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『未来をつくる言葉』 [読書日記]

未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために―

未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために―

  • 作者: ドミニク・チェン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: Kindle版
内容紹介
この人が関わると物事が輝く!気鋭の情報学者がデジタル表現の未来を語る。ぬか床をロボットにしたらどうなる?人気作家の執筆をライブで共に味わう方法は?遺言を書くこの切なさは画面に現れるのか?湧き上がる気持ちやほとばしる感情をデジタルで表現する達人――その思考と実践は、分断を「翻訳」してつなぎ、多様な人が共に在る場をつくっていく。ふくよかな未来への手引となる一冊。
【コミセン図書室】
今月は読書ペースが落ちている。父の死去に伴い、前半の2週間は大半を実家で過ごしていたからだ。高齢の母に代わって役所関係、名義書き換え、遺品整理等をやりつつ、その間に予定されていた法要の準備もした。週末のヘルプで来てくれた弟と、母の畑仕事も少し進めた。

その間にも少しだけ仕事も進めた。プロボノでやってた方の仕事は、正直言うとあまり手が付かなかった。無給のボランティアなんだからそういう時は後回しでいいと思っていたが、一緒に仕事している仲間だと思っていた人がほとんど助けてくれず、結果手つかずで残った。これじゃ「仲間」だと思っていた奴も「仲間」とは呼べない。12日に東京に戻ってからは、結構必死で自分自身で仕事片付けた。

だから、この200ページ少々の比較的薄い本も、読み切るのに1週間近くを費やす結果となった。ある作家さんが本書の販促オビに「美しい本」と評されていたが、文章には確かに美しさや静けさを感じた。そのオビを最初に見てしまったからかもしれないが、読んでいて「美しさ」とか「静けさ」を感じるなんて、これまでの読書ではあまり体験したことがない。

しかも、著者は博士号も取得されている学者だから、そのベースになっている過去の古典的文献からの引用も多い。落ち着かない時に返却期限を気にしながらそそくさと読んだ今回はともかく、少し心にゆとりが生まれた時に、改めてじっくりと味わいながら読み進めてみたい。引用されている古典的文献も併せて読めれば、自分の言行にももうちょっと深みや落ち着きが出てくるだろう。

だから、今回は再読を前提にこのブログ記事を書いている。

ドミニク・チェンという情報学者を認識したのはここ1、2年のことである。今となっては記憶も定かではないが、彼が『WIRED』か何かに寄稿していたものを読んだのがきっかけだったと思う。そこで名前だけインプットされて、本格的に彼の著作を読むのは今回が初めてである。

初読で特に印象に残ったのは2点。1つは、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」推進の背景。アマゾンの本書紹介ページには著者プロフィールも詳述されているが、そこには「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)Design/MediaArts専攻を卒業した後、NTT InterCommunication Center[ICC]にて研究員としてオープンライセンス「クリエイティブ・コモンズ」に基づいた世界初のメディアアート映像アーカイブの構築に従事する傍ら、日本におけるクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの普及を行うためにNPOクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現・コモンスフィア)を立ち上げ、自由なインターネット文化の醸成に務めてきた」とある。クリエイティブ・コモンズはこれから僕が関わろうとする新たな仕事においてはかなり重要なキーワードであるため、理解を深めておく必要があった。本書におけるチェンの記述は、その背景を知るのにもってこいで、平易な文章でわかりやすく説明されている。もっと詳しい文献は他にもあるだろうが、とりあえずサラッと知るにはいい本だと思った。

もう1つは、大学・大学院での過ごし方や学生・院生との接し方に関する示唆が得られたこと。著者は高卒後の進路選択で哲学を勉強するかメディアアートを専攻するかで迷って後者を選んでいるが、思考の枠組みは高校生時代に哲学に触れたことで形成されたと述べている。振り返って僕自身の高校時代、そういう哲学で頻出するような古典的文献を読んでいたかというと、それがからっきし。おそらくそんな高校時代を過ごした人はかなりレアだと思われる。

しかし、そういう形で古典を読んでおくことで、引き出しが多くでき、それが新たな現実社会の事象に対する考察にも援用できる、そんなケースを著者は本書の中でいくつか紹介している。大学院生ともなればそういう実践が本来なら期待されるはずである。でも、僕自身、自分が大学院生時代に読んだテキストや参考文献を論文を書く際の引用で使い切れたかというとできていたとも思えないし、今は逆に教える立場に立った時、学生に薦める文献に必読の古典的文献をセレクトして読むよう指示したりもあまりできていないと反省させられる。

本書は結局のところドミニク・チェンの自叙伝、ライフヒストリーが描かれているような1冊になっている。「ドミニク・チェンの作り方」というような1冊だ。メディアアートを専攻している学生だけでなく、多くの読者に、優しさを感じる言葉で、「もっと勉強しようよ」と問いかけているように思えてならない。

多分、再読する。落ち着いたところで、改めてじっくり味わいたい。



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