『虹色のチョーク』 [読書日記]
内容紹介
「彼らこそ、この会社に必要なんです」――社員の7割が知的障がい者である“日本でいちばん大切にしたい会社"を、小松成美が描いた感動のノンフィクション。人は働くこと、人の役に立つことで幸せになれる――。
神奈川県川崎市にあるチョーク製造会社・日本理化学工業株式会社は、昭和12年に小さな町工場からスタートした。昭和35年に二人の少女を雇い入れたことをきっかけに、障がい者雇用に力を注ぎ、「日本でいちばん大切にしたい会社」として全国から注目を集め続けている。現在も社員83名のうち、62名が知的障がい者。一人一人の能力に合った仕事を作ることで、彼らが製造ラインの主戦力となり、社員のほとんどは定年まで勤め上げる。同時に、彼らの作るダストレスチョークは業界シェア1位を誇る。今でこそ福祉と経営の両面で注目を浴びるが、ここに辿り着くまでには数々の苦悩と葛藤があった――。本書は、日本理化学工業の会長や社長、働く社員、さらには、普段語られることの少ない障がい者のご家族へのインタビューを通して、「働く幸せ」を伝える一冊。
来る11月7日から9日にかけて、ブータンでは「GNH国際会議」というのが開催される。今年のテーマは「ビジネスのGNH」で、これは世界的にも有名なGNHという概念が、ブータン国内でもビジネスセクターでは未だ十分普及していないという問題意識に基づき、世界のビジネスセクターのGNH向上への取組みから学ぼうという趣旨で行われるものだ。そもそもブータンに「ビジネスセクター」なる大きなセクターが存在するかどうかはやや疑問なところもあるが、主催者の問題意識はよくわかる気がする。
現在僕はある日本の企業の方との共同での発表を考え、主催者の定めた日程案に沿って、既に論文の要旨を提出済みで、これから10月末までの間に実際の論文を書き上げなければならないという状況にある。また、この共同発表の相方の会社の社長にもお出ましいただいて、クロストークのセッションのパネリストの1人としてご登壇いただくことを画策し、一応主催者から内諾は取り付けている。これで最低限日本のプレゼンスは確保できたと思う。ちなみにこの会社は、社是に「しあわせ」という言葉を含めているアパレル製品のカタログ通販を専門にしている会社である。
こうした主催者への働きかけの中で、できれば是非社長をお招きしたかった会社がもう1社ある。それが日本理化学工業株式会社で、恥ずかしながら最近まで知らなかった企業だ。残り時間が少なすぎるので、コンタクトするつてもない同社に、ブータンまでの旅費(航空賃プラス滞在費)を自腹で負担していただくような話はさすがに持って行きにくい。泣く泣く断念したが、インクルーシブを地で行くような企業がどこまでの努力を払っているのか、世界にも知ってもらいたい取組みだと思っている。
本書のことは今月初旬、今月1回目の一時帰国をした際に書店店頭で平積みになっているので気付いていた。その直後に見たテレビ番組で本書の著者の小松成美さんが出演し、実際に同社に番組のロケチームが入って本書に書かれた記述の関連シーンを映像で収録、放映してくれたのを見て、是非これは読んでみたいと思ったし、こういう企業のあり方、障害者の就労というところでの工夫のあり方は、ブータンの人々だけではなく、国際会議に世界各国から参加されるゲストの方々にも、本来なら参考になるものだろう。
結局間に合わなかったけれども、場外でのコーヒーブレーク時の話のネタとしては持っておいてもいい情報と考え、今月2回目の一時帰国の折に、最優先で購入し、しかも本邦滞在中に一気に読み切ってしまった。(にも関わらず、ブータンに持ってきている。)
「人は人に必要とされてこそ、幸せを感じられます。楽しい、造り甲斐があると感じられる仕事があってこそ、人は誇りが持てるのです」という会長のお言葉が心にしみる。障害者を保護の対象として見るのではなく、社会の一員、労働の担い手として捉える必要性を、改めて感じさせられる。
社長の言葉も引用しておきたい。
「うちの会社は、働くことを諦めなければならなかった人たちにその機会を提供し、働くことが楽しく嬉しい、と真の喜びを知ってもらえる仕事を続けてきた。素直に、これ以上尊いことがあるのだろうか、と思えていったのです」(p.136)
「実際、章場で挨拶を交わし、ときには会話をしてみると、一人一人が懸命に今を生きていることがわかり、我が社の大切な労働力、職場になくてはならないパーソナリティーなんだ、と感謝が生まれます。そういう場面が少しずつ増えていって、私ははっきり気付いたのだと思います。私の使命は社員から働く喜びを決して奪わないことなのだ、と」(p.137)
以前、国立ブータン研究所(CBS)のダショー・カルマ・ウラ所長がおっしゃっていた言葉を思い出す。確かに保健制度や教育機会の拡充は幸福度アップにはつながるだろうが、それ以上に重要なのは、まっとうな仕事についているかどうかだ―――そうダショーはおっしゃった。自分自身の日々の暮らしの中でもそのことは感じていたので、ダショーのお言葉は非常に腑に落ちた。働く機会があること、人から求められていることが実感できること、これが企業に求められるGNHへの貢献ではないか。
そして、この働く喜びというものを究極まで突き詰めて、最も就業が難しいとすら思われてきた知的障害者をも大切な戦力として見て、自社の業績維持向上に努めてきた日本理化学工業のような企業こそ、GNH国際会議のような場で紹介されるのに相応しい。
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