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世銀ブータン開発レポート [ブータン]

国の関与が大きい経済が民間部門の発展を阻害:世銀報告
State dominated economy hinders private sectors: World Bank
Kuensel、2019年2月15日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/state-dominated-economy-hinders-private-sectors-world-bank/


教育への投資が質の高い職につながらず:世銀報告
Lack of quality jobs despite heavy investment in education, says World Ban
Kuensel、2019年2月16日、Tshering Dorji記者
http://www.kuenselonline.com/lack-of-quality-jobs-despite-heavy-investment-in-education-says-world-bank/

2019-2-15 WB.jpg2月中に疎かにした新聞の読み込みを、今さらながら始めているところである。といっても、自分の駐在期間もあと20日を切ってしまったので、他にもやることが多く、新聞の読み込みにもあまり熱が入っていないというのが正直なところだけど。

2月15日と16日のトップで、クエンセルが、1月に世界銀行が発表したワーキングペーパー"Bhutan Development Report - A Path to Inclusive and Sustainable Development" の内容を紹介している。本文は36頁程度の報告書なので、ご関心ある方は是非全文を読んでみられることをお勧めする。各論ではちょっとばかりの異論もあるのだけれど、ブータンの開発をマクロで見ているエコノミストの集合的な見方というのはこんなところになるのだろうなというのがよくわかる。

最初の記事の方は、政策当局と国営企業(SOE)の上層部の距離が近すぎて、民間企業が同じ土俵の上で競争できる環境になっていないというのが主旨である。まあSOEが存在するセクターというのが、SOEがなかった場合に本当に民間企業が参入してくるセクターなのかというと、そうでないケースもあると思うが、一般的にはこの指摘は的を射ているといえる。一方で、企業家の側の行動原理も、政策当局、それでできるだけランクが上の偉い人とつながりを作れるかというところで腐心しているようなところも感じる。

この記事が取り上げているもう1つの点は、外国人投資家にとっては、ブータンは必ずしも魅力的な投資対象国になっていないと報告書が指摘しているところである。人口規模が小さく、外国市場にアクセスするにはロジスティクス上の課題が多く、コストが割高でインターネットもつながりにくく、かつ自国通貨高になっているといった点が挙げられている。2010年以降、直接投資(FDI)の純流入額は減少しており、南アジアや中東の地域平均を下回っているという。FDIが少ないから外国市場へのアクセスも課題だという逆の因果関係にも言及されている点は、ちょっと混乱させる書き方かもしれない。

最初の記事の方は、読んでいて、議論の前提が「外国への輸出を増やす」ことにあるように思えて、ちょっとした違和感があった。ブータンの人と話していて、今あるものを外国に輸出したいという安易な話をされることが多いのだが、外国の消費者はもっとシビアだし、質が悪かろうと「ブータン製だから」という理由で買ってくれる消費者はそんなに多くはいないだろう。シビアな外国の消費者に買ってもらえるものを作ろうという発想ができる企業家はそれほどいない。輸出拡大を狙うのは短期では難しいんじゃないでしょうか。

逆に、「外国からの輸入を減らす」という発想がもうちょっとあってもいいんじゃないか、僕はそんなことも考えている。インターネットは確かに遅い。遅いけど、徐々に改善はしてきている。データをダウンロードして現地で作ってしまえば、限界費用はゼロでものが手に入る。だからこの3年間、僕はデジタル・ファブリケーション推しで活動を続けた。

また、市場規模が小さいという点もブータンで民間セクターが育たない理由としてよく挙げられる点だが、「市場を創る」という発想があまり強くないのではないかとも思う。先ほど述べた点とも共通するが、消費者が買ってくれるものを作るという発想をここの生産者はあまり取らないし、人が多く集まるような場を人為的にこしらえてそこでものを売るという仕掛けを考える人もあまり多くないと感じた。

これらの点で意識を変えていければ、この国は国内市場の拡大ででもある程度はやっていけるのではないかと思う。

2つ目の記事は、ブータン政府が対GDP比で6.7%(2016年)という、域内平均よりも高い人的資本投資をしてきているのに、大卒者の67%(2016年)が失業状態にあり、人口ボーナスを有効活用できていないという点を指摘している。就労可能人口は65%(2010年)から71%(2025年)に上昇が見込まれ、今後年間8,000人の高学歴者が労働市場に参入してくることが予想される。質の高い職を就労可能年齢層に創っていくことが重要だと世銀報告書では述べられているという。

これも、よく指摘されることなので、受け入れられやすい論点である。

一方で、何か腑に落ちないモヤモヤしたものも感じる。

この報告書は「Job」という言葉を使っているが、その定義は、定期的に従事してそこから報酬を得られる仕事というものである。そういう視点で見たら、質の高い「Job」を年間8,000人分も創出することは相当至難の技であるように思えてしまう。でも、仕事という場合、「Work」という言葉もある。何かを成し遂げるために体を動かしたり、頭を動かしたりする活動というような定義で、報酬の有無は定義には含まれていない。

日本の地方で暮らす選択をした若い人の話を聞くと、1週間の間に何種類もの仕事をこなし、その中の一部からしか報酬は受け取っていない、しかも金銭的報酬になるとさらに少なくて、野菜やらなんやらの現物のお裾分けのようなもので報酬を受け取っているケースも多いという。「JobではないけどWorkはしている」というもので、こうしてライフスタイルがサステナブルなものになっている。

「地方でのサステナブルなライフスタイル」も、僕がブータンでもっと若者に訴えたかったことだった。でも、それをブータンの若者や政策当局者に響くような形でうまく訴求できなかったなというのも反省としてある。こういう、権威ある国際機関が「Job」を前提とした政策提言をやられているのを見ると、余計に自分の中にある思いが言葉にできていないもどかしさを感じさせられる。

記事を読んでて感じたモヤモヤ感の原因は、そんなところにあるような気がする。

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