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『武曲Ⅱ』 [読書日記]

武曲II

武曲II

  • 作者: 藤沢 周
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/06/05
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
天才ラップ剣士、高校三年生の冬の陣。恋と、受験と、さらなる剣の高みへ。青春武道小説シリーズ第2弾!

今、日本では映画『武曲』が公開中なんじゃないかと思う。原作となった藤沢周の『武曲』は今年1月に読み、難解な漢字や剣道の手拭いに使われる四字熟語の多さに戸惑いながらも、その圧倒的な筆力に攻め込まれながらなんとか読み切ったものだが、映画公開に合わせて、その続編が出たというので、さっそくキンドルでダウンロードして読んでみることにした。

表紙がはんにゃの金田かと思ってしまった(笑)。この表紙はどうかなと首を傾げる。前作を振り返ってみても、上段使いがいた記憶はない。百歩譲って羽田融が素振りをやる姿をイメージしているのかなとも考えたが、彼は確か光邑先生から譲られた重い木刀を使っていたんじゃなかったっけ?それに、この表紙の高校生は明らかに左上段の構えを取っている。最初から上段に構えているわけで、そういった怪訝な思いを抱きながら読み進めたが、結局劇中登場する上段使いは融の後輩の端役でしかなかった。思わせぶりな表紙だ(苦笑)。

前作は画数が多い漢字がやたらと目立ったが、続編はそれほどでもなく、読みやすかった。前作ほどの暗さはない。この部分は読者側の期待値とのギャップがあったのではないかと思うが、僕の好みで言えばこれくらいの軽さになってちょうど良いと思う。前作は「超」が付くほどの硬派な作品だったので、それだけでもちょっとした戸惑いがあったので。

さて、本作品を読みながら、同じ芥川賞作家の続編ということで、しかも剣道を題材として取り上げているということで、高橋三千綱の『九月の空』の続編『少年期』と比べてしまった。面白いことに、舞台や時代背景は違えど、評判の高かった前作では、『武曲』も『九月の空』も剣道部に入部した高校生を取り上げている。(『武曲』には矢田部というもう1人の軸があるが。)

でも、『九月の空』の方の小林勇は調布の高校1年生で、既に1年生の9月の時点で剣士としての旬は過ぎてしまい、高1の冬はバイトに明け暮れて剣道の稽古のシーンがあまり出て来なくなった。それを受けての続編『少年期』は、高3の頃を描いているが、もはや剣道は過去のものとして描かれ、勇はやたらと旅に出て旅先での女性との出会いが描かれる。高1時台のストイックな姿が消えて、なんだかやたらと軟弱な高校生に成り下がった感じがして、戸惑いが多かった。考えてみれば、高橋三千綱の場合、この2作品の間には14年ものギャップがあり、その間に『こんな女と暮らしてみたい』なんて作品を書いていた時期もあるくらいだから、『少年期』がそんな作品になってしまっても仕方ないことだったのかもしれない。

一方で、『武曲Ⅱ』の場合は、剣道を始めた時期も遅かったこともあるが、羽田融が高3になり、部活を引退する時期となっても稽古は続けるという、前作の世界観をしっかり引き継いで書かれている。受験勉強に専念するべき時期にそれをやらないという点、好きな彼女がいるという点では、『少年期』の小林勇とも共通するが、前作の熱が冷めないうちに書かれたという点では、前作とのギャップが比較的少なく、受け入れられやすい作品になっているおうに思う。

ただ、前作の時にも感じたが、ラップのリリックのネタになりそうな言葉をやたらと拾っている高校1年生という姿が想像しづらかったし、そういうことを一生懸命やっている割には、そのリリックをラップの形で披露するシーンが両作品でほとんどないのには戸惑いもある。動的な部分は殆どが剣道絡みで、何のためのラップなのか、単に羽田融を剣道に引き込んでいくための導線としてラップは使われただけじゃないかという印象だった。

矢田部研吾のことについてはこの記事ではあまり書いていないが、研吾のアル中は取りあえず克服できあ様子が描かれてはいる。しかし、今回の続編の主役は明らかに羽田融である。

相変わらず当地では稽古相手がおらず、悶々とした日々を過ごしているが、7月に来られる青年海外協力隊の方で剣道二段の方がいらっしゃると聞き、楽しみにしている。高地での剣道は切り返しだけでも相当に息が上がるので、激しい稽古は難しいけれど、2人いれば「剣道とはこういうものだ」というのを見せることができるだろう。間合いの攻防、息遣いを相手に読まれないようにすること、このあたりは矢田部と同じ段を目指す者として当然意識しなければいけない。そういうのを再確認する意味でも、また読み直すこともあるだろう。

とはいえ、こちらで稽古を始める前に、7月前半に一度日本に帰ることを最近決めた。日本で至急片付けないといけない仕事があるからだが、ついでだから公開中の映画『武曲』も見られたらいいと思っている。それまで公開していてくれることを祈りたいが。

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