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『Gene Mapper - full build -』 [読書日記]

Gene Mapper -full build-

Gene Mapper -full build-

  • 作者: 藤井 太洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/04/24
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
拡張現実が広く社会に浸透し、フルスクラッチで遺伝子設計された蒸留作物が食卓の主役である近未来。遺伝子デザイナーの林田は、L&B社のエージェント黒川から自分が遺伝子設計した稲が遺伝子崩壊した可能性があるとの連絡を受け原因究明にあたる。ハッカーのキタムラの協力を得た林田は、黒川と共に稲の謎を追うためホーチミンを目指すが―電子書籍の個人出版がたちまちベストセラーとなった話題作の増補改稿完全版。
【市立図書館MI】
今年は藤井太洋のSF作品を読むと年初に宣言していたので、その第一弾。個人出版の電子書籍で7,000回ダウンロードを記録したという作品で、著者のメジャーデビュー作品である。藤井作品は発表順に読んでいくことにしよう。

SF作品はあまり慣れないので、手に取るまでにも時間がかかるし、読み始めてからも、ストーリー展開がこちらがわかったかわからなかったかがわからない状態で、作品の世界観を味わえるところまでなかなか辿り着けないのが悩ましい。コリィ・ドクトロウにしても、『三体』の劉慈欣にしても、読んでいて作品を味わえているという確信が抱けずに困った。舞台が外国だからか、近未来の未だ表出化していない事象を取り上げているからか、そもそも科学のリテラシーが低いからなのか、とにかく味わえない。(ドクトロウなんて、原書ではあれだけの数の作品が世に出ているのに邦訳されているのは『マジック・キングダムで落ちぶれて』と『リトル・ブラザー』しかない。日本の一般読者に受けるのかどうかは思案のしどころだろう。)

そこで、作家が日本人で、登場人物に日本人が含まれている作品ならどうなんだろうかと思い、それが藤井作品挑戦宣言へとつながっていった。

ストーリーは、既に内容紹介のところで少し触れられているが、林田と黒川がホーチミン入りしてからの展開をここで書いてしまうと、ネタばらしになる恐れがあるのでやめておく。その上で、外国人作家が書いた作品と比べて味わえたかと訊かれれば、味わえたのかなという気はする。主人公・林田の目線で、彼の目の前で起きていることや彼自身の行動を中心に話を展開させている点、そしてちょっとしたユーモアをはさんだり、伏線ともとれる相手のちょっとした仕草にも言及したりと、ジャンルがまったく違うけれど、僕の好きなロバート・B・パーカーの「私立探偵スペンサー」シリーズと似ているなという気がした。そういう作風に自分が慣れているからなのかな。

ただ、VR/ARの話が挟まれてくると、今林田が目にしているものはリアルな光景なのか、仮想的なものなのか、にわかには想像がしがたく、それが読みづらさにはつながったかもしれない。もう1つの難しさは遺伝子工学への読者の造詣のなさに由来するもので、近未来に増え過ぎた世界人口に食料供給するには遺伝子組み換え作物の導入がシステマチックに行なわれる必要があるというのは頭ではわかっているものの、なんで会社のロゴを畑に大きくマークしなければいけないのかとか、食用と加工用とで用途別で遺伝子組み換えを行った場合に、もし日本酒製造用の品種のコメを誤って食用として食べてしまったら本当にそんなことが起こるのかとか、理解に苦しむ記述もあった。

特に混乱したのは、遺伝子組み換え種子を使っていて完全有機栽培という点だ。確か、有機農業という時には遺伝子組み換え種子の使用はNGだったんじゃなかったかな?そこらへんの記述は、ひょっとしたら読者の誤解を招くかもしれない。

もちろん、作者だって今起こっていない近未来の事象を想像しながら描いているわけで、それが現実から外れていたとしても、フィクションだからと割り切って読んでいく必要がある。藤井作品、続けて読みたいかと訊かれたら、読みたい。
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