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『農山村は消滅しない』 [仕事の小ネタ]

農山村は消滅しない (岩波新書)

農山村は消滅しない (岩波新書)

  • 作者: 小田切 徳美
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 新書
内容紹介
増田レポートによるショックが地方を覆っている。地方はこのままいけば、消滅するのか? 否。どこよりも先に過疎化、超高齢化と切実に向き合ってきた農山村。311以降、社会のあり方を問い田園に向かう若者の動きとも合流し、この難問を突破しつつある。多くの事例を、現場をとことん歩いて回る研究者が丁寧に報告、レポートが意図した狙いを喝破する。
夏休み明けの最初の1冊は、これまた年明けに購入して以来放ったらかしにしていた1冊である。当時は新聞書評でも頻繁に取り上げられた1冊で、昨年夏に出た増田寛也著『地方消滅』(以後、「増田レポート」)への反論として注目された。増田レポートが今後急激な人口減で消滅の危機に瀕する「消滅可能性都市」が急増するという予測と、首都圏が強力な人口バキュームクリーナーになる事態を抑制する政策を提言し、地方都市の衰退制御を指向していたのに対し、農山村の切り捨て「農村たたみ」だと批判し、農山村の豊かな可能性を本書で論じている。

増田レポートという社会的にも非常にインパクトの大きかった人口動態予測と政策提言を批判的に論じることで、著者の長年の調査経験を披露し、読んでもらおうとする試みである。僕は増田レポートのベースとなっている人口動態予測が間違いだとは思ってない。でも、結論としての政策提言がやや地方都市にフォーカスし過ぎていて、その後背地である農山村に住んでいる住民の心境への配慮があまりないなという印象は確かにあった。だからといって、ここまで増田レポートを批判する必要があったのかどうかは疑問で、こうして社会的影響力のあった文献に対して執拗に反論を展開するような小判鮫的な論法ってどうなのかなという気はした。なんだかピケティの『21世紀の資本』が売れまくった今年前半に立て続けに出版されたピケティ関連本を見ているようだ。そういう手法で、本は売れるかもしれないが。

農山村の豊かな可能性をポジティブに捉えていて、未来に希望を抱かせる点では好感が持てる本である。特に、著者のフィールドである中国山地の農山村における先進的な取組みの分析をもとに、村おこしの取組みを、➀暮らしのものさしづくり、②暮らしの仕組みづくり、③カネとその循環づくり、という3つの要素の組み合わせだと整理し、全国各書の村おこし、まちおこしの取組みを見るための枠組みとして一般化している点は評価できる。ちょっと前に木下斉著『稼ぐまちが地方を変える』を紹介したが、この本は主には③の要素の重要性を指摘していたものだが、よくよく振り返ってみたら➀、②の要素も含まれていたようには思う。

だが、正直言うと、課題先進地区の取組みを読んでいるうちに少し嫌気もさしてきた。それらの地区の住民の取組みや自治体の取組み、いろいろ書かれているのだけど、それらの制度化に関わった人々の顔がほとんど見えてこないからだ。ひとつひとつの取組みが秀逸だったというのはそうかもしれないが、各々の制度がどのようにして形成されてきたのか、誰が問題提起し、誰がどう動いたから制度化につながったのか、実際に導入されるまでにどのような困難があったのか、それをどう乗り切ったのか、実際に制度導入されてみて、住民の生活はどう良くなったのか、等がほとんど論じられていない。単に導入された制度の羅列に終わっている。それらすべてが必要だったのか、それとも目玉となるような施策があったのか、あったとしたらどれなのか、といったことがわからず、読んでて面白くなかった。

一方で、「田園回帰」に関する記述はなかなか惹かれた。特に、2009年に政策導入されて5年が経過した「地域おこし協力隊」のインパクトに関する記述はすごく良かったと思う。この間東日本大震災の影響等もあって青年海外協力隊の応募者数はかなり減少したと言われ、若者の内向き志向が強まったと嘆かれているのを僕は横目で見ていたけれども、応募者数減の大きな理由が何かといえば、「地域おこし協力隊」がそれだけ成功しているからだとも言える。本書を読むと、「地域おこし協力隊」の派遣隊員数は現在1000人に近づいてきているらしい。途中、生田斗真君主演の『遅咲きのヒマワリ』のようなテレビドラマも放映されたりして、地方の現状とそこで果たす外部者としての協力隊員の役割への理解が進んできた。派遣されれば任地の自治体や地域住民の理解や受入態勢の整備もそこそこ進んでいて、必要とされていることが実感でき、かつ任期終了後の展望についてもイメージしやすいので、「地域おこし協力隊」が普及するのはなんとなくわかる気がする。それに匹敵するようなパッケージを「青年海外協力隊」は必ずしも見つけられていないのではないかと、本書を読んでいて感じた。

ただ、こうして大都市から地方の農山村へ流入する若い人々へフォーカスするのはいいにせよ、反対に流出した人々もいたわけで、そういう人のストーリーも聞かないと、「田園回帰」のイメージを示す上ではフェアじゃないんじゃないかという気もした。


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