ダッパ生産が素材入手にもたらす圧力 [ブータン]
タシヤンツェ、ダッパ生産盛況で節不足に直面
T/Yangtse runs out of burls as dappa business picks up
Kuensel、2018年8月16日、Younten Tshedup記者(タシヤンツェ)
http://www.kuenselonline.com/t-yangtse-runs-out-of-burls-as-dappa-business-picks-up/
【ポイント】
タシヤンツェといえば、絶滅危惧種オグロヅルの飛来地やチョルテン・コラが有名だが、伝統工芸品の木の器「ダッパ」の産地としても知られている。13の伝統工芸(ゾリグ・チュスム)の1つである木地師(シャゾ(shagzo))発祥の地として、タシヤンツェは近年、ダッパ生産が好調だ。これは、地元の人によると、伝統工芸院卒業生が増えて、ダッパビジネスに次々と参入したからだという。また、テクノロジーの進歩により、ダッパ製造過程も機械化が進んで、少ない労力で生産できるようになってきているからだとも。
ただ、ダッパ生産者が増えることで、素材にかかる圧力も増大している。ダッパの素材はカエデやシャクナゲ等の幅広い樹種だが、耐久性の高い製品にするには、それらの樹木の節(burl)があることが必須だ。この節(boows)が、今ではタシヤンツェ県内では見かけることが少なくなった。
チョテン・デンドゥップさん(46)は、元々木地師としてキャリアをスタートさせたが、今ではこの節探し(burl hunter)に特化している。ベイリン村の元村長だったチョテンさんによると、今や県内には節は見当たらないという。「子どもの頃は、節は近くの森に行けばいくらでもありました。しかし、無秩序な過剰生産により、素材が無くなってしまったのです。」今日、節ハンターはルンツィやワンデュ、チラン、チュカ、シェムガン、さらにはハの原生林にまで足を延ばす。希少な節は高い値がつくからだ。
小さな節のある小皿なら1枚約550ニュルタム、標準サイズのダッパだと3,500ニュルタムで売れる。以前は標準サイズのものは1,500ニュルタム程度だった。これらのダッパ生産のために伐り出される木材は、ハンター1人につき年1回の許可で2本までと決まっているが、1本2万~2万2,000ニュルタムで売れる。
タシヤンツェでダッパの仲買を営むカルマ・ワンチュクさんは、節の仲買も行っている。昔に比べて原材料の節は減ったが、いい値をオファーすれば欲しいものは調達できるという。彼は年間20万ニュルタムの利益を出している。
「共有地」のコントロールは行われているようだが、それでも「悲劇」は完全には防げていないようである。これはタシヤンツェのダッパ生産の活況がもたらした原材料不足のお話。記事終盤のカルマ・ワンチュクさんの話は、ダッパのデザインに工夫を凝らして新たな需要の掘り起こしをしているということや、ダッパがブータンの人や外国人旅行客だけでなく、遠くはネパールでも売られているということまで書かれている。要約と言いつつ長くなってしまうと思って省略した。
このクエンセルの記事はANN(Asia News Network)でも取り上げられ、世界に向けて発信されている。伝統工芸の振興を進めると、産業連関により他の部門にも影響が生じる。多分、伝統工芸の振興策を打ち出した政策担当者は、それが原材料の入手可能性に影響を与えるところまでは考えていなかったに違いない。節がどうやったらできるのかというのは林業研究の領域だと思うが、そこまでつなげて考えられているのだろうか。
ここから個人的に得られる教訓は、ダッパは原材料がほぼ全て国内で調達できる「メイド・イン・ブータン」の商品として、おそらく外国人旅行者にはアピールすると思うが、観光振興を進める場合、こういう産品の需要が高まり、それが素材不足を引き起こす可能性があるところまで考慮しておかないといけないということだ。
「共有地の悲劇」ということでいえば、今年はゲネカのマツタケが不作で、例年の5割にも届いていないと聞く。意地でも食べようと努力をしているわけじゃないので、今年はまだ一度もマツタケを自分では調理していない。ゲネカのマツタケを見ていていつも思っていたのは、こんなに大量に採集しちゃったら、後に残らないのではないか、何十年も続けられないのではないかということだ。計画的にできればいいのだろうけれど。
ブータンは国土の7割が森林と言われている。一見緑豊富でCO2吸収にも長けていて称賛されるべき森林被覆であるけれど、そこで採れるダッパの素材やマツタケといった資源には、人間活動の影響がにじみ出てきている。そこは肝に銘じておきたい。
T/Yangtse runs out of burls as dappa business picks up
