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『なぜデータ主義は失敗するのか?』 [読書日記]

なぜデータ主義は失敗するのか?:人文科学的思考のすすめ

なぜデータ主義は失敗するのか?:人文科学的思考のすすめ

  • 作者: クリスチャン・ マスビェア
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
ブレインストーミングからデザイン思考、ビッグデータまで、魔法のビジネスツールはどうして難局を乗り越えられないのか。人文科学的思考法をビジネスの場で用いるというのは、具体的にはどういうことなのか。データ分析だけでは激動の状況に対応できない。ならばどうすればいいか…多数の一流企業と協働するコンサルタントが明かす、難局を乗り越える思考法。

今週、春休み期間中の新中学二年生の次男からLINE電話で取材を受けた。お父さんの仕事について話を聞かせて欲しいとのこと。春休みの宿題というやつで、仕事について考えるという企画だったようで、いろいろ聞かれたが、その中の1つに、「お父さんのような仕事をするには、大学でどんなことを勉強したらいいのか」というのが含まれていた。

僕は、「(うちの三人兄弟の中で最も人たらしである)君に最も向いているのは文化人類学か社会学だろう。それに統計学をちゃんと勉強しておくとよい」というような回答をした。加えて歴史に関する深い造詣があるとお父さんの仕事にはかなり役に立つけど。

歴史の部分はともかくとして、ここで僕が愚息に対して言わんとしたことが、決して僕の今やっている仕事に直結してくるわけではない。僕は文化人類学も統計学も、系統立った勉強をしてきたわけではなく、必要に駆られて後から自分でかじったという程度のものでしかない。ただ、後者に関しては、今の世の中がこれだけ「ビッグデータ」「オープンデータ」と言われている中で、どの業界を目指すにしてももそれなりに必要とされる知識であろうというのは理解されやすいだろう。

では文化人類学はどうか。僕の今身を置く業界では大学時代に文化人類学を勉強したという人は結構多い。統計学的に有意に多いだろう。でも、「父親と同じような仕事を目指すなら」という仮定を取り除いても、文化人類学の適用可能範囲はもっと幅広いのではないかと思う。

本書はまさにそこの部分を主張している。タイトルが「データ主義=失敗」を想起させる点については納得いかないが、内容的には人の行動の背景を理解することも重要だということで、二者択一ではなくどちらも必要ということを言わんとしているのではないかと思える。

要はそれだけのことなのだけど、いかにも欧米の書籍の邦訳だけあって、320ページもの紙面を割いて、延々と述べている。ケースも少ないが紹介されているが、これまた冗長な描写が続く。僕は少し前にご紹介した本の中で、企業がエスノグラフィ調査チームを使って自社製品の使われ方を調べ、人の行動の文化的背景に対する洞察を深めたという事例を読んでいたので、本書の内容は最初の数ページを読んだだけでなんとなく想像ついてしまい、後は冗長な記述を全部すっ飛ばして流し読みしてしまった。

263ページに、スティーブ・ジョブズの自叙伝からの引用がある。「文系と理系の交差点に立てる人にこそ大きな価値がある」―――結局、本書は一貫してこのことを言いたかったのではないかと思う。(とすると、この「交差点」という言葉をタイトルに用いている「あの本」も、主旨が想像ついちゃうなぁ。)

既存のやり方には限界もあって、それをブレークスルーできるのが人文科学領域の知見だという主張はよく理解できるし、それを取り入れるためにリーダーはいかにあるべきかも本書では書かれている。でも、長い割にはそれじゃ人文科学領域の知見を導入するには具体的に何をやったらいいのかというところにはあまり触れられていない気がした。これでうまくやった企業のケースを読んでいると、それじゃそういう知見と方法論を持った専門家を外部から雇えばいいという安易な結論にたどり着く気がしてならない。

エスノグラフィ―調査の手法は、別の本でもう一度確認するとしよう。

ところで、本書で僕が特に面白かったのは第3章。課題解決のための創造的なソリューションを見つけ出すためのワークショップでありがちなパターンを冒頭で具体的に描いているが、まさに僕自身が今までに見てきたワークショップの中にもそういうパターンに陥ったものが多々あり、盛り上がらない上に最後は発表時間が迫ってきて一部の参加者が鉛筆舐めて何となく書いちゃうというのを見てきた。ブレストも多くの参加者の貴重な時間を奪って行われる割にはいいアイデアがそれほど出てこないというのもありがちだ。

僕は正直あまりワークショップやブレストと呼ばれるものが好きではないので、そのうまくいかないパターンを描いてくれたこの章は溜飲を下げる思いであった。
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