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『帝国日本のアジア研究』 [仕事の小ネタ]

帝国日本のアジア研究――総力戦体制・経済リアリズム・民主社会主義

帝国日本のアジア研究――総力戦体制・経済リアリズム・民主社会主義

  • 作者: 辛島理人
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2015/01/29
  • メディア: 単行本
内容紹介
戦時期、総力戦体制のもと動員された知識人は勃興するアジアのナショナリズムをどう捉えたか。アジア経済研究所創設に貢献したアジア経済学者・板垣與一の歩みを通して、経済リアリズムに基づく日本・アジア関係の知的・制度的継続性を明らかにする労作

以前、在籍していた通信制大学院のスクーリングで院の看板教授の講義を聴いていた際、こんな質問を教授からされ、参加者が誰も答えられなかった。

1)アジア経済研究所はいつ頃どのような経緯で設立されたのか?
2)久保田豊とは何をやった人か?

「開発学勉強してるんだから、それくらい知っとけ」と苦言を呈せられ、それが自分のやっている仕事と歴史を直接つなげて考えるようになるきっかけとなった。正解は、本日ご紹介する本に出てくる。2の「久保田豊」に関しては、紹介されている文献を過去にもいくつか読んだことがあるが、アジ研の設立経緯について詳述されている文献はこれが初めてだ。それがなんで通産省(今の経産省)の財団法人(その後特殊法人)として発足したのかの理由も、本書では言及されている。(外務省、信用されてなかったんだね…。)

ついでに言うと、僕にとってはブラックボックスで、いつか調べてみたいと思っていた「アジア協会」なる組織についても、設立の経緯と事業内容、そしてその後同協会がどのように組織改編されていったのかが本書を読むと理解できる。海外技術協力事業団を経て、今のJICAにつながっていくのですね。

そうした、開発学を勉強している人にとっては「常識」だと言われかねない、アジ研の設立経緯を含めた1950年代から60年代にかけての開発協力の歴史が、この1冊でわかる。僕らが大学生だった頃といったら、赤松要先生の「雁行形態論」とか大川一司先生の日本経済の分析とか、小島清先生の海外直接投資論とか環太平洋経済圏とかでの業績を引用した議論が結構なされていた。(僕は一橋大学出身じゃないけど(苦笑)。)80年代といったら、赤松先生はもうお亡くなりになっていて、他の皆さんも既に錚々たる業績を残しておられた。

そうした方々がまだ現役バリバリの研究者でいらした時代が、アジ研発足の仕掛人の1人でもある、板垣與一先生という研究者の足跡を中心に描かれている。それが本書である。

戦前戦中期の植民地統治の一環として起こった地域研究が、敗戦とともにいったん潰えた後、戦後の東南アジアの復興と開発には地域の理解が不可欠だとして、研究者が中心となって政治家や政府、実業界に働きかけていった様子が詳細に描かれている。僕らが学生時代に学んだ、多くの著名な研究者が登場するし、さらには日本の近代化の経験との絡みで、ケネディ・ライシャワーのラインとの連携についても言及がある。いろいろな切り口で味わえる専門書だと思うが、僕にとっては冒頭述べたアジ研やアジア協会の経緯の部分がいちばん参考になった。

冒頭の大学院スクーリングでの教授のお話に戻ると、教授は、アジ研のルーツは満鉄調査部にあるとおっしゃっていた。それは確かに間違いではないが、満鉄調査部がそのまま戦後に継承されてアジ研になっていったわけではないという点には注意が必要かと。戦前戦中期の地域研究は、やはり敗戦を気にいったんは解消されたと理解しておいた方がいい。実際、板垣先生がマラヤやインドネシアでフィールドワークをなさっていた頃は、満鉄調査部所属ではなく、東京商科大学(今の一橋大学)所属で、調査チームに参加していたそうだから。

ちなみに、この本は2015年1月に出たばかりの頃から注目していて、いつか読みたいと思いながら5年が経過してしまった。近所の図書館では所蔵されておらず、こういう文献は確実に所蔵してないといけない開発協力専門の図書館にも入ってなかった。さすがに1冊5500円もする本は個人で購入する勇気がなかったが、とうとうしびれを切らし、開発協力専門の図書館に要望して購入してもらうことにした。職場内の異動で僕が仕事の一環で本書を読むことの必要性は大幅に後退し、実際今読んでいる本のラインナップから比べると本書は相当異例だが、最初に要望した者の特権として貸し出してもらえたので、せっかくなので返却前に読むことにした。

日本の開発経験といって大きな歴史の話をするのもいいが、開発協力に必要な相手国・地域の理解という文脈で、早くから地域研究に注目してアジ研を作っていった日本の経験も、結構重要な要素だと思う。
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