SSブログ

『国運の分岐点』 [読書日記]

国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか (講談社+α新書)

国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか (講談社+α新書)

  • 作者: デービッド アトキンソン
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/21
  • メディア: 新書
内容紹介
「観光立国論」を提唱して訪日外国人観光客激増のきっかけをつくり、「所得倍増論」で最低賃金引き上げによる日本経済再生をとき、「生産性立国論」によって日本企業と日本人の働き方の非合理性を指摘した論客が、ついに日本経済低迷の「主犯」に行きついた!その正体は、「中小企業」!これまで、日本経済の強みとされてきた零細、中小企業が、いかに生産性を下げているか、完璧なまでに論証する。そこから導かれる日本再生の道筋とは――。ついに出た、アトキンソン日本論の決定版。

タイトルが煽り気味だし、それで日経新聞の広告にも出ていたし、市立図書館で予約したら13人待ちだったし、かと言って買って読む気にもなれなかったので、待ち続けた。待ち続けたところ、意外と早く順番が回ってきた。なぜかといえば、僕ぐらいの読書スピードであっても、2時間少々で読めてしまうことや、基本的に論点が明確であることがあるだろう。

著者の『新・観光立国論』って、今のご時世、ちょっと虚しいよね。新型コロナウィルス大流行で、こんな事態に陥ってしまうのだから。それに、なまじ中国人観光客を当て込んで水際対策の強化の躊躇したから、かえって日本に対する国際的な評価をガタ落ちにしてしまった。重要な政策を決められない、先送りする、日本の組織、政府の悪いところが今もろに出てしまっており、その決められなかった政府のおかげで、「観光立国」を唱えたアトキンソンさんに対しても、白眼視する向きが出てこないとも限らない。アトキンソンさんのせいではないけれども、観光立国が感染症や大規模災害(原発事故も含めて)といったショックに脆いというのがわかってしまった。

『国運の分岐点』で著者が述べていることは、明快で多分その通りだろうなと思う。人口が減少して、マーケットが縮小しているのだから、企業の淘汰、統廃合は起きてくると考えるのが普通で、ただ著者はそれを加速させないと日本の衰退を助長してしまう結果をもたらすと主張している。それも多分そうなのだろう。

ただね、この明快すぎるシンプルな政策を、導入決定できるのは政府なんです。中小企業に対してここまで逆風となるショック療法は、反対意見も多い筈で、絶対に票にならない。それがわかっていて、政治家はこの政策を推すだろうか。「時間が解決してくれる」「自然淘汰に任せる」という、問題先送りにつながらないだろうか。反対の声が多くても、「これこそが国益なのだ」との信念をもって政策決定に向けて動けるリーダーがいれば、太平洋戦争は回避できたし、新型コロナウィルス対応だってもっとうまくやれた。だからね、著者の述べている最悪のシナリオに、この国が陥る可能性は考えておいた方がよい。

決められない政府に決めさせる覚悟を促すために、「大規模地震災害」とか「中国」とかにも言及して、「さおないとこうなるぞ」と言っているように読めてしまう。そのあたりの話の持って行き方は、本書の弱さかな。多分正論なんだろうけれど、多分政策決定には至らない提言になってしまうかな。たとえその結果待っているのが地獄であったとしても。

最低賃金の大幅引上げで中小企業の数を減らせといったシンプルな政策提言だが、今話題のオープンイノベーション的方向性はあまり検討された形跡がない。また、大田区あたりで進められている町工場間の連携とか、政府の事業継承支援策とかも、漸進的な動きだからか、あまり著者の眼中にはない。これらの動きは中小企業が生産性を上げるための取組みでもあると思うし、著者の論点への支持者を増やすためにはもう少し慫慂してもいい取組みだとも思うけどね。

タグ:中小企業
nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント