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『「接続性」の地政学』(下) [仕事の小ネタ]

「接続性」の地政学 下: グローバリズムの先にある世界

「接続性」の地政学 下: グローバリズムの先にある世界

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: -
内容紹介
ポスト・グローバリズムの新しい世界像を提言した全米ベストセラー! グローバル戦略の専門家が膨大なデータと自らの経験をもとに、「接続性」をキーワードに、あり得べき未来をわかりやすい言葉で紹介する。
【市立図書館MI】
上巻を読んで、ブログで紹介記事を書いてから、既に半年が経過してしまった。上巻だけでも随分と多くの情報とアイデアをもらった気がしたものだが、下巻を読まずに全編読んだ気になるのも格好がつかないので、年の初めに片付けておこうと考えた。

ただ、かなりの部分が国民国家の枠組みにはまらないグローバルサプライチェーンの話に集中していた上巻と比べると、下巻は海上に浮かぶ新たな無国籍(?)移動構造物の話とか、港湾都市の発展の話とか、都市の台頭の話とか、サイバースペースの話とか、民族の希釈化の話とか、自然災害の話とか、各章が独立して書かれている印象が強く、まとまりには乏しい気がしてしまった。

いずれもまとまれば国民国家という枠組みが国境をまたいだ複雑かつ巨大な課題への取り組みを難しくしており、国民国家に代わる枠組みが構築されなければ効果的な課題解決にはつながらないという主張なのだと理解した。

例えば、気候変動問題にしても、パリ協定では国ごとの取り組みでの問題解決が指向されているが、温室効果ガスを排出しているのは物流や人流を支える運輸交通網であり、それを利用しているのはグローバルに事業展開している企業であり、遠くへの旅を頻繁に繰り返す人々である。

 水の使用量と地球温暖化ガスの排出量を産業セクターでなく国ごとに分けることは、サプライチェーンの世界がいかに地理を歪めているかを示す好例だ。ウォーターフットプリントの地図を見れば、イギリスの水消費の75パーセントが国外からの輸入製品に埋め込まれていることが分かる。つまりトイレの水を流す回数を減らすだけでは、イギリスをより環境にやさしい国にはできない。大人口を抱え、急速に産業が発展している中国は世界最大の水消費国で、最大の温暖化ガス排出国でもあるが、国民ひとりあたりの排出量はアメリカのほうがはるかに大きい。同時に、中国が農業生産に使用する水の少なくとも20パーセントーーー製造業ではさらに大きな割合―――は、輸出向けだ。したがって中国をグリーンな国にするのは、この国だけでなく、グローバル・サプライチェーン全体が取り組むべき課題である。(p.211)

こうした本を読むと、既に還暦も近く、残りの人生もせいぜい20~30年あるかないかだろうという僕自身よりも、子どもたちがこれから巣立っていく世界はどんなところなんだろうかということを考える方が大きい。例えば、こんなことが書かれている。

都会の生活費の高騰に、より自然な生活を送りたいという願いが重なったとき、ブロードバンド・インターネットが農家や森林まで達している現代人には、デジタル労働に従事しつつ、自然のそばで生活するという選択肢も与えられている。しかし、これを実行に移しているのは今のところ、例外的な少数の人間にすぎず、社会の趨勢は都市化の進行と、その結果としての経済や社会の都市への傾斜なのだ。(p.210)

 かつては、西側諸国で生をうければ優位なスタートが切れたものだが、もはやこれも確実ではなくなっている。ヨーロッパ諸国の政府が賃金引き下げに踏み切った結果、何百人もの国民が自力でなんとか生き延びなければならない状態に追い込まれている。またアメリカのミレニアル世代の収入は、数十年前の親世代のものよりはるかに低いかもしれない。将来においてものを言うのは、生得の権利よりも自給自足の生活かもしれない。生まれた場所次第で金持ちになる権利など、どこにもなくなる。(p.219)

結局のところ、著者は、国境で流れが妨げられた世界から、あらゆるものが世界中を自由に行き来する世界へ移行できるかどうかに、僕たちの未来はかかっているのだと述べている。危機や不確実性という問題に対する解決策を提供できるのは国境ではなく、より多くのつながりだと主張する。

新型コロナウィルスは、国境どころか国内にすら多くの境界線を敷き、つながりの多くを分断する方向に作用している。そういう状況を著者はどう見ているのだろうか。雑誌『WIRED』の2020年第37号に著者の2頁ほどのインタビューが載っているが、すべての人がつながり、移動できるようにするためには、すべての人の命を大切にしなければいけないと言っている。う~ん。人の命を大切にするためには、つながりを抑制しなければならないと思うのだけれど…(苦笑)。

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