Kuensel、2018年8月16日、Younten Tshedup記者(タシヤンツェ)
http://www.kuenselonline.com/t-yangtse-runs-out-of-burls-as-dappa-business-picks-up/
【ポイント】
タシヤンツェといえば、絶滅危惧種オグロヅルの飛来地やチョルテン・コラが有名だが、伝統工芸品の木の器「ダッパ」の産地としても知られている。13の伝統工芸(ゾリグ・チュスム)の1つである木地師(シャゾ(shagzo))発祥の地として、タシヤンツェは近年、ダッパ生産が好調だ。これは、地元の人によると、伝統工芸院卒業生が増えて、ダッパビジネスに次々と参入したからだという。また、テクノロジーの進歩により、ダッパ製造過程も機械化が進んで、少ない労力で生産できるようになってきているからだとも。
ただ、ダッパ生産者が増えることで、素材にかかる圧力も増大している。ダッパの素材はカエデやシャクナゲ等の幅広い樹種だが、耐久性の高い製品にするには、それらの樹木の節(burl)があることが必須だ。この節(boows)が、今ではタシヤンツェ県内では見かけることが少なくなった。
チョテン・デンドゥップさん(46)は、元々木地師としてキャリアをスタートさせたが、今ではこの節探し(burl hunter)に特化している。ベイリン村の元村長だったチョテンさんによると、今や県内には節は見当たらないという。「子どもの頃は、節は近くの森に行けばいくらでもありました。しかし、無秩序な過剰生産により、素材が無くなってしまったのです。」今日、節ハンターはルンツィやワンデュ、チラン、チュカ、シェムガン、さらにはハの原生林にまで足を延ばす。希少な節は高い値がつくからだ。
小さな節のある小皿なら1枚約550ニュルタム、標準サイズのダッパだと3,500ニュルタムで売れる。以前は標準サイズのものは1,500ニュルタム程度だった。これらのダッパ生産のために伐り出される木材は、ハンター1人につき年1回の許可で2本までと決まっているが、1本2万~2万2,000ニュルタムで売れる。
タシヤンツェでダッパの仲買を営むカルマ・ワンチュクさんは、節の仲買も行っている。昔に比べて原材料の節は減ったが、いい値をオファーすれば欲しいものは調達できるという。彼は年間20万ニュルタムの利益を出している。
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「共有地」のコントロールは行われているようだが、それでも「悲劇」は完全には防げていないようである。これはタシヤンツェのダッパ生産の活況がもたらした原材料不足のお話。記事終盤のカルマ・ワンチュクさんの話は、ダッパのデザインに工夫を凝らして新たな需要の掘り起こしをしているということや、ダッパがブータンの人や外国人旅行客だけでなく、遠くはネパールでも売られているということまで書かれている。要約と言いつつ長くなってしまうと思って省略した。
このクエンセルの記事はANN(Asia News Network)でも取り上げられ、世界に向けて発信されている。伝統工芸の振興を進めると、産業連関により他の部門にも影響が生じる。多分、伝統工芸の振興策を打ち出した政策担当者は、それが原材料の入手可能性に影響を与えるところまでは考えていなかったに違いない。節がどうやったらできるのかというのは林業研究の領域だと思うが、そこまでつなげて考えられているのだろうか。
ここから個人的に得られる教訓は、ダッパは原材料がほぼ全て国内で調達できる「メイド・イン・ブータン」の商品として、おそらく外国人旅行者にはアピールすると思うが、観光振興を進める場合、こういう産品の需要が高まり、それが素材不足を引き起こす可能性があるところまで考慮しておかないといけないということだ。
「共有地の悲劇」ということでいえば、今年はゲネカのマツタケが不作で、例年の5割にも届いていないと聞く。意地でも食べようと努力をしているわけじゃないので、今年はまだ一度もマツタケを自分では調理していない。ゲネカのマツタケを見ていていつも思っていたのは、こんなに大量に採集しちゃったら、後に残らないのではないか、何十年も続けられないのではないかということだ。計画的にできればいいのだろうけれど。
ブータンは国土の7割が森林と言われている。一見緑豊富でCO2吸収にも長けていて称賛されるべき森林被覆であるけれど、そこで採れるダッパの素材やマツタケといった資源には、人間活動の影響がにじみ出てきている。そこは肝に銘じておきたい。
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