SSブログ

『日本の開国と多摩』 [シルク・コットン]

日本の開国と多摩: 生糸・農兵・武州一揆 (歴史文化ライブラリー)

日本の開国と多摩: 生糸・農兵・武州一揆 (歴史文化ライブラリー)

  • 作者: 覚, 藤田
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ペリー来航や開港・自由貿易の開始は多摩に何をもたらしたのか。際限ないカネ・ヒトの負担、生糸生産発展の一方で生じた経済格差、武州一揆の発生など、その要因・実態を探り、未曽有の大変革に生きた多摩の営みを描く。

ここに来てまたしても何の脈絡もないテーマ選択ですね~(苦笑)。でも、そんなこともない。コミセン図書室でこの本を借りたきっかけは、サブタイトルにあった「生糸・農兵・武州一揆」の最初の「生糸」にあったのだから。

昔、拙著『シルク大国インドに継承された日本の養蚕の技』の原稿を書いていた頃、時間を見つけては近場の蚕糸業遺産を訪ねるようにしていた。多摩地区在住だから、当然地区内の歴史資料館などには幾つか見学に出かけたが、八王子が19世紀半ば頃に生糸の集散地になっていたのは当然知っていて、鑓水の「絹の道」や「八木下要右衛門屋敷跡(絹の道資料館)」にも足を運んでいる。それが原稿執筆に反映されたわけではないが…。(ちなみに、この2012年発刊の拙著も最近電子書籍化が実現しました、と宣伝)

従って、本書を読むにあたっての僕の最大の関心は養蚕・生糸生産の部分で、その辺でメリハリをつけて返却期限までに読み切った。

本書の扱っている期間は短い。ペリーの浦賀来航(1853年)から大政奉還(1868年)前までである。しかも、「多摩」と付けているからそれなりに「三鷹あたりもカバーされてる?」と期待したものの、中心は八王子であった(田無はちょっと出てきます)。地理的にも時代的にもものすごくピンポイントだが、それでも僕の住んでいる三鷹あたりはそのスピルオーバーがあったのではないかと思える。

そこまで時代を絞り込み、時代背景も概説があるので、幕末の政治社会の環境を知るのには役立つ。それが、幕府直轄領だった多摩地区にどのような影響をもたらしたのかが本書の主題だった。

僕なりの理解では、影響の1つは、欧米列強から国を守るための軍事力増強、そして開国後は倒幕運動と戦うための戦闘力増強が求められ、その負担を各藩に強いるだけでは離反を助長しかねないということで、幕府直轄だった多摩地区には、非常に厳しい負担が、人とカネの両面で強いられたということ。本書では、それに住民がどう対応したのかが描かれている。

影響のもう1つは、開国、特に横浜開港(1863年)以降の有力輸出財としての生糸の生産増大と、その地の利を生かした生糸の集散地としての八王子の台頭である。秩父や甲斐からの生糸も集積し、それを横浜に向けて出荷していく。このあたりでは、田畑がどんどん桑の植樹に置き換わっていったらしく、わずか数年の間に、地域のランドスケープを激変させるほどの影響があったらしい。

一方で八王子は昔から織物業が盛んだったそうだが、原材料となる生糸が輸出にどんどん取られて値上がりがひどく、原材料調達に難儀して絹織物業が衰退するきっかけも作ってしまった。「オランダ病」みたいな状況が起こってしまったらしい。

これだけの短期間で、相当劇的な変化が起こったようで、そういうのって、歴史資料館をスポット的に訪ねても簡単には理解できない話だろう。それをもう少し長い歴史のパースペクティブから捉える機会を与えてもらった読書だった。

nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント