『日本人のわすれもの』 [宮本常一]
日本人のわすれもの―宮本常一『忘れられた日本人』を読み直す (いま読む!名著)
- 作者: 岩田 重則
- 出版社/メーカー: 現代書館
- 発売日: 2014/07/01
- メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
『忘れられた日本人』をそのままの事実として受けとってはならない。事実とフィクションの間を自由自在に渡り歩く宮本独自のハナシ集として読むことでみえてくる人生の肯定性。
2020年は、宮本常一の代表作『忘れられた日本人』刊行から60周年の節目の年である。前回の外国駐在時に、事務所のスタッフに、「昔の日本の市民のことを知りたければ、Tuneichi Miyamotoの『The Forgotten Japanese』を読んだらいい」と吹聴していたので、そのうちに『忘れられた日本人』は読み直してみなければと思っていたが、まだ実行していない。でも、少し前に井上義朗『「新しい働き方」の経済学』を読んだ際、この現代書館の「いま読む!名著」シリーズに『忘れられた日本人』を扱ったものが存在するのを知り、これがいいチャンスだと思って、「名著」を読む前にその読書ガイドを図書館で借りて見ることにした。
いわば、「宮本常一」研究者による『忘れられた日本人』の読み方のガイドブックである。
何冊か宮本の著作を読んでいて、時々気になっていたのが、明らかに聞き取りにもとづく史実の説明が淡々とされている作品の他に、宮本自身を主語にした見聞の記録や、相手の語りを相手自身を一人称の主語にしてそのまま書き留めた記録があったりすること。要すれば、「形」が定まっていないことだった。特に、『忘れられた日本人』の中でも最も有名な「土佐源氏」のような口述筆記が、テープレコーダーもなかった時代に、よくもまああれだけ事細かく記録でき、再現できたものだなと驚かされる。
本当に全部語りに基づいているのか、それをどうやって記録できたのか、いろいろ想像はできるが、これに関して収録された各作品の背景や裏取りを行い、宮本がフィールドノートなしで完全に記憶に頼り、かつ自身の視点に基づいて再構築された「ハナシ」なのだと結論付けた、それが本書である。
本当の事実とは微妙に違い、脚色が入っているから、読み手の側ではそれを踏まえて読めと仰っている。まあ、そこまで深く読むわけではない僕らにとっては、「だから何?」というところもあるのだけれど、それを、『忘れられた日本人』収録作品の各々について、考察しておられる。だから、これから『忘れられた日本人』を読み直すなら、こういう視点で読むといいというアドバイスをもらった気がする。
それと、宮本常一を研究対象として、すべての著作に目を通している研究者だからこそできることとして、『忘れられた日本人』の収録作品が、初出時と本書に収録された時点との間で行われた改訂がある点を明らかにし、本書収録時の再構成の背後にあった思惑とかの考察につなげられている点や、それぞれの作品の書かれた時代背景や宮本の置かれた状況などをしっかり踏まえて考察されている点などが挙げられる。
宮本の著作を、発表年代などまったく意識せずに手あたり次第読んできた自分などからすると、ややもすると忘れがちな視点であった。
The Forgotten Japanese: Encounters with Rural Life and Folklore (English Edition)
- 出版社/メーカー: Stone Bridge Press
- 発売日: 2010/03/01
- メディア: Kindle版
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