリックスが様々な形や色で点滅する姿を見て、研修修了式に来られた政府高官の方々は、「よくやった」と満足そうに視察を終えて帰っていかれるが、肝心なのは実はこれからで、あの研修のやり方で、受講者はその後も継続的にコードを書く実践を続けられるのかどうか、また、自分のPCがない中で、もしコードを書きたいからというのでファブラボを再訪した元受講者が、ファブラボでPi-Top 3を貸してもらってコーディングの反復練習をしたいと申し出たとして、ファブラボブータンはそれに応じられるのだろうか。
加えて、こうして見せてもらいながら、ユニセフが大量に支給したと言われている全国のPi-Top 3が、今どういう状況にあるのかというのも気になった。うまくものづくりとつなげられたり、コーディングの反復練習をしたりするのに頻繁に使われているのであれば、Pi-Top 3への投資も無駄ではないと思うが。
個人的には、Micro:Bitももうちょっと普及させられたらいいのになとは思う。
自分自身がものすごく詳しいわけではないテーマについて書いていますので、つたない表現になっている箇所が多々あることはお赦し下さい。
こうして、日本でのプログラミング研修の現場を見たことがないから比較することが難しいのだが、ラズパイ(Raspberry-Pi)内蔵のモジュラーラップトップ「Pi-Top 3(パイトップ)」は、ブータンでは日本よりも頻繁に目にする機会があるような気がする。ブータンでは、コーディングの研修(プログラミング研修)自体がPi-Top 3で行われることが多く、既にデファクトスタンダード化した感がある。
英国のスタートアップ企業が製作したPi-Topをブータンに初めて持ち込んだのは日本人であり、その経緯は下記の本の中でも触れられている。この本の最後の舞台となった2019年4月時点では、Pi-Top 3はティンプーのファブラボ・ブータンに10台弱あるだけだったが、その頃から始まっていたSTEM教育の盛り上がりに目を付けたユニセフが、国内各地に設置されているユースセンターや、IT系の学科を有する大学にもPi-Top 3を多数供与した。

ブータンにデジタル工房を設置した (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 山田 浩司
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2020/09/25
- メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
だから、コーディングというとPi-Top 3のモジュラーレールにブレッドボードを装着して、内蔵のPython IDEを呼び出してキーボードでコードを書いていくという姿が、当たり前のように見られる。ラズパイとブレッドボードをジャンパーワイヤーでつなぎ、ディスプレイはHDMIケーブルで、キーボードやマウスはUSBケーブルでつないで、デスクトップPCのような環境を作ってコードを書くという、僕が本で習ったやり方とは、原理は同じだろうが見た目が随分と異なる。
で、今回も、ブータン王立ボランティア「Desuup」向けのデジタルファブリケーションブートキャンプのお話の続きである。
僕自身も、ちょっとかじったラズパイ電子工作の復習ぐらいのつもりで、このブートキャンプに組み込まれていたPi-Topコーディングワークショップにオブザーバー参加させてもらった。繰り返しだがPi-Topの心臓部分にはラズパイが組み込まれているので、原理はラズパイ電子工作と同じだ。それにLEDランプやタクトスイッチ、ブザー、人感センサー等をつなげて、それが思った通りに動くようコードを書くわけである。(但し、厳密に言うと、ImportするライブラリーがRPiからではないのですが…)
また、モジュラーレールからブレッドボードを外して、Pi-Top PULSEというLEDマトリックス付きスマートスピーカーをつなぐと、このLEDマトリックスに電光掲示したり、元々Pi-Top 3には装備されていないスピーカーモジュールとして使用することも可能だ。Pi-Top 3にはSonic-Piという音楽シンセサイザープログラムアプリも装備されているが、スピーカー未装備なのでヘッドホンで聴くしかなかった。Pi-Top Pulseを装着することで、そういう使い勝手も広がる。

pi-topPULSE パイトップ パルス - スマートスピーカー LED マトリックス付き for Raspberry Pi
- 出版社/メーカー: pi-top
- メディア: エレクトロニクス
ただ、僕はこのPi-Top Pulseを使ってLEDマトリックスを点滅させるコードを書いている研修生の様子を見ながら、ふと、単にLEDマトリックスを点滅させるコードを学ばせたいのなら、同じ英国初の手のひらサイズのマイコンボード「Micro:Bit」の方がいいのではないかという疑問がわいた。Micro:Bitであれば、単体で2,000円強だし、USBケーブルでどんなPCにでもつなげ、それでMicrosoftのMakeCodeにアクセスして、より直感的なコードが書ける。Pi-Top 3を使ってコーディング研修を行うには、Pi-Top 3のセットだけで4万円強、これに別売のPi-Top Pulseが1万円弱かかる。
ブータンでのPi-Topは、きっかけはともかくとして、普及させようとしたのはファブラボ・ブータンとユニセフであり、これをベースにコーディングの研修を組み立てているのは仕方ないと言えば仕方ない。でも、単純にもっと廉価なMicro:Bitと比較してどうかと思ったので、昔ファブラボ・ブータンにいてPi-Top普及をユニセフと進めていた元スタッフに訊いてみた。彼も、本当はMicro:Bitの方が普及に費用がかからないという点は認めていた。
さらに、Pi-Topによるコーディングは、Pythonによるコーディングとは少し違うところもあるという。彼は今ファブラボ・ブータンを離れ、ティンプー・テックパークに入居している、政府フラッグシッププログラムの1つ「電子カルテ情報管理システム(ePIS)」のシステム開発チームで働いているが、その彼曰く、Pi-Topに慣れていたところからPythonに移り、最初は少し戸惑ったそうだ。
一方、Pi-Topは既に第4世代の小型モジュール「Pi-Top 4」も登場させていて、これもファブラボ・ブータンには既に導入されている。こちらの方はまさにラズパイを内蔵した筐体で、これをディスプレイやキーボード、マウスにつないでPCとしても使える他、筐体にGPIOが付いていて、ジャンパーワイヤーをつないで電子工作にも使える。
こうして、ファブラボ・ブータンでのPi-Topコーディングの研修の様子を見学させてもらって、確かに、研修受講者はコードを書く経験は積めたと思う。ただ、受講者でいちいち書いたコードをメモしている者はほとんどいなかったし、主催者側も紙で書いた資料を配ったりはしていなかった。これで本当に定着するのかは少し疑問だ。さらに言えば、こうしてデファクト的にPi-Topを使っていることで、コードを書くにはPi-Topが必要という先入観が持たれてしまわないだろうかと心配にもなった。他のPCでのコードの書き方にはインストラクターもあまり言及していなかったので。
それに、ファブラボで研修を主催している以上、こうして学習機会を提供したコーディングと、それ以外のものづくりのスキル――例えば3Dプリンティングやレーザー加工、CNC等が、どう関連してくるのか、どう組み合わさっていったらいいのかを、併せて考えてもらう機会を設けた方がいいのではないかという気もした。各々の技術はそれ単体で存在しているわけではなく、ものを作るなら、それらを組み合わせて試作を進める必要があると思う。それが、今のファブラボ・ブータンではあまりうまく伝えられていないように見える。
LEDマトリックスが様々な形や色で点滅する姿を見て、研修修了式に来られた政府高官の方々は、「よくやった」と満足そうに視察を終えて帰っていかれるが、肝心なのは実はこれからで、あの研修のやり方で、受講者はその後も継続的にコードを書く実践を続けられるのかどうか、また、自分のPCがない中で、もしコードを書きたいからというのでファブラボを再訪した元受講者が、ファブラボでPi-Top 3を貸してもらってコーディングの反復練習をしたいと申し出たとして、ファブラボブータンはそれに応じられるのだろうか。
加えて、こうして見せてもらいながら、ユニセフが大量に支給したと言われている全国のPi-Top 3が、今どういう状況にあるのかというのも気になった。うまくものづくりとつなげられたり、コーディングの反復練習をしたりするのに頻繁に使われているのであれば、Pi-Top 3への投資も無駄ではないと思うが。
個人的には、Micro:Bitももうちょっと普及させられたらいいのになとは思う。
自分自身がものすごく詳しいわけではないテーマについて書いていますので、つたない表現になっている箇所が多々あることはお赦し下さい。
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