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『記録史料学と現代』 [仕事の小ネタ]

記録史料学と現代―アーカイブズの科学をめざして

記録史料学と現代―アーカイブズの科学をめざして

  • 作者: 正人, 安藤
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 1998/05/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
近年における史料学や史料管理学の成果を踏まえ、記録史料の科学的な理解と保存・活用のための新しい科学を提唱する。歴史の証言としての記録史料の重要性、それを未来に伝えることの大切さを思うすべての人びとに。

本来であれば、この本は2012年頃に読んでいなければいけなかった。当時は2つの市立図書館と近所のコミセン図書室、それに会社の図書室も利用して本をガンガン借りていたので、このA5ハードカバーの専門書は、ついつい後回しになってしまい、読み始めることもままならない状態で返却期限を迎えてしまった。2020年の年間200冊が目前に迫る一方、来年は逆に100冊も読めない見込みなので、ずっと「読書メーター」の「読みたい本」リストに残ったままになっていた本を、多少整理しようと考えた。

8年ぶりの再挑戦となったわけだが、その割には一気に流し読みにした。やはり、2012年当時と比べると僕自身も組織の中での立場が変わり、この本でも書かれているようなアーカイブ整備の必要性に関して、自分自身で何かができる状況ではなくなってしまった。管理職も卒業し、「退職」の二文字もちらつく今の僕の年齢で、昔のアジェンダを再活性化することは難しい。前に進むには、捨てなければならいものもあるのだ。

そんな未練を断ち切るための今回の読書だった。市立図書館でも、開架式の書庫には所蔵されていない、既に古書の類に入っている専門書である。でも、アーカイブ学を勉強したい人には、スタートラインに立って読むべき1冊として、今でも薦める。本書刊行後、1999年には情報公開法が制定され、2009年には公文書管理法も制定された。実際には本書で問題提起がなされたことには取り組む動きが見られ、公文書管理に関する僕たちの意識も高まってきている。それでも、「何を学ばなければならないのか」を体系立てて知るには、この本は有用だと思う。

本書刊行時点での著者の問題認識は、1986年に招聘されて来日したマイケル・ローパー英国国立公文書館副館長(当時)の文書館法制定勧告の中での指摘(p.286)と似ていて、これに近い主張が本書の中では度々登場する。

(a)政府各省庁の記録管理システムの構築と国立公文書館の指導的役割の明確化
(b)全国的な文書館ネットワークの確立
(c)民間所在史料の保護
(d)文書館専門職の正式な認知

また、第6章「現代アーカイブズ論」の第4節(展望)においても、日本の司法資料の保存公開体制の展望として、以下の3点を課題だとしている(pp.340-341)。

①司法、立法、行政の壁を越えた、公文書記録全体を対象にした基本法制が必要。
②記録のライフサイクルを通した総合的記録管理プログラムが必要。
③記録史料保存管理専門職すなわち、アーキビストの養成と文書館の拡充が必要。

最後の、アーキビスト養成の必要性は、2012年当時に読んだ他の本でも共通して指摘されていたと記憶している。そういう人、我が社にいたかなというのは当時から疑問だった。多分いなかっただろう。図書館司書とは異なる専門性だし。

僕はその当時、1つのプロジェクトに関連した資料をすべて1カ所で所蔵するようなアーカイブを作れないかなと考えていた。業界では誰もが知る有名なプロジェクトに関連して、書かれた報告書やら作成されたマニュアルや指導書、現地の報道記事、写真等だ。ついでに当時のプロジェクト関係者からインタビューを取り、文字起こしして残したり、映像として残したり、いろいろ試みた。それらの情報から、200頁ほどのプロジェクト史の本を書くということも行なわれたが、今はこの本の出版だけが活動として残り、アーカイブ化の部分がすっぽり抜け落ちた形で古巣の事業は行われている。

それは僕らのような初期に事業に関わった当事者が描いていた理想像からはかなり矮小化された姿だが、その間に行われた組織決定の結果なんだろうし、先駆者の我々に意見聴取があったわけでもないから、結果そうなってしまったことに今さら苦言を呈するのもせんなきことだ。アーカイブ化の動きが深まらなかったのは残念だが、オジサンが口を出すのはやめておきたい。

ということで、「読みたい本」リストに残っていたアーカイブ関連の本はこれが最後となる。これからも、このテーマで新刊書でも出るようなら読んでみることはあるかもしれないが、自分のテーマとして組織内で取り組むことはないということで、ひとつの区切りとさせていただきましょう。

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