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「ブリジタル」がインドの生きる道 [インド]

Bridgital Nation: Solving Technology's People Problem (English Edition)

Bridgital Nation: Solving Technology's People Problem (English Edition)

  • 出版社/メーカー: Allen Lane
  • 発売日: 2019/10/17
  • メディア: Kindle版
内容紹介
2030年。インドは世界のトップ3を占める経済大国である。すべてのインド人が、クラウド、人工知能、機械学習を使用し、仕事を片付けている。すべてのインド人が、質の高い仕事、より良い医療、スキルベースの教育の恩恵を受けている。テクノロジーと人間は相互に有益なエコシステムを築いている。
―――このような社会は実現可能だ。「ブリジタル(Bridgital)」概念が普及すれば、それは手の届くところにある。
本書では、タタグループのチャンドラセカラン会長が、未来に向けた強力なビジョンを提示している。人工知能がもたらす今後のディスラプションに対して、彼は独創的なソリューションを提案する。テクノロジーを避けることのできない人間の労働の代替として受け入れるのに代わり、インドはそれを所与として、win-winの関係を築くことができる。チャンドラセカランと共著者である同グループのルパ・プルショッタム首席エコノミストは、この国の強靭性と決意について調査を行い、インドの人々を彼らの夢に近づけるための理想的な方法論を模索していく。「ブリジタル」と呼ばれるテクノロジーへのダイナミックなアプローチを実際の現場に適用することにより、インド人が全国でつながり、最も必要とされる場所にサービスが提供されるためのネットワークをいかに構築できるかを示そうと試みる。この最先端の概念は、農村と都市の間の巨大な亀裂、非識字と教育、願望とその実現の間に横たわるギャップを埋めることによって、インド最大の課題に対処する。保健医療から教育、ビジネスまで、このモデルはさまざまなセクターに適用でき、控えめな見積もりでも、2025年までに3,000万人の雇用を創出し、影響を与えることができると見込まれている。

2012年にまとめ買いしてずっと積読にしてあったインド関連の5冊の書籍を全て読了し、残る積読洋書は5冊になった。うち3冊はインド関連。早晩蔵書は一掃したいのだが、読みやすそうなものから片付けていくことにした。そこで選んだのが、昨年11月にインドに行った時にデリー空港の書店で購入した1冊。紹介にもあるが、共著者のN. ChandrasekaranとPoopa Purushothamanはタタグループを代表する人物で、洋書によくある裏表紙の推薦人の中には、ペプシコの元CEOだったIndra Nooyi氏、すぐに撤退しちゃったけど一時米大統領選挙出馬表明していたMichael Bloomberg元NY市長、イノベーションの大家Clayton Christensen教授、インフォシス社の共同設立者Nandan Nilekani氏、著名なジャーナリストで国際問題評論家であるFareed Zakaria氏等が名を連ねている。錚々たる著名人の推薦を受けた本書は、ある意味タタ・グループが総力を挙げて策定した、インド政府と企業セクター、そして一人一人のインド人に向けた政策提言だともいえる。

日本でこれまで出されてきた多くの本は、訳本も含めて、「巨大なインド市場がもたらすチャンスを逃すな」という視点で書かれたものが多かったように思う。いわば、インド経済のブライトサイドを見ているものなのだが、その割には理解しづらいのが、どうしょうもないような貧困が、大都市のスラムや、農村に行くとどうしても目につく。そういうのに光を当てた本は、インドではよく見かけるが、日本では専門書以外ではあまりお目にかからない。

ものすごい大富豪が住んでいる高層住宅のすぐ足元に、巨大なスラムが存在している。天才的な起業家や科学者を輩出しているのに、初等教育すら終えられない人も多い。マイクロファイナンス金融機関もものすごく多いのに、家内工場のようなところが成長して、近代的な製造業企業に発展していくケースは少ない。インドを見ていると、そういう極端なコントラストを頻繁に見かける。この中間がなかなか見出しにくい。全くないわけでもないんだろうけれど。そして、これまで多くの書籍も、ブライトサイドかダークサイドかのいずれかを取り上げていて、取り上げていないもう一方の存在については、「インドの課題」と片付けられることが多い。

本書の政策提言の主旨は、この中間に横たわる空隙を、テクノロジーの力で埋めることができる筈だというものである。ローテクとハイテクの間の中間にあるスキルを有する人材がいない点を指摘し、高等教育よりも中等教育の拡充を提言していたり、特にこの中等教育での女子の就学機会をもっと拡充して女性の労働市場参加機会を増やすことを提言していたり、小規模零細企業よりももう少し大きい事業規模のレンジでのスタートアップ企業の成長支援のための環境整備を提言していたりと、本書の提言は「欠けている中間(missing middle)」をどう埋めるかという問題意識で貫かれている。

また、この提言取りまとめにあたり、現場での調査が相当行われており、底辺からハシゴを上って行けない阻害要因がどこにどのように横たわっているかの理解に努めておられる。

そして、一部の提言については、実際にそれに基づいて成果も既に上がっている。その一例が医療サービスで、デリーのインド最高峰医療機関AIIMSと、カルナタカ州コラール県で行なわれた医療サービス改革である。タタグループのコンサルティング会社TCSが手掛けたもので、医療機関での外来患者の待ち時間、あるいは空振り率(受診できない確率)の軽減につなげて、住民の医療サービスへの信頼の確立に成功しているらしい。特にコラールのケースは、2011年に僕も一度だけこの地域の農村に聞き取り調査に行ったことがあるので、当時見た風景を思い浮かべながら、読ませてもらった。

こういう提言ができるコンサルタントが既に育っているところにも、インドの底力を感じる。この政策提言は読まれるだろう。

一方、これからの僕自身の仕事に関しての示唆としては、次の段落を引用(ママ)しておくことにする。(英語でごめんなさい。)インドでの話ではなくても、この段落を含む結論部分は、時々読み返してみることにしたい。

Building twenty-first-century skills is easier said than done. To dismiss these as 'soft' skills is a vast underestimation of the effort that goes into nurturing them. The good news is that these skills ----- such as creativity, collaboration and critical thinking ----- can be nurtured. The concepts can be introduced in early years and blended into other curricula; students can then be given opportunities to practise, all the way up to adolescence, with increasingly deliberate attention to the skill. Developing these skills means giving students the opportunity to experiment with real-world problems. Not only does this encourage contextual learning and application, but it also lets them experience failure ----- a key element in learning how to learn, test, iterate and persevere. (p.250)*下線は僕が勝手に引きました。


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