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再生可能エネルギー国際会議 [ブータン]

4月3日から5日にかけて、ティンプー市内王立ブータン大学(RUB)講堂において、「第2回持続可能な再生可能エネルギー開発と設計に関する国際会議(International Conference on Sustainable and Renewable Energy Development and Design)」という国際研究会が開催された。主催はRUB傘下のプンツォリン科学技術カレッジ(CST)。CSTは元々学部の4学科しかなかったが、次の年度からエンジニアリングと再生可能エネルギーの修士課程を新設する予定。元々この国際会議は昨年11月開催を目指して発表者募集を進めていたが間に合わず、半年遅れでの開催となった。

会議には、スポンサーとなったカルナ財団やブータン財団関係者、それに研究発表でも米国、インド、ネパール、バングラデシュあたりから研究者が参加して、総勢400人を超える出席者があった。日本人の発表者はいなかった。共同発表者として1名名を連ねておられた筑波大学の方がいらっしゃったが、もう1人のドイツ人の方がプレゼンをやられていた。

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《経済大臣が主賓で出席した開会式の模様》

テーマとしては割と幅広い。僕たちが「再生可能エネルギー」と訊くと、太陽光や風力、バイオガスあたりをすぐに思い浮かべる。でもブータンに来て「再生可能エネルギー」の定義の中には水力が大きなウェートを占め、しかもこの国の水力はナショナルグリッドだから、送配電網も含まれる。それに、僕らはどうしてもエネルギーの生産サイドの方を中心に考えてしまうが、会議のセッションの中には、都市のビル設計を通じたエネルギー消費の効率化や、スマートシティ、環境教育なんてのも含まれている。

でも、この国際会議の扱いはクエンセルでは意外と小さく、記事が2つ載っただけだった。

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GNHの街を作るには
How to build a GNH city
Kuensel、2017年4月5日、MB Subba記者
*URLはウィルス感染のリスクがあるためご紹介しません。

【ポイント】
国際会議2日目のパネルセッションで登壇した米国の不動産デベロッパー、ジョナサンFPローズ氏は、場外でのクエンセルの取材に応じ、首都ティンプーがGNHの街とは程遠いとの感想を述べた。氏によれば、ティンプーは土地と渓谷自体のコストで拡大を続けていて、そこに住む人々と自然環境との調和を感じることはできないという。市は樹木に乏しく、公園のようなオープンスペースも少ない。シンガポールのデベロッパーは、高層ビルを建設し、より狭い土地により多くの人々を住まわせるよう仕向け、それによって節約できたスペースを公園や森として整備している。ティンプーにも10階建てのビルがあれば、半分の面積で同じだけの住民を収容可能。それで節約したスペースを公園や農園、森林として整備できる筈。

なお、同氏は下記の著書を昨年出版しており、その縁もあって今回会議に招聘された模様。

The Well-Tempered City: What Modern Science, Ancient Civilizations, and Human Nature Teach Us About the Future of Urban Life

The Well-Tempered City: What Modern Science, Ancient Civilizations, and Human Nature Teach Us About the Future of Urban Life

  • 作者: Jonathan F. P. Rose
  • 出版社/メーカー: Harper Wave
  • 発売日: 2016/09/13
  • メディア: ハードカバー

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世界にはバイオガスのような持続可能なエネルギーが必要
The world needs sustainable energy like biogas
Kuensel、2017年4月6日、MB Subba記者
http://www.kuenselonline.com/the-world-needs-sustainable-energy-like-biogas/

【ポイント】
バイオガスは1980年代にブータンにも導入された。クリーンで再生可能なエネルギー源として調理用に期待されたが、技術的な設計が貧弱でスペアパーツも入手困難、維持管理もきちんとなされなかったので既に廃れてしまっている。ジグミナムゲル工科大学のビクラム・チェトリ、ヘムラル・バッタライ両名による共同論文では、この10年、バイオガスは下水収集、農地、工業汚水処理等でコンスタントに利用が高まりつつあることが指摘されている。

ブータンのバイオガス市場の潜在性を評価する試みとしては、オランダの開発協力機関SNVが技術フィージビリティ調査を行い、続いてアジア開発銀行(ADB)がSNVと共同で市場規模の評価を行っている。これによれば、ブータンで費用対効果の高いバイオガス・プラントを導入できそうな家計は16,000世帯に上ると見られている。化石燃料へのアクセスには今後限界もあり、水資源にも限りがある状況。その中でエネルギー問題への方策として有望なのはバイオガス・プラントだと調査報告書は結論付けている。

