『ユーザーイノベーション』 [仕事の小ネタ]
これまでイノベーションというものは、メーカーや研究機関からの専売特許と見られてきたが、インターネット技術の進歩に伴い、広く消費者にイノベーションの道が開かれるようになってきている。この「イノベーションの民主化」によって、企業の製品やサービスづくりが大きく変わり、多様なイノベーションが一気に広がろうとしている。それはまた、「消費者の叡智」をうまく取り込むことで、企業は少ない費用で魅力的な製品を開発できるようになることを意味している。本書は、消費者イノベーションについての世界最先端の研究成果をもとに、新しい製品・サービス開発と経営のあり方を説いたものである。マウンテンバイク、マスキングテープ、クックパッド、カヤック、初音ミク、レゴ、無印良品、エレファントデザイン、イノセンティブ、3Dプリンターなど、多くの先進事例も取り上げられている。>
1年半積読にしておいた本をようやく読んだ。元々この本は、当時会社の先輩から「オープンイノベーションを集中的に勉強する研究会を立ち上げないか」とお誘いを受け、自分の勉強用にと購入した文献のうちの1冊だが、その前に本書の著者の米国留学先での指導教官だったエリック・フォン・ヒッペルの著書『民主化するイノベーションの時代』を読んでしまい。それでかなりのエネルギーを使い果たしてしまい、その間に研究会自体は何度か行われたので、なんとなく読むタイミングを逸したのである。
『民主化するイノベーションの時代』については、二度読んでこのブログでも読後の感想を述べている。わりとしっかり書いているので、これを機にこちらの記事も読み直してみていただきたい。今回ご紹介している本の中で、最も自分的に「ピンと来た」のは、第4章「消費者はイノベーションを無料公開する」の記述である。しかし、改めてフォン・ヒッペルの著書を紹介したブログの記事を読み直してみると、その時にも僕自身がこのイノベーションの無料公開にポジティブに反応していることがわかる。
フォン・ヒッペルとその研究者ネットワークは、イノベーションの民主化に関して様々な実証研究を積み重ねてきている。それらを改めてマッピングし、誰がどんな研究をし、そこで何が明らかになっているのか、その研究の展開過程が紹介されている。これは本書の重要なポイントである。元々フォン・ヒッペルの原書は2004年に出ている。この点を取ってみてもその先見性は素晴らしいと思う。そして、その愛弟子による本書はその約10年後の発刊である。従って、フォン・ヒッペルの論点とその後の展開を追いかけ、アップデートするには本書は非常に有用だ。日本人による記述は翻訳よりも読みやすい。
折角だから、本書第4章の中から、幾つかの記述をここでご紹介しておこう。
ユーザーによって開発された製品やサービスが、そこから便益を得ることができる他の人たちに利用可能になることは、社会にとって価値があります。ユーザーが行うイノベーションが本人しか使えないと、同じニーズを持つ他の多くのユーザーが似たようなイノベーションを行ってしまい、しなくてもすんだ投資をしてしまう可能性が生まれてしまいます。それは社会的厚生の支援から見たとき、できれば避けたいことです。後の2つの引用は、それぞれ先行研究での発見について述べているもので、著者のオリジナルではないが、書いておいた。確か、フォン・ヒッペルの2004年の著書では、この「コミュニティ要因」については、情報公開の文脈ではあまり強調されていなかったと思う。
第一に、彼(彼女)らが自身が行った製品イノベーションに関する情報を無料で開示していること。第二に、コミュニティに属している消費者イノベーターはコミュニティメンバーの手助けによって、製品イノベーションを実現していること、第三に、メンバーを手伝うのは「一緒に何か作り出すこと自体が楽しいから」や「いつか自分が助けてもらうことがあるから」というコミュニティ要因と、「メンバーからの評判や尊敬を得たいから」という個人要因からなること
その動機とは、「そうすることがコミュニティの規範になっているから」「他者の助けとなることが嬉しいから」「より知識のあるメンバーからフィードバックが欲しいから」「他のメンバーから評判を得たり、尊敬されたいから」というものでした。
実はフォン・ヒッペルの著書をブログでご紹介した際には述べなかったのだが、フォン・ピッペルはケースとして欧米の企業やイノベーターばかりを対象としているので、ケースの親近感をあまり感じることができなかった。一方で、その愛弟子が書いた本書の場合、著者が日本人であることから、ケースとして日本のユーザーイノベーションの事例が豊富に取り上げられている。言ってみればその部分も本書の付加価値の1つだといえる。
今さらなぜこの本を読もうと思ったかというと、3週間ほど先にこれに関連したスピーチを当地でやらなければならなくなったからだ。当然、使用言語は英語である。今回本書を読んで、先行研究のマッピングと論点の整理はだいたいできたが、肝心なのはそれを英語で言えるかという点である。『民主化するイノベーションの時代』の原書も手元にあるが、そろそろこれを読み直してみる時期なのかもしれない。
Democratizing Innovation (MIT Press)
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2006/02/17
- メディア: Kindle版
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