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『SDGs時代のグローバル開発協力論』 [持続可能な開発]

SDGs時代のグローバル開発協力論―開発援助・パートナーシップの再考

SDGs時代のグローバル開発協力論―開発援助・パートナーシップの再考

  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2019/10/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
開発援助から開発協力への転換期を迎え、地球規模の課題解決のために多様な担い手との包括的なパートナーシップ構築が求められている。紛争と難民、復興支援、農業開発、貧困・格差など、開発経験の実証的考察を踏まえ「共感」と「協働」の視点から展望する。
【会社の図書室】
編著者の1人と知り合いで、ここ2年ぐらいはその方の紹介で、別の本の執筆協力をしている関係上、ちょっと読んでおいた方がいいかなと思い立った。但し、2530円もするので、購入ではなく、ありそうな図書室で借りて読んだのだけれど。

僕はどちらかというとODA側に近い立場にいる人間なので、SDGsのことを多少よく知っていたとしても、そしてこの編著者の1人と知り合いだったとしても、そして自分自身もSDGsについて論じてみたいという思いがあったとしても、この本の執筆に呼ばれることはなかっただろう。その方からご紹介していただいた別の本への執筆協力の際にも、編著者の方から僕の立場について若干の警戒感を示された。

では、僕がODAを擁護するかというとそうでもなく、批判の中には当たっていると思うこともあるので、改めるべきところは改めるべきだと思っている。心情的には、本書の執筆陣の論調に対しては共感するところが大きい。というか、見慣れた論調であると思う。

その、「見慣れた論調」というところが実は曲者だ。執筆者は皆NGOや市民社会に近い立場で開発途上国の貧困問題や人権の問題に取り組んできた活動家や研究者ばかりだ。自ずと日本政府やJICAが外交やODAを通じてやってきたことに対しては批判的で、そういう緊張感が両者の間にあっていいと僕は思っている。

ただ、僕が気になるのは、SDGsのようなマルチステークホルダーのパートナーシップで目標達成に取り組もうと言われている趨勢の中で、「政府vs.市民」という枠組みでの批判的な論じ方だけで本当に良かったのかという点である。SDGsという名がタイトルに付いているために、SDGsに関心のある学生や社会人が本書を読むだろう。そして、日本政府やJICAへの批判的論考が続く一方で国際機関や企業のやっていることへの論考があまりないので、政府や政府機関がやってることは企業よりもたちが悪いというイメージが持たれるかもしれない。

でも、今、ビジネスセクターの人々が「SDGs=ビジネスチャンス」と言っていても、世界の貧困問題や人権問題に対して何かものを言っているだろうか?行動しているだろうか?例えば今ミャンマーで起きていることに関して、進出している日本企業、特に、SDGsへの取組みをアピールしている企業は、どのような声明を出し、どのような行動をしているだろうか?(勿論、そういう日本企業のことも慮ってか、ODAの停止について明言していない政府や公的機関もどうかと思うが。)

最近、SDGsへの自身の取組みの歩みについて本を出された企業家が、「自分がいくら頑張ったって開発の専門家にはなれない」と著書の中で述べられているのを読んだ。その後に「だからJICAは企業への支援を続けるべき」という発言が続くのだが、僕はそれには複雑な思いがした。毎年必ずその途上国の現場に足を運んでいる人が、その現場になかなか足を運べていない「開発の専門家」に頼る構図は、どこかおかしい。その人自身がその地域の開発の知見を積み重ねていかないでどうするのか。

だから、市民社会側の論者の方々にも、SDGsを叫んでいる企業の姿勢に、もう少し注目を注いで欲しかった。(同様に、日本政府批判中心で国際機関はどうなのかという点にも少し引っ掛かりがあったのだが、長くなりそうなのでこのへんにしておく。)

本書の論者の多くは、デビッド・ヒューム『貧しい人を助ける理由』を援用し、「政策の一貫性」を重視している。なので、貿易・投資、人の移動等も含め、途上国の開発の実現に包括的に取り組む政策パッケージになっているのかどうかを評価する視点に一定の理解を有していると思われる。同書では「援助の役割の相対的低下」も論じられていたと記憶している。それだけに、本日ご紹介の本書には、いつものODA批判だけでなく、企業の貿易・投資への姿勢とか、日本政府の外国人受入政策とか、開発への貢献という視点から考察がもっとあってもよかったのではないだろうか。

最後に、本書で強調されている「グローバル開発協力」の要点を以下で列挙しておく。
①地球規模の視点を持ち、人間開発、社会開発、草の根参加アプローチへ転換すること、
②SDGsに貢献するグローバル・パートナーシップを目指していくこと、
③「人間の安全保障」の視点を取り入れること、
④民主主義的価値と政策環境を改善(Enabling Environment、市民社会スペースの確保)すること

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