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『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』 [持続可能な開発]

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦

  • 作者: 出雲 充
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2012/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

内容(「BOOK」データベースより)
世界で初めて「ミドリムシの屋外大量培養」に成功し、ダボス会議「ヤング・グローバル・リーダーズ」にも選出!全世界待望の「地球を救うビジネス」とは?―――。
前回、イアン・スマイリー『貧困を救うテクノロジー』をご紹介したので、同じような文脈で2冊目の本を読んだのかと思われるかもしれないが、実は読むことにした経緯はちょっと違っていて、ミドリムシの本を読もうと思ったのは、このユーグレナ社がブータンにもビジネス可能性調査で来られているからである。
JICA「途上国の課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)調査」に ブータン王国でのキヌア生産・販売体制構築の事業調査が採択されました
2017年7月11日
 株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、社長:出雲充)は、JICAが行う「途上国の課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)調査」として、ブータン王国での『小規模農家の収入向上および栄養改善のためのキヌア生産・販売ビジネス調査』が採択されましたことをご報告します。
 ブータン王国は人口の半数以上が農業に従事する農業国ですが、山岳地帯が多く、農業に適した土地が少ないため、多くの小規模農家が貧困状態に陥っています。
 そのような中、本調査では、高地にて安定して栽培が可能なうえ栄養価が高く、北米などで需要が高いキヌア栽培の技術指導を実施します。また、栄養価に関する食育、海外輸出に向けたバリューチェーンの確立に取り組むことで、ブータン王国の食料問題および農村の貧困問題の解決を目指します。本調査はブータン王国農業省、伊藤忠商事グループなどと協力して実施する予定です。
 なお当社は、バングラデシュ人民共和国にて、日本の農業技術の指導を行うことで現地農家による良質な緑豆栽培や、バングラデシュ人民共和国内外での緑豆販売のバリューチェーンの構築を行う『緑豆プロジェクト』を2014年10月より推進しており、その知見とノウハウを本調査に活用していく予定です。
 今後も当社は、経営理念である「人と地球を健康にする」ことに向けた取り組みを実施してまいります。
ユーグレナ社HPより

従って、冒頭から言っておくと、本書ではキヌアの話は一切出てこないので注意が必要である。僕はミドリムシからの事業拡大でどうやって緑豆やキヌアがスコープに入ってきたのかという経緯が知りたかったのだけれど、本書は2012年発刊であり、どうやら緑豆やキヌアはその時点では未だ同社のスコープには入っていなかったらしいというのがわかった。

但し、同社のプロジェクトを紹介したウェブサイトを読むと、バングラデシュでの緑豆栽培は2011年頃には現地で会社を立ち上げていたとあるから、本書の最後の方で触れられているバングラデシュでの事業というのがこれに当たるのだろうなというのは想像できる。

いずれにしても、熱いストーリーである。難易度の高い課題をターゲットとして選定し、課題解決に向けて様々な困難に直面し、それをなんとか乗り切り、そしてしまいには閾値を越えて事業拡大につながっていく―――感動的なストーリーとしては王道を行く内容である。でも駒場東邦から東大でしょ、所詮地頭が良かったからじゃないのとうがった見方もしたくなるが、そうした先入観があったとしても、ベンチャーとしての苦闘の連続には訴えるものがあると思う。著者は「この世に、くだらないものなんて、ない。」というのを訴えたいのだということだが、そこはゴメンナサイ。著者が誰からそう言われたのかはわからないけれど、人さまが取り組んでいるものを「くだらない」などとは僕は思ったことは一度もない。

ただ、著者の経験と同じレベルのことを、凡人の僕らにやれと言われても、やっぱりできないものはできないとも思う。それは、僕の子どもたちを見ていても感じる。やっぱり著者は高校・大学の時代から意識が高かったのだろう。でなければ、大学1年目にしてバングラデシュにインターンで出かけるなんてこと自体ができないし、大学生活最初の2年間でビジネスコンテストの企画運営に携わって人脈を広げるなんてこともできない。こうして培っていった人脈がその後著者が窮地に陥るたびに彼を助けることにもつながっていく。著者は計画的に順風満帆に生きてきたわけではないと言われるけれど、凡人にはそうは見えない。なるべくしてなった人なんだなという気はどうしてもしてしまう。

でも、これほどの大成功とはいわなくても、ほどほどの小成功ならなんとかなるかも。大きな市場では勝負できなくても、小さなニッチ市場狙いのエッジの効いた製品・サービスなら、勝負になるかもと思わせるところは本書にはあるかもしれない。そう考えさせる迫力は、本書には十分ある。

もう1つのメッセージはやはり、「成功は一夜にして得られない」という、当たり前といえば当たり前のことだろう。そしてこれが、失敗を恐れて行動につながらない、成功が簡単に得られるものでないと飛びつかないブータンの若者への強力なメッセージとなり得ると思う。著者は東京三菱銀行の行員だった当時、大学の先輩から「なぜ日本では起業する若い人が少ないのか?」と問われ、シリコンバレーのベンチャー企業がよく取る「シャドウイング」という手法を引き合いに、「仕事ができる経営者にまるで影のようについて回って、その人の仕事のやり方や1日の過ごし方をそっくりそのまま自分のものにしてしまう」ことを提案している。

著者は「新興住宅地のサラリーマン家庭に育った多くの若い人も、起業するということに対してリアリティを持てないのでは」とも述べているが、それは、「社会的な成功≒政府の仕事」という社会で育ったブータンの若い人が、起業というのにリアリティを持てないというのにも当てはまると思うし、そうすると、数少ないけれども現れ始めているブータン人の若手起業家のカバン持ちを、次の世代の若者たちにやらせるようなプログラムを、政府なり公的機関なりがもっと作っていくことが必要なのではないかと思えてきた。

成功者のほとんどは、最初の事業に確信があったわけではない。それでも事業を継続して、臨機応変に対応することで、現在のポジションを築くことができた。

自分たちが本当に正しいことをやっていれば、どこかに必ずそれに共感してくれる人がいる

とにかく何かを成し遂げたいならば、「やれ!」「人に会え!」「自分の思いを伝えろ!」という話

努力しているのにうまくいかなかったら、それはつまり、「もっと努力しろ」ということなのだ。

同社のキヌア試験栽培事業がブータンで事業化され、広く認知されるようになって来たら、日本の若手ベンチャーの走りとしても、努力しないで成功は収められないというところをブータンの若者に伝える機会をぜひとも作ってもらいたいものだ。

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《同社のキヌア試験栽培地のひとつ、パロ県南部》

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