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バイオガスについてはそうかなと思うが、1980年代の失敗の分析が記事からはあまり読み取れないのが残念。マーケット規模としてはそこそこあるので、スペアパーツは調達可能とは見られているかもしれないが、誰が維持管理するんだというところをどう克服していくのだろうか。国連某機関が大量に導入支援した改良かまどだって、利用する各世帯が維持管理をやらずに使い続けてから効果が落ちたとも聞く。

また、ティンプーで10階建ての(ブータン的には)高層ビルを建てて公園や森林用地を作れという発想も、地震が来た時大丈夫なのかというのが心配。ネパールのカトマンズを2012年夏に久々に訪れた際、バグマティ川のほとりにハイライズのマンションが建っていたのに驚いたが、2015年の大地震で相当な被害が出たと聞く。増え続ける人口を吸収するには空間を有効利用する必要が当然あるが、今のブータンの家屋で耐震構造と伝統的な家屋の構造が必ずしも調和しておらず、4階建てのビルでもかなり危ないらしい。ブータンらしい景観を維持しつつ高層建築物を設計するのは大変だろうと思うが、それが十分な耐震構造を持つものにできるのかどうか、技術の腕の見せどころだろう。

首都の緑化には高層ビルとは別のアプローチの仕方もあると思う。東京の皇居や明治神宮のような、大都市のCO2吸収源となる森を作っちゃうとか、下水処理施設を自然浄化方式にして地表は公園として整備するとか。いずれも日本の研究者や先行事例がある分野である。そういう代替策との比較考量もなく、高層化を鵜呑みにするのはどうかという気がする。

その他、比較的ブータンに近い位置で日本の業者さんが仕事されているケースとしては、1年前にワンデュポダンで出力300kWの風力タービン2基を建設された駒井ハルテックさんの事例もある。ブータン発の風力発電施設として注目されたものだ。こういうのの効果の実証研究でも発表されたら、どこかの遠い国の事例よりも親近感を持って受け容れられる余地がありそうな気がする。

この国際会議、もし今後も開催されるようなら、もっと日本の研究者や企業の方、あるいは当地でいろいろ取り組んでおられるJICAの関係者の方々が参加されたらいいんじゃないかと思う―――なんて書いたら、そもそもこの会議に顔を出してたお前は何してたんだと言われそうだが(笑)。ま、次回開催時に僕がもしまだブータンにいるようなら、発表することも考えておくとしよう。

最後に、この国際会議とは全然関係ないが、再生可能エネルギーということでは、もう1つ、太陽光パネルの写真を挿入した記事が今週クエンセルでは掲載されている。JICAの所員が2名、インドに調査に行って見てきたというマハラシュトラ州プネ郊外のビギャン・アシュラムのレポートである。

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農村での自給自足と生活技能の向上をデジタル工作機械で
Self sufficiency and life skills development through digital fabrication in rural areas – Experience of Vigyan Ashram, India
Kuensel、2017年4月4日
http://www.kuenselonline.com/self-sufficiency-and-life-skills-development-through-digital-fabrication-in-rural-areas-experience-of-vigyan-ashram-india/

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長いレポートだし直接的に太陽光発電を取り上げているわけではないので、レポートの要約はここでは紹介しない。でも、このレポートの趣旨から想像するには、インドの乾燥した農村地帯に行けば、太陽光は貴重なエネルギー源であること、それを電力や調理に活用するためのシステムをそこに住む人たちが自分たちで作ってしまうようになること、そうすればその維持管理も自分たちの能力ででき、スペアパーツも自分たちで加工して作れてしまう、だから持続可能なのだということなのだろう。

CSTが修士課程まで創設して再生可能エネルギーの研究開発を進めるというのであれば、このインドの農村地帯で行われている実践こそが、ブータンとしても手が届くような取り組みだということができるのではないだろうか。

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LargeKzOh

 こんにちは!
 貴重な情報、ありがとう御座います。

 日本の場合、水に恵まれ(、ある意味、恵まれ過ぎて、時により災害源にもなってしまうのですが)、広大な敷地の中にある少量水源を利用した発電設備を設けている工業所もあります。

 日本では平野は狭く、急峻な山地が大部分ですので、河川の水流は速く(⇒だから鮎の様な魚がきれいに育つ)、田畑に引いた小川からの発電も取り組まれている様です(小規模発電でも、数が集まれば、地方人口は少ない事から無視出来ない)。

 再生可能資源は地域地域で多種多様で、その利活用方法もいろいろです。
 お住まい地域に最適な利活用技術のご研究・開発に向けて、今後ご活躍される事を心より期待しています。
by LargeKzOh (2017-04-07 11:03) 

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