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『デジタル資本主義』 [仕事の小ネタ]

デジタル資本主義

デジタル資本主義

  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2018/04/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
デジタル革命は資本主義の“常識”を覆す。その変化はGDPという従来の指標では捉えきれない。新たに生み出される経済社会は、巨大企業が支配し、ロボットが雇用を奪う「純粋デジタル資本主義」になるのか。あるいは個人のスキルや未稼働資産が価値を生み出す資本となる「市民資本主義」か、多くのモノが無料となり、労働と余暇の区別も消滅したSFのような「ポスト資本主義」なのか。大胆なシナリオを描き出す。

今週の積読蔵書圧縮計画の第1弾。19日朝締切で職場内で求められていたコメント依頼に意地でも応じるべく、それを目標にしてシコシコ読み込んだというわけ。取りあえずコメントは取りまとめ役の方にお送りしたが、本書に書かれていたことがうまく撮り込めたかというと不十分だったかなという気はする。

ただ、それを割り引いても、この本は良かった。基本的にはシェアリングエコノミー礼賛の主張なのだが、それが消費者余剰を膨らませている点から説明し、また企業があまり元気がないのを、生産者余剰の縮減から説明し、今後の生産者と消費者の共栄の方向性を、顧客の生産への参加というところから説明している。消費者余剰も生産者余剰も、ミクロ経済学ではお馴染みの概念なので、読んでいてわかりやすかった。もっとも、シェアリングエコノミーの理論的説明部分はアルン・スンドララジャン『シェアリングエコノミー』の受け売りなので、それならスンドララジャンの著書も読んでおいた方がいいとなる。

また、シェアリングエコノミーの適用についても、それぞれの「●aaS」によって千差万別だろうから、一概に生産へのユーザー参加といっても、できる業態とできない業態で相当バラつきがありそうな気がする。事例として言及されている企業も、現存しているのもあれば既にサービス中止しているのもあるので、サービス中止しているものについて、何が持続的事業発展のハードルだったのかを分析して提示するところはあっても良かったかもしれない。

ちなみに僕が参考になったと思うのは、「デジタル・コモンズ」(p.154)と「カスタマイゼーション」(p.172)であった。

スペインの社会学者であるマヨ・フスター・モレルは、デジタル・コモンズの定義を以下のように述べている。「コミュニティ内もしくはコミュニティ間で集団的に創造され、所有もしくは共有されている情報および知識源であり、それらは利用者を排除するのではなく(一般的には無料で)第三者に提供されている。(中略)さらにコミュニティの参加者はメンバー間の交流プロセスや共有資源に関する統治方法について関与することができる」。

カスタマイゼーションといえば、生産者にとってコストと手間がかかるものであった。顧客ごとに製品のカスタマイズをしすぎてしまうと、それによってコストが嵩み利益率が圧迫されてしまう傾向にある。つまりこれまでは、カスタマイズと利益率はトレードオフの関係にあると考えられてきた。
 しかしデジタル化の進展はカスタマイズを行いながら高い利益率も実現できる仕組みを生み出している。トムキはそれを「顧客をイノベーターにする(Customers as Innovators: CAI)」ことだと述べていて、これによってスピーディかつ低コストでカスタマイズが実現できるとしている。
 トムキの言葉を借りれば「顧客がどのような製品を望んでいるのか正確に理解する努力をやめ、その代わり、顧客自らが製品を設計・開発できるツールを与える」のである。知識生産性で言えば、分母の情報インプットだけでなくアウトプットを出すところまで顧客がやってしまうモデルである。生産者の役割はアウトプットを出すことではなく、顧客が望んでいる(つまり支払意思額の高い)アウトプットを出してもらうための支援である。

いずれも、デジタルファブリケーションの普及の思想的バックボーンになり得るところだと思うので、僕のノートにキープしておきたい。機会があれば論文にまとめたいとも思っているが、その時には本書のような文献調査の塊のような本は参考になるので、読了後も蔵書として手元にキープしておきたい。

それにしても、この本は誰に何を提言しているのだろうか。最後にちょっとだけ苦言を呈すると、第8章以降は結構蛇足な感じがして、いったい、誰に何を言いたいのかがよくわからなくなった。


タグ:野村総研
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